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「魔王……? アルフ……?」
勇者グルモは自分の後方にいる少年のとなりの少女へと目線を向け、そう呟いた。
その後、洞窟の入り口から流れた風が流れ、一瞬の静寂が流れた。
「女神からの話だと、そのアルフというのは、どの世界の魔王より強いらしいとのこと、この洞窟を通ることだけだったので、ワタシは洞窟全体に作り出したモンスターを配置して数日前からココで待っていたのですよ。しかしながら、ワタシのモンスターが強いのか、この世界の人々が弱いのか、誰一人ココまで辿り着くものがいなかったので、退屈してた所にあなた方が現れたってことなんですよ」
魔王ゴウマは、淡々と説明した。
異世界、転生、理解ができない勇者は混乱する。
魔王は、申し訳無そうに続けて口を開く。
「そうそう、やっと例の魔王が来たと思っていきなり攻撃して右腕を切り落として申し訳なかったですね。まさか、この世界の勇者だと思ってなかったので。それにしても、ワタシも幸運のようですね。まさか、こんなに早く勇者と出会うなんて」
勇者は眉をひそめる。
「どういうことだ?」
「手間が省けたからですよ。女神に頼まれた魔王をぶっ殺したら、この世界の勇者をぶっ殺すために探そうと思っていたのでありがたいですよ! ちなみに一緒に来た人間は何者ですか? 一人はレベル5、もう一人はレベルが測れない程の子供。勇者の仲間にはゴミすぎるので気になってましてね」
ドクロのような顔に不気味な笑顔が浮かべる。
グルモは、一瞬考えた様子の後に、
「あそこにいる二人は、洞窟の前でたまたま出会った兄妹だ。ウキヨカントに行けなくて困っていたから、護衛していただけだ。俺の仲間ではない。お前との戦いには邪魔になるから二人を先に行かせてやってほしい」
とりあえず、二人を安全な場所へと言う気持ちから出た嘘であった。
実は勇者は気づいていた。一太刀を交わって分かったこと。コイツは俺より強いということに……。
こんな状況でも二人を心配するグルモは、まさに勇者である。
それに対して、魔王ゴウマは笑いながら、
「オホホホ! それは駄目ですよ! あの二人も殺しますよ! 人間たちにワタシのことを話されては面倒ですからね! だから殺します! 二人にとっては運が悪かったってことで諦めてもらいましょう! それに、そんな残念がることもありませんよ。ココで3人を殺した後に貴方がたがやってきた国へ行くつもりですから。魔王アルフを探すのも面倒なので国にいる者全てを殺すことに決めたので、今逃げても後で殺されるんですから!」
「な、なんだと! イリアカントを滅ぼすつもりか?」
「アナタが勇者ってことは、アナタより強い者はいないってことですからねぇ! 簡単に滅ぼせそうですね! 恨むならその国へやってきたアルフという魔王にしてくださいよ!」
勇者は戦いの始まりが近いことを悟り、ゆっくりと構え直した。
ピリピリとした空気が流れる。
そんな勇者グルモと魔王ゴウマが会話に集中している中――高校でボッチになっていた少年は、気づかれないようにアルフの腕を引っ張って距離を取り、二人に声が届かないように耳元に近づいて小声で話した。
「おぃぃぃぃぃ! どうことだよ! 女神めっちゃ怒っとるやん! お前、刺客送られてるじゃん! どんだけ強く殴ってるんだよ! これは、やばいって!」
マサオは必死に声を殺しながら、アルフへと訴えかけた。
そんな興奮気味な少年に対して、少女は頬を赤らめている。
「お、お、おい! 顔が近いのじゃ! も、も、もしかして、余と恋愛しようとしてるのか? まだ心の準備ができてないから待ってほしいのう……」
――全く会話が噛み合っていない二人だった。
少年は血管をピクピクさせながら、
「お、お前ふざけんなよ! 今の状況分かってるのか? もし勇者が負けたらイリアカントの国の人々が皆殺しにあうんだぞ! お前が女神に手を出したせいで! 責任感じないのか?」
真剣な顔のマサオにアルフは「はぁ」とため息をつく。
「とりあえず落ち着くのじゃ、ヤツが言っていることおかしいと思わんのか?」
「な、なに?」
「ゴウマってヤツは、何日も前からココにいるみたいではないか。余が来たのは今日じゃ! 余が女神を殴る前にはココにいるみたいじゃないか?」
「えっ?」
アルフの言ったことに少年はキョトンとする。
マサオは少し考えた後に口を開く。
「いや、ちょっと待て! 神々がやる転生なんだから、時間や場所を選べるんじゃないのか?」
この発言にアルフは涼しい顔で答える。
「その可能性もあるが、ならなぜ余の今の姿を知らんのじゃ?」
「へっ?」
「あの魔王は、余がココにいるのに気づいてもおらん。お主は女神から詳しい説明を受けていたから、すぐに見つけ出せたのではないのか?」
「えっ!? ど、ど、どういうこと?」
マサオの顔から汗がドッと流れ始めた。
そして元魔王は、真剣な表情で口にした。
「あの魔王を転生させた『女神』と、余やお主を転生させた『女神』は、別人なのではないのかってことじゃ……」
その後、洞窟の入り口から風が流れ、一瞬の静寂が訪れた――。




