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 俺の名前は、マサオ。

 入学したての高校生だ。

 そんな、ある日の登校中に、なぜか異世界へ転生してしまった。

 憧れの異世界転生だったが、何かがおかしい……。


 今、俺の目の前で、まさに勇者と魔王の戦闘が始まろうとしていた。


 こちとら今日、この世界へ来たばかりなんですけど……。

 俺が異世界に慣れてからやってよ、どうなってるの? まったく……。


 転生してからというもの、次から次と物事が起こり過ぎる。

 全ての原因は、俺の横でのんきに腕を組んでいる、このガキのせいなのだが。

 俺に変な呪いをかけ、多額の借金を背負わせ、今の状況を作り出した張本人だ。


 作品で描かれている異世界転生モノは、こんなんじゃなかった……。

 正月とバレンタインと盆とクリスマスが一日にやってきたみたいなもんだ。

 そんな、ごちゃまぜにしなくていいんだ。

 もっと、ゆっくりでいいんだよ……。




 ――俺の求めた異世界生活は、こうじゃないんだ……。




 お互い構えたままな状態が、木の葉一枚落ちるくらいの時間が立つ。

 洞窟の吹き抜けから風がゴーっと鳴いた。

 ソレをゴングかのように二人は動き出す。

 そして戦闘は、始まった。


 最初に動いたのは、勇者からだった。

 例のごとく、俺の前からパッと消え、続いて魔王も消えた。


 その後は、『カキンカキン』とか『ガゴガゴ』とかの音が聞こえるだけだ。

 あーもう、またこれかよ! 俺いる意味ある? と尋ねたくなる。

 これは、勇者、魔王が、超スピードで動いているためだとアルフは言う。

 俺の目が追いつけないらしい。

 せっかくの勇者×魔王戦を何も見えず、ただ音だけを聞いてるだけというのは、RPG好きな俺としては正直キツイ……。

 堪らず、横にいるアルフに小声で問う。


「おい、どうなってるんだ? どっちが勝ってる?」


 すると、チラッと一瞬だけ俺を見て、すぐに勇者たちへ視線を戻すと、


「勇者が一方的に攻めておる、魔王は完全に受け身になっておるな」


 と、表情一つ変えずに言いやがった。


 一人で観戦しているコイツに、だんだんとハラが立ってきた。

 クソー! なんでコイツは見えるんだ? 

 女神から、魔王時代の力は全て封印されてるはずなのにどうして?

 疑う目で俺は、アルフの瞳を覗いた――


「え?」 


 俺は驚かずにはいられなかった。

 アルフの瞳は赤く発光していた。そして、眼球はロボットのような動きでキョロキョロと動いている。


「お、おい! なんだよ、お前の……その目は……?」


 俺は思わず口に出してしまう。するとアルフは、再び一瞬で俺へと視線を合わせると、


「はぁ? なんじゃ? 目がどうした?」

「お前の目、大変なことになってるぞ!」

「あぁ、『魔王の眼』なんじゃから当たり前じゃろ」

「魔王の眼? なんだそれ? 皆さんご存知みたいに言うなよ!」

「あー、マサオの世界には、魔族がいないから知らんか……」


 なぜかバカにされているかのような気分になる。

 アルフは続けた。


「マサオよ、魔王は誰がなれるか知っておるか?」

「なんだよ、唐突に。そりゃ、魔族で一番強いヤツじゃないのか?」

「たしかに、そうじゃが。どうやって決める? 実際の強さなんて戦ってみないとわからんし、数えきれない程いる魔族すべてと戦うことなんてできんじゃろ?」

「そんなの簡単だよ。先代の魔王と戦うだけで一番強いか分かるじゃん!」


 俺は、得意気に鼻息を荒く吐いた。

 しかしアルフは、無表情で続ける。


「それなら、その先代が本物の魔王、一番強いヤツである証明はどうする?」

「はい? そりゃ、魔王って名乗っているヤツが魔王じゃないのか?」

「いくら魔族の中でも中級、下級になれば魔王の姿なんで一生のうち一度も見ることはない。そうなると、実際、時代が進めば、魔王と呼ばれている者、名乗っている者が本当の魔王、一番強い者かどうかなんて誰にも証明できなくなるのじゃよ」

「たしかに、そうだが……、それと目が、どんな関係があるんだ?」

「そこで、先代の魔王を倒した者は、その目を奪うのじゃ」

「は? なぜそうなる?」

「この目は、世界が始まって最初に魔王になった者の目なんじゃよ。だから、この目を持つ者は、先代の魔王を倒して、一番強い者、魔王となる証明になるのじゃ。魔王と名乗った者が、魔王ではない。この目を持つ者が魔王なのじゃ! このことは、人間たちも知っていることじゃぞ。ちなみに、あのゴウマと名乗る異世界の魔王も余と同じ目を持っておったから、どの世界の魔族も同じのようじゃのぅ」

「へー、そうだったんだ……。その目は、そんなに凄いのか?」

「普段は、普通の目じゃが。魔力を目に集中すれば、今のように赤く発光して、どんなに素早い動きも見逃さず、相手のレベル、HP、MP残量も一目で分かる優れものじゃ!」


 アルフがテレビショッピングの人に見えてきた……。

 そんなことを聞いて、ますます疑問が募る。


「たしか、女神に全ての力を封印されたんだよな? それなのに、その目はどういうことだ?」


 するとアルフは、ポカーンとした顔で、


「たしかに……、よう分からんなぁ。この目もそうじゃが、マサオに付けた呪いも、なぜか残っていたしのぅ……。もしや! あの女神うっかり屋さんだったじゃないのか! ハハハッ!」


 戦闘の真っ最中にアルフは、大声で笑いだした。

 笑い事じゃない……。


「ちなみに、どうやって奪った目を自分の目に移植するんだよ?」

「そんなの簡単じゃよ。前の目を取って、新しいのを付けるじゃよ!」


 アルフは、目の交換を乾電池の交換のように言う……。

 俺は、最後に気になることを聞くことにした。


「じゃあ、もし、勇者に倒されたらどうなるんだ? その目がなくなって、次の魔王決めるときに困るだろ?」

「魔王が魔族の者以外、勇者に倒された時は――その世界の魔族は滅びる……」

「それじゃ、お前の元の世界の魔族は?」

「もちろん、滅びたじゃろう……」


 アルフは、表情一つ変えずにソレを言った。


 俺は現在進行系で行われている勇者と魔王の戦闘中に、無神経なことを聞いてしまったことを後悔した――。

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