表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/432

29

「えっ?」


 思わず声が出てしまった。

 何が起きた? さっぱりわからない……。


「な、な、なんだと! ど、ど、ど、どうして? ぐはっ!! クソクソクソクソクソ!! こんなはずでは――」


 口からタラタラと血らしき紫色の液体を垂らしながら魔王は、そう言った。

 そして、うつむせのまま――その場に倒れた。


 え? え? え? もしかして倒したの? 

 いきなりムクッと起き上がったりするんじゃ?

 そんなことを考えていたが、魔王ゴウマはそのまま動くことはなかった。

 意外にもあっさり倒せたことに、レベル350とはなんだったんだと疑問が残る。

 その後、息の根を止まっていることを確認した勇者は、 


「俺を舐めすぎだ、バカ野郎!」


 魔王に挿していた剣を引き抜くと、そう呟く。

 勇者は、剣を引きずりならヨロヨロとこちらへと歩いてきた。

 立ち上がった俺は、勇者の元へと走り寄った。

 すると、勇者は俺と会話できる距離に来るやいなや、持っていた剣を地面に突き刺し、


「マ、マ、マサオ……。悪いんだが肩を貸してくれ……」


 その声は、必死に出した、か細い声だった。

 慌てて勇者の腕を掴み、俺の肩へと腕を回すと、張り詰めた糸が切れるように俺に寄りかかった。


「お、おい! どうした? 大丈夫か?」


 と、俺が尋ねると、


「ああ、なんとかな。ははは……、やっぱ倍速スキルと一緒に使うのは無理しすぎたわ……」


 無理やり作った笑顔で答える。


「倍速スキルと一緒に? どういうことだ?」

「勇者は、倍速スキルと併用に『時を止めた』のじゃよ」


 俺の疑問に対して、子供の小さな足音と共にその答えは返ってきた。


「え? 時を止めたって、いくら異世界だからってそんなこと出来るのかよ!」

「レベルをカンスト、99にした者は、神から祝福がもらえるって話は聞いたことがある。お主、それで『時止め』のスキルを授かったのじゃろ?」


 アルフは、勇者に質問した。


「さ、さすがアルフちゃん。その通りだよ! 時止めが分かるってこと、結界のこと……。あの魔王が言っていたことは本当のことだったんだね、アルフちゃんは異世界の魔王なんだ……、まさか勇者が魔王に惚れるとは、コレは傑作だ……」


 苦笑いをする勇者は、そう答えた。

 この二人は、世界がひっくり返すレベルの『時を止めること』を、ごく当たり前のように話している……。

 到底、俺には理解できないことだった……。


「え? え? どういうこと? いつ時を止めたんだよ!」


 アルフは、やれやれっと言ったような顔して、


「勇者は二度、時を止めておる。最初は腕を切り落とされるちょっと前、それと今さっき剣を掴まえた後じゃよ」

「じゃ、じゃあ、それなら最初から時止めて倒せば早かったんじゃないの?」

「はぁ……、マサオよ。そんな、おいそれと時を止めれたら、勇者は腕を切り落とされることもなかったじゃろ。余の予想じゃが、ほんの一瞬しか止められない。それに次にスキル発動までのインターバルはかなりある。だから先程の戦いでは、倍速スキルを使っている状態で、わざと剣を掴ませるようにし密着して、その状態で発動したのじゃよ。時を止めてる間、あの距離で倍速スキルなら回り込んで刺すことぐらいはできるってことじゃな」


 すると、このアルフの発言に笑いながら勇者は、

 

「ははは! さすがだな! まさにその通りだよ! クッ……マサオそろそろ時間らしい……、悪いんだが、洞窟入り口にいるイリアカントの仲間に俺の事を言って回収してもらってくれ……」


 急に苦しそうにする勇者。


「なんだなんだ? も、もしかして、スキルの代償とかで死ぬのか? おいおい! やめてくれよ! こういうバッドエンドは、俺は嫌いなんだ」

「ち、ちが、違う……。スキルの反動で間違いないが、回復のため完全休眠状態になる、しばらくの間は意識がなくなるんだ……、だ、だか、ら――」


 話している最中だった勇者は、そのまま意識がなくなった。

 口元に手をやると、息をしているようだったので一安心である。

 

「はぁ……、なんだよ心配かけやがって! よし! これでクエストクリアだ! 今回こそ借金返済完了だ!! よし! アルフ帰るぞ!」 


 生きていることへの喜び、これからの異世界生活に対する期待、俺の心は全ての問題から解放され清々しい気分だった。

 両手を上げ、その喜びを表現していると、


「そうじゃな……、帰りたいのは山々なんじゃが。アイツを倒さないと結界が解けんからのぅ」

「はっ? 言っている意味がわからない。魔王ゴウマは今さっき倒したばかりなのに、お前は何を言っているんだ?」


 先程からアルフはある一点を見ている。

 それは、勇者と会話している時もずっと……。

 俺も気になってソコを見たが何もない。

 すると、アルフは、


「喜んでいるところ悪いんじゃがな、さっき倒したのは――」


 アルフの話をさえぎるように声が聞こえてくる――


「オーホホホ! まさか身代わりを倒すなんてねぇ~! やりますねぇ~! 今までのこと全て見させていただきましたよ! フフフ……、ワタシの透明スキルを見破った、その眼! アナタがアルフですね! みつけましたよ~!」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