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 大鎌を握ったまま切り落とされた腕はピクピクと動いていた。

 その大鎌の上に立っていた勇者は地面に降り立ち、


「フハハハ! お互い一人での楽しみに苦労しそうだな!」


 大笑いしながらそんな事を言うグルモ。

 ――勇者に相応しくない発言である。


「くっ! クソッ! クソッ! クソッ!」


 右腕を切り落とされたことに、モンスターは激高する。

 そんなモンスターに対して、


「おいおい! 落ち着けって! 左でも慣れれば大丈夫だから!」


 ――なんの話をしているんだ、この勇者は……。



 すると、モンスターは小刻みに震え始める。


「クソッ! クソッ! ク、ククッ! オホホホ! なんちゃって!」


 不気味に笑うモンスター。

 次の瞬間、モンスターの腕はブシュッと音と共に新しい右腕が生えた。


「チッ! 再生型のモンスターかよ……せっかく同じ境遇にしてやったのに……」


 右腕を再生させたモンスターに、驚く事なく勇者は愚痴る。


 そのモンスターは、右手の感覚を確かめるように動かしていた。

 右腕に付いている青い血を振り払うと、モンスターは勇者をじっくりと見る。

 そして、意外なことを言い出した。


「このスピード、パワー……。もしかして、貴方は勇者ではありませんか?」


 少し驚く勇者。


「なに? 知ってて攻撃したんじゃないのか?」

「いやいや、知りませんでしたよ。知っていたら、あんな不意打ちみたいな攻撃なんてしません。そうですか~、貴方が勇者ですかぁ! なんと幸運なのでしょう」


 真剣な表情に戻ったグルモは、


「キサマは何者だ? ただのモンスターではないだろ? 俺が戦ったモンスターの中でダントツに強い。魔王の近い存在のはずだ。そんな奴が俺のこと知らない訳がないだろ!」


 目の前のモンスターは、再び小刻みに震え出す。




「クククッ! これは失礼しました。名乗るのを忘れていました。ワタシの名は『ゴウマ』。魔族の中の王――魔王とも呼ばれてます」




 この発言に、この場にいる人間が驚かずにはいられなかった。

 マサオは口をあんぐり開け、驚く顔のお手本のような顔している。


「ええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 そして、リアクションは100点満点だった。


「もう! いちいちうるさい奴やのう!」


 そんな芸人ばりにリアクションする少年に、鬱陶しく思う少女が言った。


「ど、ど、ど、ど、どういうこと? 何で魔王がこんな所にいるんだよ!」

「いい加減、驚き過ぎじゃ!」

「いやいや、お前も驚けよ! この世界の魔王だぞ! お前だって元魔王として気になるところだろ?」

「別に、特に興味ないな」

「なんだよ、つまらん奴だだな。それにしても、初めてのクエストで魔王登場って、ふざけて作ったRPGみたいなストーリー展開だな……」

「なんの話しておるのじゃ……」


 興奮する少年に、呆れた表情をするアルフであった。

 そんな、どうでもいい会話をしている二人に対して、勇者は驚く表情から怒りの表情に変わっていった。


「嘘だ! キサマが魔王のわけがない! 魔王が……こんな所にいるわけがない!」


 今まで少女との出会いを我慢して魔王討伐を続けて来た勇者は、声を荒げた。

 そんな感情的になった勇者に対して、自称魔王は笑いながら答える。


「オホホホ、これは失礼しました。言葉足らずでしたね。たしかに、この世界の魔王ではありません」


 そして、続けて言う言葉にマサオは、リアクションを取ることが出来ないほど衝撃を受ける。




「ワタシは異世界で魔王だったのですよ、いわゆるワタシは『転生者』なのです」




 勇者は難しい顔をする。


「転生者? 何を言っている? 一度死んで転生したとでも言うのか?」

「オホホホ! その通りですよ! 理解が早くて助かります」

「ふざけるな! そんなこと出来るわけ無いだろ!」

「本当のことなんですよ。ワタシは前の世界で、勇者に倒されて死んでしまい、あの世で女神と出会ったのですよ。女神の頼みを聞く代わりに転生していただく事になったのです」

「なに? 女神? 適当なこと言うな!」

「こちらの世界の勇者は、随分頭がお硬いようですね!」


 勇者は話にならないと思い、「はぁ……」とため息をつき、続けて聞く。


「それで、女神に何を頼まれたんだ?」


 その質問に対する答えをマサオとアルフは、真顔のまま聞くことになる……。


「オホホホ! 大したことじゃありませんよ。これからやってくるであろうとされている……異世界から来る『アルフ』という魔王を殺すだけですよ!」

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