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今、目の前では、俺の異世界人生を掛けた戦いが始まろうとしている。
来たばかりなのに……。
息が荒く険しい顔の勇者、 ガイコツヅラで表情からは読めないが態度から余裕な魔王の戦いが――
五分ほど経つだろうか、お互いを睨み合ったまま動きがない。
自分でも分かるくらい肝が小さい俺は、この戦いを固唾を飲んで見ている。
そんな俺に対して隣の少女は、退屈そうに見ていた。
「よ、余裕だな? 俺らの運命が決まる戦いなのに……」
「ん? ああ、そうじゃのぅ。はぁ……、それにしても、はよ始まらんかのぅ。いつまで『にらめっこ』してるつもりじゃ」
達人同士の戦いと言うのは、動く前から戦いは始まってるらしい。
俺には分かる。今、勇者と魔王の戦いは始まっているんだ。
それなのに、このガキは、このハイレベルの戦いを『にらめっこ』だと言いやがった。な~にが元魔王だ。色々と解説してるから、コイツめちゃくちゃ強いと思っていたが、そんなこともわからないなんて大した事ないな。
俺が睨みつけると、コイツは「はぁ~」と大きなアクビをしやがった。
そうこうしていると、最初に動いたのは魔王だった。
何かを持った右手を前に出すと、魔王は意外なことを言い出した。
「ちょっと待ってください。今の状態の勇者に勝っても嬉しくないのでコレをプレゼントしましょう」
そう言うと、右手に持っていたモノを勇者へと投げつける。
俺の方からだと、よく見えないが細長い何かのようだ。
そのモノを左手で受け取った勇者は、
「なにっ!?」
受け取ったモノを見て、勇者は驚いているようだった。
目を細めて勇者の左手にあるモノをよく見ていると――、それは『腕』だった。
「アナタほどのレベルなら、ちぎれた腕くらい治す回復魔法はあるでしょ?」
魔王は、そう言った。
この魔王の行動に勇者も反論する。
「なんのつもりだ? 俺を舐めているのか?」
「いえいえ、そんなつもりはありませんよ。手負いの状態ではアナタの本気が見れませんからねぇ。どうぞ、気にせず腕をくっつけてください」
この魔王も人間の腕をプラモデルのように語りやがる。
勇者は魔王を睨みつけると、その腕を自分の腕へとあてがった。
「クッ!!」
勇者は痛みで顔が歪む。
そして、腕の接合部分から眩く緑色に光り始めた。
そんな光景を見て驚かずにはいられない。
「おいおい! 嘘だろ! 人間の腕がくっつくわけが……」
と、思わず声を上げていると、
「何をびっくりしておるのじゃ、ちぎれた腕を繋げることなんて当たり前のことじゃよ。本当にお主は、何も知らんのじゃな。これだからマサオは……、やれやれ……」
と、となりで退屈そうにしているヤツが俺の発言に顔を横に振りながら答える。
「う、うるせぇ! 人間の腕はそんな簡単にくっつかないんだよ! 手術もしないでくっつくわけが――」
そう言っている最中に、勇者の腕はくっついた。いともあっさりと……。
勇者は自分の腕の感触を確かめるように、右手を滑らかに動かしていた。
もうメチャクチャだ……。
そんな異世界あるあるのせいで、さっきまでの緊迫した空気がはじけ飛んでしまった。
「それでは、始めましょうか? 殺し合いを! さぁ、本気でかかって来てくださいね!」
しかし、その魔王の一言で再び空気は変わる。
右腕を取り戻した勇者は、剣を利き手に持ち替え体を大きく構える。
剣の先を魔王に向け、体全体を低姿勢にした。
今まで見せてなかった構えに俺は、
「あの構えは?」
「アレは突きの一撃で決める構えじゃな。レベル差がある相手じゃ、連続攻撃は無駄。だから全神経を一撃に集めておるのじゃ。まぁ、それしかヤツが選ぶ選択肢はないがのぅ」
腕を組んでる解説者アルフは、そう解説した。
勇者は大きく深呼吸すると、続けてこう言った。
「トリプル・ソク!!」
次の瞬間、勇者の足元の地面からガタガタと揺れ始め、少し前にも見た光景と同じように砂利や小石がマジックのように浮き始めた。
そして、勇者の体の周りから青いオーラが立ち込め始める。
いつの間にか、分からないことはアルフへ聞く癖ができてしまった俺は、
「おいおい! あれって? 倍速スキルじゃないのか? 体の周りの色が赤から青になったが……」
「ほう、トリプル・ソクまで使えるのか、大したもんじゃのぅ」
