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「うわあああああああああああああ! 腕が腕が!」
イリアカントとウキヨカントのちょうど国境にある、ガイヤ洞窟中央部の大空洞内に叫び声が響き渡る。
腕を失った勇者の声ではなく、ただ見ていただけの少年の声である。
「何を叫んでおるのじゃ? お主の腕がもげたわけじゃないぞ?」
落ち着いた口調でサラッと言うアルフであった。
そんな落ち着いたアルフを見て、顔を真赤にするマサオ。
「ちょちょっ! 人の腕がちぎれたんだぞ!! この状況でよく落ち着けるな!」
「戦闘中だったら腕の1本2本もげるのは当たり前の事じゃぞ、何を興奮しておるのじゃ?」
恐ろしいことをサラリと言うアルフに、ゆでタコみたいな顔になったマサオは、
「おま、お前! 人の腕をプラモデルの腕みたいに言うな!! 右腕ってことはアイツは永遠の恋人を失ったってことなんだぞ!!」
「言っている意味がわからんが……、まぁ少しは落ち着くのじゃ。それにしてもヤツは、なかなかの強者じゃな~」
この状況でアルフは腕を組み笑みを浮かべた。
そんな元魔王を見てマサオの口調は荒くなる。
「お前が元魔族だからってモンスターを褒めることはないだろ! アイツはどうしようもないロリコン勇者かも知らないが一応俺らの味方なんだぞ!」
――こんな状況でもロリコンには容赦ないマサオであった。
「何を言っておるのじゃ、あの勇者を褒めたのじゃよ。あの状況でよう避けたわい。普通なら頭から真っ二つになっておったぞ」
「えっ……!? マジかよ……」
少年の頬から一滴の汗が流れた――
気になることが2つある。
レベル99の勇者がいくら不意を突かれたとしても、腕を切り落とす程の攻撃ができるモンスターがいること。
もう一つは、その攻撃をアルフだけが気づいたこと。
ただならぬ事が起きていることにマサオは、不安で震え始めていた。
右腕を持って行かれた勇者は、切り落とされた右腕の傷口から滝のように血が吹き出している。
痛みを必死に堪えながら、左手から緑色の光を出し傷口に当てていた。
そんな勇者を見てマサオは、
「おいおい……、勇者は大丈夫なのかよ……。ちなみにあの緑色の光は?」
「あれは回復魔法を使って止血しておるのじゃ。心配せんで良い、腕が飛んだくらいじゃ死にやせんよ」
マサオとは対象的にアルフは楽観的に答える。
その時だった――
「おかしいですね、スパッと頭から真っ二つにしたつもりでしたが、どうやって避けたのでしょうね~。まあ良いでしょう、次は左腕を切り落としてバランスを取りましょう。ワタシはシンメトリーじゃないと気持ちが悪いんですよ」
ウキヨカント方向の洞窟側から、ゆっくりと黒い靄が近づいてくる。
そして、その黒い靄は少しずつ晴れてゆき、その姿を現す。
勇者の右腕を切り落とした張本人と思われる者は――
3メートルはかるく超える身長に、真っ黒なローブを身に纏い、肩には大きなアーマーが目立ち、その先に真っ黒なマントをひるがえしていた。頭を覆っている黒光りする兜は、左右から立派な角、額のところには複数の目がキョロキョロと動く不気味な兜である。その顔は、ドクロのようにおどろおどろしい面構えをしていた。
その姿がマサオの瞳に映った瞬間、勇者グルモの姿が『シュッ!』と消え――次の瞬間には自分とアルフのすぐそばに『ザーッ』と滑るように現れた。勇者の足元には、超スピードで来たことで砂埃が立ち、地面にはポタポタと垂れた血で真っ赤になっていた。
この行動は、我々を守るための行動だとマサオでもすぐに分かった――。




