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 魔王に立ち向かう気持ちは、どこか遠くに飛んで行ってしまい不甲斐ない自分にショボーンとしていると、アルフはニつ目の肉に手を出し始めていた。


「なあ? これから殺されるかもしれないのに、よく食欲あるなぁ?」


 先程まで食べていたより一回り大きいサイズの肉に、大きく開いた口でカブりついた。そもそも、それらをどこにしまっていたのか気になるが、アルフは食レポ顔負けレベルに美味そうにモグモグさせ答える。


「なんじゃ、食欲ないのか? ダメじゃぞ! そんなんじゃ病気になって早死にするぞ!」

「いやだから、早死も何も今から病気じゃなく物理的に死にそうなんだけど……」


 コイツは今の状況を理解してるのか、ただ頭が病気なのか理解に苦しむ。俺が気にしていることも知らずにアルフは、そのデカイ肉に対して再びカブりつこうとした時だった、俺らの背後から嫌な圧迫、気配が近づいてくる、見なくても分かる、俺らを死に追い込もうとする者だ……。


「オーホホホ! アルフさん今の見てました? この世界最強の勇者さえも一撃ですよ! オーホホホ! もう、先程のように落ち着いていられませんよ。……、って! アナタ何してるんですか?」


 牽制すべき相手が食事をしていることに驚いているようだ。

 そりゃそうだ、俺も同じ気持ちだ。


 魔王ゴウマのノリツッコミのようなリアクションに対して、この大食い娘は、何一つ気にせず食べ続けいた。そして、口の周りを肉の脂でギトギトにさせながら答える。


「なんじゃ? 食べておるのじゃ、見てわからんか?」


 デジャヴかなっと思わせるくらい同じ流れである。

 自分の強さを見せつけてマウントを取った気でいたゴウマは、


「いや……、なぜ食べてるんです?」


 びっくりするくらい俺と同じ反応でゴウマに対して親近感が湧くレベルだ。そんな俺と魔王ゴウマを同じリアクションさせた張本人は、相変わらず食べ続け、そして二度の同じ質問に対して答え始めた。


「あぁ、コレはのぅ、さつきまでいた町の飯屋での料理でな、ここにいるマサオが、たくさん残してしまってのぅ、どうせ後でお腹が空くじゃろうから、残り物を包んでおいたのじゃ、後で食べれるようにな!」


 な、何を敵に話してるんだ? 近所の人との立ち話と違うんだよ! おま、お前って奴は…、本当にお母さんかよ! 


 俺のことを他人に話している母親のようで、すげぇ恥ずかしい……。そして、俺と同様に、その世間話の相手にさせられた魔王は、小刻みに震えていた。


「ふ、ふ、ふざけんなぁぁぁ! ワタシとの戦いを何だと思っている! こっちは真剣なんだ! さっきから、そうやってワタシをバカにして!」


 ゴウマがキレた――。

 怒る気持ちは分かる、俺があいつの立場なら同じようになるかもしれない。


 そんなゴウマを見て、さすがに察したのかアルフは食べる手を止めた。

 そして――、


「うん? 何を怒っておるのじゃ? わからん奴よのぅ。……、あっ! そうか、そういうことか!」


 何かに気づいたアルフに俺は、少しホッとした。今は生きるか死ぬかの場面、ランチを楽しむ場ではないのだ。そして、アルフが次にとつた行動は――


 ガサゴソと懐をまさぐり始め、何かを取り出した。それは、今、食べている肉より一回り小さい骨付き肉だった。そして、ソレをゴウマへと差し出す。


「もっと早く言えば良いのに。お主も腹が減っておったのじゃな! 気づかないで余だけ食べて悪かったのぅ」


 その場の空気が凍った――。

 差し出された骨付き肉からポタポタと脂が滴り落ちる音だけが響く……。

 目の前の光景に魔王ゴウマの怒りは、過去最大級になる――


「いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 そう怒鳴ると、差し出されたモノを手で振り払った。


 飛んで行った肉は、天井にぶつかり、壁にぶつかり、まるでピンボールの玉のような動きをして、そして静かに地面に落ちた。地面に転がっている骨つき肉は、傷だらけ砂だらけになり、食べれる状態ではなくなっている。

 

 転がっている弁当の肉を眺め、虚しさと切なさを感じ、そして目線をアルフへと戻す。


 そこには――鬼がいた。


 今まで見たことのない表情のアルフ。眉間は、これまでかっていうくらいシワを寄せ、鋭くつりあがった目つきは見えているのか分からないくらい細くなっていた。


「キサマァァァァァ! 食べ物を粗末にしよって! 許さんぞぉぉぉ!」

 

 アルフもキレた――。

 食べかけの肉を丁寧に袋へと包むと、ゆっくりと立ち上がり、ゴウマに向かって一歩ニ歩と近づいて行く。


 アルフの怒りに驚いたゴウマは、一歩ニ歩と下がった。


「な、何なんですか急に? ワ、ワタシは勇者を一撃で倒せる力持ってるんですよ!」


 と、急な展開についていけてないゴウマは、魔王と思えない発言が飛び出した。

 それに対して、もったいないオバケでも取り憑かれてしまった少女は――


「だからなんじゃ!」


 と、一喝。

 そして、その歩みは止まらない――。


 その瞬間、俺は確信した。

 意味不明な行動や実家にいるような落ち着きよう――そして今の行動……。


 アルフには、ゴウマを倒す手段がある!


 もともとアルフが、今の現状に恐怖すら感じてないように見えていたのは、ただのポーカーフェイスかと思っていた。余裕な態度を見せることで相手をビビらせ、そして退かせる。しかし、今まさにやろうとしているゴウマへの進撃は、精神的だけじゃなく物理的に勝つ手段がなければ絶対に出来ない行動だ。今までいろいろと考察はしてきたが、今回は絶対だ。今回こそ、今回こそ、確実に生き残れる!


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