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「ちょっと! 何で映らないのよ!! このポンコツ水晶が!!!」


 ここは、天界。

 神々が――住むところである。

 そんな神聖な天界で『ペシ! ペシ!』と水晶を叩く音が――響き渡っていた。


「そんなに叩いても映りませんよ……、ブラウン管テレビじゃないんですから……。あと、女神らしくない発言は控えてくださいよ。神々に聞かれたらどうするんですか……」


 そう言ったのは、青い髪に背中から羽の生えた天使ユイであった。

 ユイは、散らかってしまった転生の間の後片付けをしながら困り顔で言う。


「うるさいわね! 早くしないと『あの魔王』が蹴り飛ばされる場面を見逃しちゃうじゃないの!」


 鼻血を垂らしながら、悪い顔でそう言う者こそ――ココの主であり、転生の全てを任されている女神である。

 女神は、スイカ程の大きさの水晶を叩きまくっていた。


「はぁ……」


 深い溜め息をつくユイは、せっせと部屋の片付けを続けた。


「早く! 早く! 映りなさいよ! あの魔王のキャインっと悲鳴をあげるのが、私は聞きたいのよ!」


 気が狂うぐらい水晶を叩き続ける女神。

 すると水晶から音が――



『――ザザーッ――これは失礼しました。――ザザーッ――この世界の魔王ではありません』



 壊れたラジオのように、声が途切れ途切れ入ってくる。


「何よ、この声? 誰? 私は、あの魔王に調整したはずなのに……」

「どうしました? 蹴られたところは見れたんですか?」


 水晶をひっぱ叩いていた音が鳴り止み、難しい顔をする女神にユイは――そう言った。


「いや、どうなってるの……」


 先程までの興奮した顔から、眉間にしわを寄せる女神。

 そんな女神にユイは、女神と共に水晶を覗き込む。

 その水晶は、乱れた映像が流れている。

 どこか暗い場所であった……。


「これは……。洞窟内でしょうか?」


 ユイはボソッと呟いた。


 水晶内の映像が、少しづつ鮮明になる。


 そこには――

 大きな鎌を持った人外、右腕は無く左手に剣を持った青年――会話をしている。


 そして――

 少し離れた所に、先程から女神が見たがっていた目的の少女と冴えない少年も――そこには、映っていた。



 そして、再び音声が流れる――



『――ザザーッ――異世界で魔王だったのですよ――ザザーッ――ワタシは『転生者』なのです』



 と、その音声が聞こえた瞬間――

 ガタッ! と女神が座っていた椅子が倒れる。

 立ち上がった女神は、水晶を睨み続けた。


「め、め、女神様……。こ、こ、これは……?」 


 目を真ん丸にしたユイは震えた声で言う。

 一瞬だけユイへ視線を向けた女神は、何も言わず再び水晶を睨み始めた。

 女神の手は、水晶の置かれている机を強く掴み――カタカタを震えている。

 そんな女神を見てユイは黙って水晶を見続けていた。


 そして――



『――ザザーッ――これからやってくるであろうとされている、――ザザーッ――異世界から来る『アルフ』という魔王を殺すだけですよ!』



 と、その音声を聞いた瞬間――女神はそっと目を閉じた。

 驚きを隠せないユイは、


「も、もしかして……『あの方』にバレてるってことじゃないんですか?」


 しばらく沈黙が続いた後、女神は静かに口を開く。


「そうね……。私がやろうとしてることが全てバレてるみたいね。まったく、今までの茶番が全て無駄になっちゃったわね……。まさか、『アイツ』が魔王を転生させる力まで持ってるなんて思ってなかったわ……」

「そ、そんな……、女神様が無理をしてまで――転生者リストに入れたのに……」

 

 目に涙を溜め震える――ユイ。

 悔しさに耐えるように唇を噛む――女神。


 そして女神は、手の平を一瞬だけ顔にかざすと、みるみるうちに鼻血や顔の傷が消え、乱れていた髪はキレイに整った。

 

