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「さ、さ、さんびゃくごじゅぅぅぅぅぅ? ふざけんな! ありえるか!」
取っ調子のないことに俺は、声が裏返ってしまった。
アルフもさぞかし驚いているだろうと思い、そっと横へと首を動かした。
アルフは――
――ごく当たり前のモノを見ているようにソレを見ていた……。
え? ちょ! あまりの温度差に立ちくらみしそうになる。
「お、おい! レ、レベル350だぞ! チート級の反則なのに、よく冷静でいられるな!!」
自分だけが取り乱しているのが悔しくて、ツバが散乱するのが分かるぐらい吠えてしまった。
そんな状態の俺に対して、コイツは眉の一つも動かさず、
「まぁ、余が最後に戦った勇者も、レベル99以上だったからのぅ」
「は、はい? ちょっと待て! お、お前ってヤツは……、かなり大事なことを、ごく普通に言う奴だなぁ……」
眉間を押さえながら俺は、深呼吸をした後、心を落ち着かせ――続けて質問する。
「そ、それで……、レベル99以上って、よくあることなのか?」
「よくあることか知らんが、余たちのように転生者の中には、女神から与えられるみたいじゃのぅ。例の勇者も転生者みたいだったし」
ま、またコイツは……。
当たり前のように衝撃発言をサラリと言いやがった!
「な、なに? そんなにゴロゴロと転生者っているのかよ! じゃ、じゃあ! お、お前は、そんなチート勇者に殺されたってことなのか?」
「いや、殺されては――」
喋っているアルフの声を遮るように声が響く――
「お、おい! マサオ聞いているのか! いいから二人で早く逃げろぉぉぉ!」
今まで見たことない険しい表情の勇者は、俺らにそう言い放つ。
これ以上、勇者の足を引っ張ることはできない。
「と、と、とりあえず逃げるぞ! アルフ!」
俺はアルフの細い腕を握り――走り始めた。
俺は走った、運動会よりも真剣に。
早く、早く、一刻も早く――俺らが来た細い洞窟へと。
そして、その目的とする場所が目の前に迫った瞬間だった……。
綱引きのようにアルフの腕を掴んだ俺の右腕が、引っ張られる。
「なに? なんだ?」
その質問の対象者は決まっている、俺の腕を引っ張る者以外いない。少女の皮をかぶった魔王――そう、アルフだ。
「ちょっと待つのじゃ!」
このガキは、そう言いやがった。
「な、なに? 早く逃げないとヤバイんだよ!」
そう言っても表情一つも変えないガキは、自分の足元に落ちている小石を掴むと、洞窟の入り口へと投げ捨てた。
「お、おい! 遊んでいる場合じゃないんだぞ!」
俺がアルフを怒鳴った、その瞬間――
『バッシュ――ン!!』
――と鳴った。
炸裂音と共に、投げ捨てた小石が消滅する。
パラパラ……。
と、小石の破片が雨のように降っている。
「えっ?」
それしか言えないでいると――
「結界じゃ。コレに触れると、小石のように吹っ飛ぶぞ」
と、アルフが縁起でもないことを言い放つと、勇者たちの方向から――
「オーホホホ! この大空洞内全体に結界を張ってますから逃げられませんよ! 私を倒さない限り、ここから出ることはできませんよ」
このチート魔王は、とんでもないことを言い放ちやがった。
お、終わった……。
絶望で目の前が真っ暗になる。
希望の勇者へと目線を合わせると、唇を噛み締めているように見えた。
「さあ! 勇者さん、本気の殺し合いを始めましょう! あの人間が生き残れるかは、アナタ次第ですから!」
両手を広げてこんなことを言う魔王は、これからの戦いに喜びを感じているように見える。
俺の数十メートル先で運命が決まる戦い――勇者と糞チーターの戦いが始まろうとしていた……。




