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その後の魔王ゴウマは、魔王の風格を復活させたからなのか、それとも勝ちを確信して安心したのか、ここからゴウマの口はしばらく止まらない。
「アナタが気づいたであろう『ワタシがアルフさんのことを恐れている』ってことは、正しいです。更に女神から聞かされた情報通りの魔王が、アナタなんかと対等にしていることに余計混乱したことも事実です」
やはり俺の考えていたことなんて、全てお見通しのようだ。ただ、アルフを恐れていたことを、いともあっさりと言ってしまうことには違和感を感じてしょうがない。だって、ヤツと会ったされる女神が、どうアルフのことを伝えたとしても、現状レベル99までしか存在しない世界で、レベル350にもなっている魔王が恐れるってことはあるのだろうか? かなりの慎重派なのか? それとも……。
その後も、ゴウマの話は続く――
「しかしながら、そのことによってアルフさんの現状が二通りに絞られる要因にもなりました。1つ目は、あなた自身が魔王アルフと同等の力を持っていること。そして2つ目は、アルフさんがなんらかの原因で魔王の力を失い、人間と変わらないチカラしかないことです」
魔王ゴウマの目は鋭く赤く光り、我々を映し出し、そして続けた――
「もし1つ目ならワタシは撤退以外ありえません。そして、もし2つ目なら簡単に倒せるチャンスでもあり、尚且この機会を逃して今後アルフさんが魔王の力を取り戻すリスクでもある。まぁ、普通なら最悪のことも考えて撤退する以外ないのです。しかし本当に女神が言う通りの力をアルフさんがお持ち場合は、ワタシには倒す手段なんてありません」
力を取り戻したら倒す手段がない? なに? アルフってそんなに強かったの? どういうこと? レベル350の魔王が、そこまで思わせるレベルって……。
そして――
「例え魔王の力を失ってたとしても、そんなこと教えてくださるわけもなく調べる方法もない。まぁワタクシにとっては、完全不利な状態だったんです。ですが、アナタの方から教えてくださったんです、『魔王アルフは力を失ってる』って!」
「え? 俺はそんなこと言ってないぞ!」
「いやいや、言ってましたよ、遠まわしに。アナタもワタシの状態を知って虚栄を張ったのでしょ? なぜ、あんなことを言い出したんですか?」
「あんなこと?」
「自分は強いと」
「は?」
「分かりませんか? なぜアナタは、ワタシが恐怖していると思ったのですか?」
「そ、それは……、レベル350もある魔王が突然武器の説明を始めたから……」
「その通り、ワタシは脈絡もなく『エクスピアリアンス・サイズ』の説明をした。その目的は、牽制と虚栄です。本来、身代わりを使いアルフさんの実力知るはずでしたが、この世界の勇者に倒されてしまって見ることできませんでした。このまま魔王アルフのチカラを知らないまま戦うのは、あまりにも危険過ぎる。だから虚栄を張って相手の反応を見る。しかしそれは、自分が不利ではある証明でもある」
ここまで説明されて、ようやく自分の過ちに気づいた。要するに、ゴウマは自分が不利だから虚栄張った。それに対して俺は、気づいてたのに馬鹿みたいに調子に乗って俺も虚栄を張るから、こちらが不利=アルフは魔王の力を失っていると気づかれた……。たしかにそうだ、ビビらせようとしたことが、逆に相手を安心させていた。弱い奴ほどよく吠えるとは、よく言ったものだ……。
自分のバカさ加減に呆れても、ゴウマの話は続いた。
「戦いなんてものは、勝てる勝算があるかないかだけなのです。あなたも言ってましたよね、情報収集は基本だと。特に命を賭けた戦いで、一か八か、戦ってみてどちらが強いか試すなんてことは、バカがすることです。ちなみにアルフさんは、全て分かってらっしゃったようですよ。アルフさんは、全ての会話を無関心で答えられた。有利な状況からすると最高の攻撃方法です。ですから、先程の会話をアルフさんが相手をして、全てに対して無反応でしたら撤退しかありませんでした。わざわざボロを出すようには感じませんでしたから。しかしながらアナタは、面白いようにしゃべって下さった。アナタの方が断然有利のな状態なのに!」
俺は馬鹿だ……。全て俺のせいじゃないか。何の力もないからって、相手の弱さを見つけて調子に乗り、気持ちよくなって自分から墓穴を掘った。アルフは全て分かっていてやっていたことも知らずに、ゴウマを怒らせないようになんて余計なことをしていたのか……。あのままアルフに任せておけば、俺ら全員生き残れていたのに。余計なことしてしまった……。そうか、あの時、悲しそうな演技していたのは、俺に合わせたんじゃない。俺がやっていることに悲しんでいただけだったんだ……。
そして俺は、そっと横を覗いた――そこには、何も言わず、表情一つ変えないアルフがいた。
そうしてゴウマの演説会は、このように締めた――
「オーホホホ! なぜ、こんなド素人に心理戦を任せたのか疑問が残りますが、これ以上、詮索する必要もないでしょう。さぁ、死になさい!」