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3

 神殿の中は、中世ヨーロッパの建物ような造りである。

 壁の色は全て白で統一され神秘的に感じられた。

 綺麗な家具もあるが、なぜか誰かと争ったような状態で全て床に転がっている。

 さらに目を引いたのが部屋の壁にぽっかり空いた大きな穴だった。

 その穴は隣の部屋の壁まで空いていて、外まで続いているように見える。


「なんだこれ?転生の神殿って聞いてたけど、随分散らかっているなぁ」


 辺りを見渡すが女神が見当たらない。


「なんだ? ココにいるって言ってたのに、便所でも行っているのかなぁ」


 女神が便所に行くかの真相はわからないが、通常な状態ではないことは分かる。


「まいったなぁ、これじゃ転生できないだろ……、もう一度、戻るか?」


 どうすればいいか分からず、神殿内をウロウロしていると――


「イタタタ……、マジでありえないんだけど。普通、女神殴る? クソ魔王マジでムカつくわ!」 


 穴の空いた壁の部屋から声が聞こえてくる。

 声の主は、純白なワンピースを着て、金色の長い髪、目は透き通った青い瞳。

 そして、とても綺麗な顔立ちをしていた、海外のモデルを連想させる。


 しかし、口と鼻から血を垂らしていた……。


「あっ? アンタだれ?」


 怪我だらけの美女はそう言うと、口に溜まった血を「ぺっ!」と吐き捨てた。

 外見から想像出来ないワイルドな行動に戸惑うしかできないでいる。


「あの、すいません。先程、ユイって言う天使から言われて来たのですが……、もしかして女神様ですか?」


 この女性の発する威圧感が萎縮させる、もちろん転生ボーナスのためであるが。


「まぁ、そうだけど……。もうこんな時間か~ダルいわ~」


 女神は豪華な椅子に腰掛けると、足を組み大きなあくびをした。

 ――イメージと違いすぎる……。


「それで、アンタ転生者なわけ?」

「あ、はい! 転生者のマサオと申します」


 深々と頭を下げる。

 カツアゲされた時のことを思い出していた……。


「ふ~ん」


 少年のことをシロジロみると、手を広げ何もない所から書類を出し見始めた。


「うんうんうん、フフフ……、よくこんな経歴で転生者に選ばれたわね?」


 笑いながら言い放つ。


「え~と、転生者は経歴で選ばれるものなのですか?」

「当たり前じゃない、怠け者や悪党が転生できるわけないじゃない」

「そうだったんですか……」


 少年は急に顔を青ざめる。

 非常にマズイ、経歴では凄くマズイ……。

 その書類には、黒歴史も書かれているかと思うと恥ずかしくて仕方ない……。


「基本、転生者は以前いた世界で人々の役に立ってた人が選ばれるシステムなの。適当に生きた人間が選ばれたって、次の世界へ行っても迷惑かけるだけでしょ?」


 マズイ……、マズイ……。

 もしかしたら転生自体をないことにされるんじゃないか?

