18
イリアカントの隣にある国は『ウキヨカント』という。
そのウキヨカントの国境は、『ガイヤ山脈』で分けられている。
ガイヤ山脈は険しい山々により人の足では山越えは難しい。
そのため両国の行き来は、一本の『ガイヤ洞窟』を通ることによって両国の国交は結ばれていた。
洞窟内はとても広く多くの人々が行き来ができる程である。
ちょうど国境線にあたる洞窟内中央部には、大きな空間が広がり沢山の行商人が商売を行う場所と使われていた。
もちろん洞窟内には、元々モンスター達も潜んでいる。
主なモンスターたちは――
・吸血サボテン
・グレイト・トカゲ
・ダークウィッチ
イリアカントから旅立った冒険者たちにとっては、それほどの強さではない。イリアカント周辺のモンスターを狩りレベル5以上あれば、苦戦するほどのモンスター達ではなかった。
しかし数日前、突然どこから現れたか分からないモンスター達が洞窟に集まるようになり住み着くようになる。そのモンスターたちは、駆け出し冒険者では太刀打ちできない強さであった。そのため洞窟を利用する多くの人々は、国を渡ることができなくなってしまったのだ。
そこでやってきたのが『緊急クエスト「隣国との国境にある洞窟に住み着いたモンスターの討伐」推奨レベル50 期限7日以内』なのである。
今だハッキリとしたモンスターの情報がないまま行われた、このクエストを受けてしまったのがマサオである。
そして今そんなわけのわからないモンスターと戦っているのが、勇者である。
魔王城まで行った最強と名高い勇者グルモは困惑していた。
魔王城まで行ったということは、この世界に存在するモンスターとは一通り戦ったってことである。しかし、目の前にいるモンスターには、驚きを隠せないでいた。なぜなら魔王城を死守するモンスターより遥かに強かったからである。魔王城から遥か遠くのイリアカントに、こんなモンスターがいるわけがない。
通常いるガイヤ洞窟内のモンスターとの戦闘では、いくら素早さ2のクソザコでも目で追えない戦闘になるわけがないのだ。
どんな戦闘も冷静だったグルモは、一滴の汗が流れる。
(なんだ、このモンスターは……。おかしい……。どんなモンスターでもタイプが分かれるはずだ。目の前のモンスターは、どのタイプにも当たらない。パワータイプのモンスターのはずなのに、最上級の攻撃魔法を連発してくる。いつから魔王は、こんなモンスターを生み出していたのだ……)
グルモがそんなこと考えていることなんて、マサオはちっとも知らない。
戦闘自体が見えてないこと、見えたときにはモンスターは倒した後である。
洞窟に入ってから脳天気に少女とケンカしている少年は、もちろんモンスターが物凄い魔法を使っていることも気づいていない。
その理由は、グルモの超上級的な戦い方していたからだ。
アルフだけは、絶対怪我をさせてはいけない一心でやり続けていた。
それは――
モンスターが演唱した魔法→物理的に発動した瞬間→その範囲を『時空間魔法』で飛ばす→それを何度も繰り返していた。
今対峙しているモンスターは、魔法を機関銃のように連発している。
それを全て、人のいない場所へと正確に飛ばしていた。
更に誰にも気づかれない一瞬でやっているのだ――大したものである。
――アルフのため、曲芸のようなことをする勇者であった。
そんな苦労している勇者を知らない少年は、自分のステータスを勝手に振り分けられた腹いせに、勝手に勇者の初パーティとなった少女の肩を掴み、揺さぶっていた。
「このバカ! ふざけんなよ! やり直しできないのにどうしてくれるんだ?」
「ふんっ! 余は知らんぞ! マサオが悪いのじゃ!」
悪びれる様子もないアルフに、こめかみの血管がピクピクとさせ、眉間にシワをよせるマサオ。
「てめぇ喧嘩売ってのかコラ!」
「なんじゃ? 喧嘩なんて売ってませんけどなにか?」
睨みつける少年に、可愛らしい顔で睨み返す少女。
一触即発の状態である。
――その時であった。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
その叫びの声の主は、血だらけの剣を持った勇者であった。
突然の叫び声に驚く二人。
そして勇者は、指をさしながらマサオへと迫りくる。
「おい! キサマ! なにをしている?」
「……えっ?」
あまりの剣幕で迫るグルモに、マサオの怒りのボルテージも下がってしまった。
頭が今にでも爆発しそうな勇者は、続けて叫ぶ。
「羨ましいほど仲良くしやがってぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「えぇぇ……」
