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「ちょ、ちょっと待ってください! 落ち着いて下さい!」


 手を大きく広げ、それを前に出し、静止を促すゴウマは、そうなことを言い出した。立派な角を持ち、子供が見たら泣き出しそうな面構えをして、更に役職は魔王でありながら、言っている内容がクレーム処理係のようであった。


「うるさいんじゃボケ! どう落とし前つけるんじゃコラ! おおう!」


 たちの悪いクレーマー化としたアルフは、そんな静止要請など食べ物の恨みの前では関係なく、ズカズカとその歩みを止めない。


 あれ? クレーマーのドキュメンタリー番組かな? 

 ……、よし、この隙に勇者を助けに行こう!


 と、思い俺は行動した。案の定、ゴウマはクレーマーに気を取られて俺に気づいていないようで、勇者が埋もれている場所まで簡単にたどり着いた。そして、粉々に砕かれた岩の中から足だけ飛び出している周辺を掘りおこし、血だらけの勇者を発見した。グッタリとした勇者の口元へ手をかざすと、わずかに息をしている。アルフの言う通り生きていた。


「おいっ! 勇者、大丈夫か?」


 耳元に声をかけると――


「マ……、マ……、サ……、オ……」


 と、返事が返っきた、意識はあるようだ。

 ホッと肩をなでおろすと、勇者は必死に何かを伝えようとしてくる。


「あ……、ひ……、と……、り……、で……」


 一言一言と言葉を区切り、痛みを必死に堪えるような歪んだ顔で俺に何かを言おうとしていた。そんな痛々しい勇者に対して俺は答える。


「安心しろ! もうすぐアルフが、あのクソッタレ魔王を倒してくれるから! そうしたら、すぐに洞窟前で待機してる、アンタの仲間を呼んできてやる! だから今は、あまり喋らないほうがいい」


 そんな俺の言葉を聞いた勇者は、目線だけをアルフたちの方へと向ける。

 そして俺は続けた。


「ほら、見えるだろ? あの魔王がビビってやがる! あのチビが、あそこまで追い込んでいるんだぜ、凄いだろ! だから安心してくれ!」


 安心させようとして言ったことだが、勇者は俺の腕を掴んだ。


「ハァハァハァハァ……。ひ……、と……、り……、で……。……、し……、なせ……、るな……」


 その目は真剣だった。そして、その事を伝えることが目的だったかのように勇者は、そのまま意識を失った……。

 

「一人で、死なせるな? 死ぬって、もしかしてアルフのことか? 死ぬも何も今から魔王ゴウマがを倒すところだろ? 何を言って――」


 意識を失った勇者に対して、そんな事を言っている最中だった。


「それ以上、近づかないでください! 謝りますから!」


 と、魔王ゴウマの声が俺の耳に届く、俺の顔は自然と笑みが浮ぶ。

 

「ほら見ろ、魔王はビビりまくって命乞いまでしてるぜ!」


 ジリジリと詰め寄るアルフ、怯えるように後ずさりするゴウマ、そんな構図を見て、俺は嬉しくてしょうがなくなっていた。それは――


 アルフは、俺に変な呪いをかけ、借金を背負わせ、こんな理不尽なクエストをやるハメになった張本人、だから出会ったことを正直後悔していた。だが、今は違う。この闘いの中で、何度も絶望を味わい、死を覚悟する状況になっても、アルフは何度も助け励まし続けてくれた。俺が今、正気でいられるのは全てアイツのおかげだ。今ならハッキリ言える、俺はアルフと出会えて本当によかった。


「よし! やっちまえアルフ!」


 と、その嬉しさを声にあげた。 



 しかし……、次の瞬間だった――



『バシッ!』



 と、馬の尻をムチで叩いたような音が響いた。

 そして、全ての物事はガラリと変わる――


「え?」


 今起きた事に、それしか言えなかった……。

 それは――


 目の前の光景は、まるでスローモーションを見ているように、鮮明に映った――それは、魔王ゴウマが壁際に追い込まれ、それでも歩みを止めないアルフ姿を確認した瞬間だった。近づくアルフを振り払うように右手を振り回していた。それは顔の周りを虫が飛び回り、手で振り払うのと同じように。そして、その右手がアルフの体に当たった。そして――


 アルフは、宙へと舞っていた……。


 信じられないほどの高さまで浮き上がり、そのまま大空洞の天井まで届き、そして衝突した。その後は、魔王が振り払った弁当の肉と同じピンボールの玉のように壁に跳ね返り、そして地面に叩きつけられた。弁当の肉と大きく違うのは、地面に転がった肉の下に、真っ赤で大量のソースなんてなかったことだ……。


 え? え? え? う、う、嘘だろ? 目の前の光景を素直に受け入れることなんて出来るはずがない……。アルフは倒す方法があるから、魔王に向かって行ったはずだ……。そんなはずがない! きっと、ケロッとした顔で起き上がるはずだ!


 希望を捨ててない俺は、アルフを見続けた。

 しかし――、元魔王の彼女は、そのまま動かなかった……。




 そして……、やってくる『生命同期』の呪い――




「ぐあ! あ! あ! あ! あああああああああああああああああああ!」


 自分が声をあげていることに、今気づいた。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――なんだこの痛み? クソッ! なんなんだよこれ! 


 立っていられない……。


 身体の中心から何かが暴れているようだ。

 ハァハァ……、どうすれば……、何か助かる方法があるはずだ……。

 考えろ……、かんが――



 あっ! ダメだ……。


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