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「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
人が死んで叫ばない人間なんていない……。
放心状態になった俺は、全ての力が抜け、足元から崩れるように、その場に座り込んだ。圧倒的強さを見せつけた魔王ゴウマは、俺等の声の届かない距離まで離れていた。俺の頭の中はぐちゃぐちゃ、考えることができなくなり、俺はアルフへと助けを求めた。
「お、お、おい! ど、ど、ど、どうしよう……、勇者が……、勇者が……」
理想の主人公ってヤツは、こんな状況下でも冷静沈着で、どつしりと構えているものだ。俺みたいに、あたふた慌てるヤツは、主人公の引き立て役と相場は決まっている。情けない自分を無駄に自己評価しながらアルフへと目線向けると、そこには目を疑う様な信じられない光景が広がっていた――。
仲間である勇者がやられ生きるか死ぬかの緊迫な状況下にアルフは、地べたに大きくあぐらをかいて座り込み、両手で骨の付いた肉を掴み、それを無我夢中に食していた……。そんなコイツに対して俺は、こう言った。
「ねえ、何してるの?」
俺の問いに対して彼女は、目の前の肉から俺へと目線を変える。
「食べているのじゃ、見てわからんか? モグモグ!」
「いや……、何で食べてるの?」
「ああ、これか! コレはのぅ、飯屋の残りモノじゃ! マサオいっぱい残して行ったじゃろ? それを包んでおいたのじゃよ。後々お主が、お腹が空いたって言い出しても大丈夫のようにな! 偉いじゃろ? なんじゃ、案の定お腹ペコちゃんか?」
え? 何これ? お母さんかて? 俺のためと言いながら、お前が食べてるじゃん……。っと、俺の頭の中を過ったが、今はそんな状況ではない!
「ちがうだろぉぉぉ! そんなこと聞いてねぇよ! 分かっての? 勇者が殺されたんだぞ!」
声を荒げる俺に対して、それでも肉を放さないで食べ続ける少女は、ジト目で俺の問に答える。
「なんじゃ? モグモグ! そんなことか、安心せい。モグモグ! まだ勇者は生きておるぞ、瀕死じゃがな。モグモグ! アイツ攻撃を受ける瞬間、時を止めて急所だけは避けたのじゃな。モグモグ! じゃがな、早く治療しないと死ぬど。モグモグ!」
「えっ!?」
超大事なことを、モグモグさせながらサラッと言うアルフ……。
そんなモグ女に困惑しながらも、ここから俺の葛藤が始まるのだった――。
生きてくれたことには正直ホッとした。しかし、これから先どうすればいいんだ……。勇者を医者のもとへ連れて行きたくても、この周辺にはゴウマが張った結界のせいで出ることも出来ない。魔王ゴウマを倒すことなんて、勇者ができないなら俺らに出来るはずがない……。もう、諦めるしか――、いや! 諦めちゃダメだ。人の命がかかってるんだ、いつものように嫌になったらやめるなんて許されることではない。勇者は俺らのために命を賭けたんだ、俺も命を賭けないとフェアではない。レベルが5だろうが、異世界に来て初日だとか、関係ない。そもそも俺のせいじゃないか、魔王のチカラを失っていることがバレたのは……。それもこれも今まで命を賭けたことない甘ちゃんだからだ。ここは異世界だ、命張ることくらいしないと来た意味がない。たくさん読んできた主人公たちは、ここで立ち向かうはずだ!
俺の中で何かが変わった。客観的に自分を評価してヘコむのは今日で卒業しよう。理想の主人公に向かって一歩踏み出すんだ! 今の状況どう転んでも、ここで全滅するのは目に見えて明らか、それなら最後は理想の自分でありたい。あれ? 今の俺、めちゃくちゃカッコイイじゃん!
精神勝利法を会得した俺は、黙って立ち上がり目の前の剣を握り締めた。
そして覚悟を決め、その剣を引き抜く!
――しかし、
「ん?」
あれ? 引き抜けない……。
片手で抜こうとしたが、びくともしない。深くまで突き刺さっていて抜けないと思い、両手で強く握り、力いっぱい引き抜こうとした。
「ぬおおおおおおおおおおおおおお!」
しかし、抜けない……。
「あ、あれ?」
もしかしたら、この剣に拒否されているかもしれない。俺は心の中で、剣さんに訴えかけた。――俺じゃ使い手として不服か? お前の主人を助けるためなんだ! 頼む!
――っと。そして、再トライ!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
しかし、まったく抜けない様子がない……。
あれれ? 自分の中でいろいろ考え、めちゃくちゃカッコつけて、剣が抜けないって恥ずかしくない? あれだけ自分語りしといて、魔王に立ち向かう前にコレってヤバくない?
っと、そんなことを考えていると、骨つき肉を食べ終えたアルフが、自分の指をペロペロさせながら――
「その剣、引き抜こうとしておるが、マサオじゃ無理じゃぞ。そもそも筋力が全然足りんのじゃ、持ち上げることもできんぞ。怪我するからやめなさい!」
――っと、怒られた……。
最初に思ったこと……、それは――お母さんかて? だった……。
客観的に自分を評価してヘコむことへの卒業は、まだまだ遠い――。




