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マサオが目を覚ますとソコは――真っ白な世界だった。
音も匂いもしない、自分がどうなったか全く分からない……。
あまりの急展開に頭が回らず、その場をウロウロしていると、
「こんにちわ、あなたがマサオですね」
突如、話しかけてきたのは自分と変わらないくらいの歳の女の子だった。
海のように青い髪、深海のようなグリーンの瞳、背中には羽が生えている。
「羽?」
彼女は心配そうな顔で話し始めた。
「大丈夫ですか? 急なことでビックリしていると思いますが、ここは天界です」
少年は固まった……。
羽の生えた女の子は、話を続ける。
「私は、天使『ユイ』って言います。残念ながらアナタは死にました」
少年はプっと吹き出す。
「またまた~、そんなラノベみたいな展開あるわけないでしょ?」
「ん? 展開? あ! 天界と展開をかけてるってこと? すごーい!」
何か急に馬鹿にされる気分になり、
「あのですね、アナタが誰だか知りませんが、自分は学校へ行かないといけないんですよ。ココがどこだか教えてもらえます?」
「うーん……まあ、そうなりますよね。皆そんな感じですから」
すると、ユイは手を伸ばしマサオの胸に触れた。
「えっ?」
女子に触れられたことない少年の顔は赤面した。
そのまま胸に当てた手を押し込んだ、その手は体にめり込み体を貫通する。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
少年は声にもならない叫びをした。
「残念ですが、アナタは死んだのです。だからココにいるんです」
ユイは腕をマサオから引き抜くと冷静に言った。
少年は信じるしかなかった……。
「はぁ、マジで死んだんですね……。せっかく始まったばかりの楽しい高校生活が……。ん? 楽しい高校生活? 全然楽しくないじゃん! 別にいいじゃん! あ! この展開、もしかして異世界転生するってことですか?」
天使は目を真ん丸にした。
「何で分かったんですか? その通りです! 転生者に選ばれたんですよ!」
伊達に異世界転生モノを読み漁っていたわけではない。
「よっしゃあああ! さあ行きましょう、今すぐ行きましょう!」
ユイは少しひいた様子になり、
「落ち着いて下さい、まだ説明が終わってないんですよ」
マサオは前のめりになり鼻息を荒くする。
「はいはい、説明お願いします! 早く早く!」
この人、ウザいなぁと思いつつユイは説明を始めた。
「次に行く世界では、魔王によって人々たちが苦しめられているんです! その世界で冒険者になり人々を助けてください。魔王から世界を守って下さい!」
――マサオは真顔になった。
「ベッタベタだな……。でも、それがイイ! むしろイイ! やっぱ異世界転生後は魔王とのガチバトルだよなぁ! よっしゃ頑張るぞ!」
自分の拳を天に上げ意気込んだ。
「ちょっと待って下さい、まず転生の神殿へ行き女神様と会って下さい。」
ここで女神、ベタな展開だが大事なイベントでもある。
転生の際、ボーナスとして何か一つ冒険に役立つ物を貰えるのがお約束である。
このボーナス一つで異世界生活としての質が変わると言っても過言ではない。
彼にとって異世界デビューできるかできないかは、ここで決まることなのだ。
「よし! 女神様に会って転生ボーナスを貰いにいこう!」
女神はどんなに美しいのか?
転生ボーナスは何なのか?
膨らむ期待は留まることを知らない。
そして、神殿の前までやってきた。
「私の仕事はここまでです。転生者様、神のご加護があらん事を――」
そう言うと天使ユイは、深々とお辞儀をしたのだった。
この時、少女はつぶやくような声で「――、がんばって……」と囁いた。
その声は少年の耳には届いていない……。
異世界デビューへの期待を持ち、神殿のドアを開いた――