「ユイ、ごめんなさいね。今回のためにアナタが大事にしていた『身代わりの指輪』まで使わせたのに、こんな結果になっちゃって……」


 今までみたいな荒々しい口調ではなく、柔らかい声で女神は言った。


「い、いえ、とんでもございません。私の身代わりのせいでバレたのかもしれません。正確に髪の色を再現できなかったので……申し訳ございません……」

「ううん、あなたのせいじゃないわ。さっきの会話からして、私が行動を起こす前からバレてたみたいだし」

「こ、これからどうします? 今の状態の『アルフ様』だと『あの魔王』に簡単に殺されちゃいますよ! やはり、ありのままの『アルフ様』で転生しとくべきだったのでは?」

「ううん、『あのままの彼女』では、『あの世界』と同じ結末になってしまうわ……、私達のコントロール下に置かないと意味が無いのよ。そのための『彼』なんだから。ちなみに、彼のほうには、ちゃんと仕込んであるわよね?」

「は、はい! それは、大丈夫なんですが……、彼で大丈夫なんでしょうか?」


 顔が緊張で強張って青ざめるユイは、そう唇を動かした。

 眉根を寄せて真剣な顔をする女神は、小さく何度もうなづくと――


「必須条件の『鍵』との合流は確認できているから、このままフェーズ2へ移行するわ! 予定通り、ユイは下界に行って、アルフの『力が戻る』まで守ってもらう! 彼女の……、『あの魔王の力』がないと天界や全ての世界が滅びるから」

「は、はい! しかし、今から行って間に合うかどうか……、天界から下界は、タイムラグで半日のズレがありますよ?」

「今、あの子たちの仲間になっている青年に賭けるしかないわね」

「魔王に勝てる程の者なんですか?」

「あの青年は勇者よ、目を見れば分かるわ。あの子達がどうやって勇者を仲間にしたかはわからないけど、たぶんレベル99でカンストしてると思う。通常の魔王なら苦労せずに倒せるはずだけど……。気になるのが、あの魔王をただ転生させただけなのか……。ううん、急ぎましょう!」

「は、はい!」



 転送のために書かれた魔法陣の中央に立ったユイは、静かに目をつぶっている。

 

「ユイごめんなさいね。本当は、私が行ければいいんだけど、自分を下界に送ることはできないのよ……」


 魔法陣の続きを書き続けながら申し訳なさそうに、女神は謝った。


「いいんですよ! 幸せを知らないまま命を落とした私が、女神様のおかげで天使にしていただき幸せというものを与えてくださったのです。その恩返しができて私は、今すごく幸せなんです!」

「ありがとう……、ユイ……」


 悲しさが心の底からしみじみ湧き出るのを感じながら、やらなければならない事が女神を突き動かしている。


「それじゃ、まず天使状態じゃ下界へ行けないから、『人間』にするわよ」

「はい! お願いします!」


 羽を持つ少女に対して、右手の平を向けると、目が追うことができない程の口の動きで演唱する。

 すると、少女の頭の上に浮いていた黄金の輪っか、背中に生えていた羽が、光の粒子が昇天するように消えていった。

 そして――天使の服装から冒険者の服装へ。

 アルフに折られたはずの聖剣は、元通りに直り、その腰にぶら下がっている。


 女神の頬から一筋の汗が垂れる――


「はぁはぁ……。次は、私が生前『勇者』だった頃の全ての力をアナタに授けるわ!」

「はい! お願いします!」


 再び演唱を始めた女神は、唇が歪む。

 自分の体を裂いている苦痛を感じていた。


 ユイの体の周辺からは、淡い青い光が立ち込める。


「す、すごい……。これが、女神様のチカラ……。力が湧き出てくる……」


 人間になりたての少女は、あまりの力に驚きを隠せない。


「はぁはぁはぁ……。つ、つぎは……。特別なスキルも……」


 自分の力を譲ることで身体的な苦痛で、立っていられなくなり膝をついてしまう女神。


「女神様! 大丈夫ですか!」

「気にしないで、これから待つ戦いに比べれば大したことないから!」


 更に、演唱を続けユイ本人の限界を解除するのであった。


「はぁはぁはぁ……。なんとか終わったわ……。今から天使ユイではなく、『勇者ユイ』として生きていくのよ!」

「はい!」


 体の奥底から湧き出す女神からの力、恩人から頂いた湧き出す勇気が――彼女を突き動かす。

 ――ここに『勇者ユイ』が誕生する。


「それじゃ、アルフたちの世界へ転送するわよ。あの子達を頼むわね! はぁはぁはぁ……、『世界を守れるか』は、あなた達にかかってるから!」

「はい! 任せて下さい!」


 そして少女は、光りに包まれ――下界へと転送された。

 転送される瞬間、ユイは小声でこう言った。


「今までありがとうございました。さようなら……、『イリア様』」

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