「こら! 皆さんご存知みたいに言うな! だからトリプル・ソクってなんだよ!」
「はぁ……、マサオよ、もうちょっと自分で考えたほうが良いのぅ。簡単に連想できるじゃろ? ダブル・ソクは素早さを二倍にしたじゃろ? だからトリプルは三倍じゃよ。本当にマサオは余がいないと何もできないヤツじゃわい」
アルフに痛いところを突かれた俺は、顔が真っ赤になるのが分かるくらい熱くなった。
「う、う、うるせぇよ! そ、そのくらい俺にだって分かってたわ! 馬鹿にするな! ちなみに、ダブルのとき死ぬかもしれないって言ってたけど、大丈夫なのか? ま、まさか、このスキル使ったら死ぬとか言わないだろうな?」
「わからん!」
「えっ? なんだって?」
「だって、このスキル使ってるの、見たことないのじゃ」
「えぇ……」
勇者の体の周りから立ち込めるオーラは、ダブルとは比較にならない程の大きさに広がり、この洞窟自体が大きく揺れている。
そして、その揺れに耐えれなくなった天井の岩がガラガラと落ちて来る。
目の前に大きな岩が落ちた俺は、情けないことにしゃがみ頭を抱えた。
「あわわわわ……、これヤバイんじゃないのか? この洞窟自体潰れちまうよ!」
「おー、すごいのぅ。このままじゃ、岩の下に潰れてペチャンコじゃな! ハハハ!」
天井を見回しているアルフは、笑いながら答えた。
何がおかしい? お前はアホか! と言いたかったが、本当に死ぬかもしれなくてツッコむのを止めた。
とてつもない大きさに広がった青オーラをまとった勇者は、落石なんて気にもとめず集中している。
俺らのことを気にする余裕が無いってことだ。
そして、俺はこの時に気づいた。
――ずっと物語の主人公に憧れていた、しかし今のこの姿を見れば、そんな器じゃない……。誰かが言った言葉にこんなのがあった。人の真価を測るには、死に直面した瞬間であるって。今なら分かる気がする。勇者も死に直面しながらも諦めずに戦おうとしている。それに引き換え俺は、自分のことしか考えてない。勇者よ、アンタは本物だよ。だから――
頭を抱えたまま俺は、祈った。――勇者、頼む! 魔王を倒してくれ!
そして、その時が来た。
俺の視界から勇者の姿が消えた!
次の瞬間、とてつもない爆風が俺に向かってやってくる。
その場にいられなく、ゴロゴロと転がながら、居ても立ってもいられず、柄でもなく大声をあげた。
「いっけぇぇぇぇぇ!! 勇者がんばれぇぇぇぇぇ!!!!」
と、子供の頃に行ったヒーローショウで叫ぶように。
そして、爆風が止み、俺はすぐに魔王の方へと目線を向けた。
高校受験の結果の時よりも早く見たかった。
勇者魔王の戦いの結果を――
――そこには信じられない光景が映っていた。
そこには――
――剣の刃先を右手の二本指で止めている魔王の姿、そして、その剣の先には飛び込んだままの姿勢で青いオーラを纏ったまま固まっている勇者だった……。
「なんだとっ!」
勇者は、そう言った。
そして、次に魔王はこう言う。
「オーホホホ! まさかトリプル・ソクまで使ってくるとはビックリしましたよ! 凄いスピードでしたけど、ワタシからしたら大したスピードじゃありません。オーホホホ! アナタの本気も知れたことですし、さっさと死になさい!」
この発言を聞いた瞬間――『終わり』……。という三文字が頭の中で登場した。
異世界へやってきて一日も経たないうちに死ぬなんて思ってなかった。
もっと色んな人達と出会って、色んなことをしたかった。
多くを求めてないというのは嘘になるが、現実ではできなかったことがしたかったんだ。
走馬灯だろうか……、ココにやってきて何をしたのだろう?
少女のケツを蹴り、冒険者登録では馬鹿にされ、美味しい肉を食べたと思えば多額の借金を背負い、スライムと戦うが敗北して、クエスト消化のためと来た場所に異世界からやってきた魔王と出会った。
あれ? これだけ? ははは……。
俺は膝をつき、ただただ勇者の姿を見る以外できないでいた……。
魔王の左手には、3メートルはゆうに超える大きな鎌を持っており、ソレをゆっくりと大きく振りかぶった。
あー……。終わりだ……。
その次の瞬間だった――
気づくと目をコレ以上開けれないくらい開いていた。
俺は目を疑った。目の前の光景に――
――勇者が魔王の背中に剣を突き刺している光景だった。