「私が必死に戦っているのに……イチャイチャして……」
血だらけの剣を地面に突き刺し、プルプルと震え泣き出してしまった勇者。
なにがなんだか分からないマサオは、
「ちょっと何を言ってるんですか? なにか凄く誤解してますよ……イチャイチャなんてしてませんから……」
壊れ物を触れるような声で、優しく声をかける。
「本当だな? 嘘ではないな? アルフちゃんは本当に私のパーティメンバーだよな?」
目に涙を貯めながら、大事なことを確認をする勇者。
本当にコイツは勇者なのかと疑いながらマサオは、
「はい! 本当です! アルフは勇者様のパーティメンバーですよ!」
「……なら良し」
突き刺していた剣をサヤに戻し、大事な確認ができて安心した勇者は、すっかり元気を取り戻した。
「ゴホンッ! つい取り乱してしまってすまなかった……。それにしても、アルフちゃんは私の仲間だからな、あまりイチャイチャするな! 約束通りココにいるモンスターは全部倒してやるから!」
「はい……よろしくお願いします……」
――さっきのやり取りがイチャイチャに見えるなら病院行ったほうがいいよっと言いかけたがやめたマサオである。
マサオは気づいていた。ここまで勇者の発言をずっと黙って聞いていたアルフが……今まで見せたことのない顔で、物凄く気持ち悪いモノを見るような目で見ていたことに……。繊細な勇者には絶対に伝えてはいけない。その事は、ずっと心の中にしまっておこうと決めたのであった……。
そして、微妙な空気が流れながら先に進むと国境線のある大きな空間にでた。
大空洞を見回すグルモは、
「おっ! 国境線まできたか! エリカの話によるとウキヨカント側からココまでには例のモンスターは出てないって話だから全部倒したってことだ! よし! クエストクリアだ!」
勇者のその言葉で、マサオは大きく腕を上げその喜びを表す。
「おぉぉぉぉぉ! マジで! よっしゃー! 借金なくなった! いやー大変だったわ~!」
――コイツは何もしていない……。
喜ぶ少年に対して、アルフは真剣な顔で周辺を見ていた。
勇者グルモはというと、頬を赤くしてモジモジしている。
「アルフちゃん……クエストもクリアしたことだし……ご、ご褒美として……私の頭をなでながら褒めてもらってもいいかな?」
みんなが憧れる勇者、世界に7人しかいない勇者、イリアカントの王様から姫と結婚してくれとまで言われた勇者がソレを言った。
「はぁ?」
額にしわを寄せ、憎悪に満ちた顔をするアルフ。
「……えっ?」
そんな顔を見て、後退りするメンヘラ勇者にマサオが空気を読む。
「アルフ! 頭くらいなでてやれよ! ここまでしてくれたんだから!」
「はぁぁぁぁぁ? ふざけんじゃないぞ! 絶対にイヤじゃ!」
少年を睨みつける勇者は、
「話が違うぞ! アルフちゃんは私とパーティを組んだのではないのか? 普通、クエストをクリアしたらパーティの皆で褒め合うものだろ? 私はアルフちゃんに褒められたい! 私の頭をなでながら「よく頑張ったね!」って褒めてもらいたい! どうにかしろ!」
「あっ! ちょっと待って下さいね……説得しますから!」
マサオは小声でアルフに耳打ちをする。
「あーもう面倒くさいから、例の魔法のコトバ言っちゃえ! あのロリコンはお前に褒められるまで終わらんぞ……」
「そうじゃな……」
ゴホンっと咳をして、真っ直ぐな目で少女は言う。
「……勇者よ! わるいが褒めることはできん! だって……元カレが……」
むふぅと鼻を膨らませるアルフ。
勇者の反応は――
「……えっ? 元カレ? アルフちゃんに元カレなんているわけないじゃん!」
勇者はヤンデレヒロインのような目をしていた。
瞬時にマサオは察した、駄目だコイツと。
アルフはマサオの腕を掴み引っ張る。
「ど、ど、どうするのじゃ? 全然、幻滅してくれんぞ!」
「ま、まぁ、落ち着け! もう頭をなでて許してもらうしかない!」
「もう! ふざけるんじゃない! 余は絶対にイヤじゃぞ!」
「わかった、わかった! 褒めるだけにしてもらうから、ちょっと待ってろ!」
「はぁぁぁぁぁ? 褒めるだけでも――」
その時だった――。
物事は突然起こる。
マサオと言い合いをしていたアルフは、急に真剣な顔になり――こう叫んだ。
「よけろ!! 勇者!!!!」
『ヒュンッ!』
と、風切る音が響く。
『ボトッ』
と、何かが落ちる音がする。
マサオは信じられないでいる。
勇者の右腕が地面に落ちていた――。