 下を向いたままチラチラと女神を見ては、冷や汗が垂れてくるのを感じていた。


「まぁいいわ、選ばれちゃったことはしょうがない、ちゃちゃっと転生しますか」

「はい! ありがとうございます!」


 ホッと肩を撫で下ろししたが、懸案事項が残っていたことを思い出す。

 このまま転生しても普通の生活しか待ってない。

 俺は異世界デビューがしたいんだ。

 ここで一つでも有利になるようなボーナスを貰わなければ……。

 少年は恐る恐る口を開く、


「あの、厚かましいことなのですが……。転生する際、特殊な力とか装備とか頂けるボーナス的な物はないんですか?」


 女神の鋭い視線がマサオを刺す。


「は? 本当に厚かましいわね。こんな経歴でそんな物が貰えると思ったわよ!」


 金縛りにあったように固まる。

 マズイマズイマズイ、どうにかしないと……。

 そうだ! 話を一旦そらして機嫌を取るしかない。


「そうですよね、何言ってんだか。ハハハ……。あーそういえば女神様は、とてもお美しいですよね! 他の神々がほっとかないんじゃないですか?」

「美しい? ま、まぁそうだけど! あ、当たり前じゃない私は女神よ!」


 少し頬を赤く染め、長い髪を両手で撫で始めた。

 ――意外とチョロかった。


「そんなお美しい顔に怪我なんて何かあったんですか? もし、誰かにやられたのであれば許せませんよ!」


 女神は何かを思い出したのか、みるみるうちに険しい顔になる。


「あーこれ! アンタの前に来た転生者にやられたのよ! 本当にムカつくわ!」

「え? 女神様に手を上げる者がいるってことですか? 信じられません! それにしても不思議ですね、もちろん女神様は凄くお強いと思いますが、そんな女神様にキズを与える者がこの世にいると思えませんが」


ヨイショの言葉をまともに受けとめ鼻を高くして答える。


「そうよ、私は最強レベルに強いのよ! でも相手は、とんでもない魔王だったのよ。私が手加減してあげてるのに本気で殴ってきたんだから酷いわよね~」

「魔王? 魔王も転生者に選ばれるんですか?」

「え? あ……、まーたまにあることよ、本当に嫌になっちゃうわ」


 さっき言っていた転生者の条件と全く違うと思ったが、そこはスルーした。

 そんなことより女神をもち上げて転生ボーナスのゲットすることのみだ。


「へぇ、そんな極悪な魔王をねじ伏せる女神様尊敬します! その魔王は結局どうなったんですか?」

「ふふふ、全ての力を封印して人間の少女として転生してやったわ! ざまぁみろってんだ! 今頃ワンワン泣いてるんじゃないかしら」


 ヤベー、この女神ヤベーよ、マサオは瞬時に感じ取った。

 あまり時間をかけるのは良くない、いつ気分を害して何されるかわからないぞ。

 女神は大分機嫌が良くなってきたはずだ、もう勝負に出るしかない。


「ははは、さすが女神様! 最強ですね! あぁ自分も女神様みたいに強くなりたいな~(チラチラ)」


 この発言の後は、やたら長く感じた……。

 あざと過ぎたか?

 気分を害してないか? 

 生唾を3度飲み込んだ……。


「アンタなかなか見る目あるわね、しょうがないからボーナスあげてもいいけど」


 頭の上ではファンファーレが流れ響き、心の底から喜びを噛み締めた。


「いいですか! ありがとうござ――」

「待って! 条件があるわ。次行く世界には、さっき言った少女魔王もいるわ」


 マサオの言葉を遮って女神は条件をつけてきた。

 そんな虫の良い話はないよな……。

 少しは覚悟していたが、魔王って言葉が気になる。


「あ、はい。その魔王に伝言でもあるんですか?」

「いいえ、魔王のこと思い出したらイライラしてきたから、その魔王を見つけ出して思いっきり蹴りなさい! それができたら凄いスキルをあげるわ!」


 ……、本当に女神か疑いたくなった――


「あの、魔王とは言え今は少女なんですよね? これは倫理的に良くないんじゃ」

「はぁ? 何が倫理よ! 私は女神よ! 倫理より女神でしょうが! まぁやりたくないなら無理強いはしないけど、アンタの経歴だと転生後は勇者に道を聞かれる村人その1がお似合いよ!」


 ダメだ、この女神は……。

 彼は悩んだ、輝かしい異世界デビューを夢見てたことを。


「やります! 思っきり蹴ってやりますよ!」


 マサオもアレだった……。

 女神の甘い誘惑にあっさり乗ってしまう。

 女神は魔王の今の姿を詳しく説明し、蹴り方までジェスチャー付で熱く教えた。


「わはははは! よし、転生するわよ! 必ず蹴り上げなさいよ! ふふふ」


 女神はマサオに手をかざすと小さな声で演唱し始めた。

 体はだんだんと熱くなり、そして体全体が光出す。


 そしてマサオは、異世界へ転生した――

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