17
異世界へ転生してしまった高校生マサオは、元大魔王アルフが勝手に引き受けてしまったクエスト『隣国との国境にある洞窟に住み着いたモンスターの討伐』をクリアするため、魔王から少女にされたアルフを餌にイリアカント最強勇者グルモと共に旅立った。
そんな勇者グルモは、頭に宝石がはめ込まれたサークレットを身につけていて、ひと目で『ザ・勇者』という格好だった。
――パッとイメージする勇者の姿である。
モンスターと対峙した彼の顔つきは、先程まで少女を見るような目ではなく、死線を何度も超えてきた強者の目であった。
イリアカント周辺のモンスターは、勇者の威圧に逃げ出して戦闘にならなかった。
そして、あっという間にクエストとなっている洞窟に入る。
さすがに洞窟内のモンスターは逃げることなく襲い掛かってきたが、グルモの相手になるようなモンスターはいない。
レベル99勇者の戦闘は、少年がイメージする以上のものだった。
マサオの目には――グルモ姿が映っていない。
『キン!』『カン!』『デゥクシュ!』と音だけが聞こえていた。
「な、な、なんだよコレ! 全く戦いが見えないぞ!」
目を真ん丸にした少年は、後ずさりしながら声を発した。
「なんじゃ、マサオには見えんのか?」
すぐ横にいたアルフは、腕組みながら冷静に答える。
元魔王の瞳は、上下右左と戦っている勇者を追うように素早く動く。
「えっ! お前には見えるのか?」
「当然じゃろ。この程度のスピードが見えなくては、魔王なんてやれんからな!」
むふ~っと鼻息は荒くして少女は、ドヤ顔で答えた。
疑う目をするマサオ。
「本当に見えてるのか? 適当なこと言ってるんじゃないだろうな?」
「なんじゃと! 失礼な奴じゃな! まぁ、お主の素早さじゃ見えなくても仕方がないがな。たしかマサオのステータスでは素早さは2じゃったな! クスクス! 2じゃ見えんでもしょうがないじゃろ! 2じゃな~、亀より低いんじゃないのか? まぁ見えなくても気にするな! 2なんだから! クスクス!」
このアルフの発言にマサオは、眉間にシワを寄せる。
「くそー! 俺のステータス馬鹿にしやがって! それに、この戦闘が見えないことと素早さは関係ないだろ!」
「お主は本当に何も知らんのじゃな? 素早さと動体視力は関係してるに決まってるじゃん! 素早さっていうステータスは自分の動きだけではなく、相手の動きを見るステータスなのじゃよ!」
やれやれと言った表情を浮かべるアルフ。
「ちょっと待てよ! 何でそんなに、この世界のステータスについて詳しいんだよ? お前だって来たばかりなのに……」
「あー、余の世界も同じようなシステムだったからな! 余を相手にする冒険者たちのことは何でも知っておるぞ!」
このアルフの発言に不安がよぎる。
「じゃ、じゃ、じゃあ素早さをある程度上げないと戦いにもならないってこと? 賢さ極フリして賢者になる夢はどうなるんだよ!」
「どうなるんだよって言われても、いくら賢さだけ上げて凄い魔法を覚えても当てられなければ何の意味もないぞ!」
ガラガラ! ガシャン! 希望という名の夢が崩れ去っていった。
大賢者マサオ様は、この瞬間に消えてなくなったのだ。
「たった一つの希望が……、これから俺はどうすればいいんだよ……。このままだとパッとしない冒険者になる未来しかないじゃん……、せっかくこういう世界に来たんだから特別な存在になりたかったのに……」
ロールプレイングゲームの中の自分は、常に特別な存在として始まる。
しかし現実は厳しい、異世界だろうが都合よく特別な才能、ポジションに選ばれることもなく、前の世界のように特別でも何でもない存在と気づき喪失感は味わっていた。
少年は膝をついた姿勢のまま硬直してしまった。
そんなマサオを見て、アルフは気の毒に思うようになっていた。
少年のステータスを笑ったのは、自分を勇者に売ろうとした仕返しのつもりだったからだ。
「マサオよ、そんな落ち込むでない。まだ冒険者として始まってもないのじゃぞ」
たしかにそうである。
まだ何も始まってもないのにココまで落ち込むのも現代っ子ならではである。
そして、アルフは話を続けた。
「賢者になれなくても道は他にもあるぞ! 冒険者の敵であった魔王から役立つアドバイスしてあげるから元気を出すのじゃ!」
――魔王とは思えない発言である。
元大魔王からのアドバイスが始まった。
「いいか、よく聞くのじゃ! たしかに力や魔法は、冒険者として魅力的に見えるかもしれないが魔王からしたら大したことじゃないのじゃ! だって、そんなことは魔王でもできるからな! だから簡単に対処の方法もわかるし怖くもない。逆に困るのはのぅ、魔族にはないスキルや知識の方なのじゃよ! どう対処していいかわからんからな。だから今後、この世界の魔王を倒そうと冒険するのなら、皆が選ばない職業を選んでオンリーワンを目指すべきじゃ!」
なんとためになる発言であろうか。
元犯罪者からの防犯講座のようであった。
その元魔王からのアドバイスは少年の心を掴んだ。
「そ、そ、そうだよな! そもそも戦力になる職業なんて人気なはずだから、今更目指したって特別な存在になれるわけなかったんだよ! 最近の作品では、主人公は盗賊を選んでいるし、やっぱ直接戦闘に関係ないスキルほど重要になってる証拠ってことだ! よし! 俺は盗賊を狙うぞ! 素早さを軸にいけるからな!」
マサオは立ち上がると、拳を振り上げ復活した。
――分かりやすい性格な少年であった。
そしてポケットに入れていたステマがブルブルと震えていることに気づく。
ステマの表示を見ていると、
「おっ! すげぇ! レベルが5になっている! 俺、何もしてないのに!」
その理由は、勇者グルモとパーティを組んでいるからだ。
彼が倒したモンスターの経験値は、何もしていないマサオにも振り分けられる。
――まさにただの乞食である。
「そうか! 余にも見せてくれ!」
元気を出した少年にアルフは、ただただ嬉しそうにステマを受け取った。
少年の成長を素直に喜んだ。
「よし! 俺の冒険はココからだ! 絶対、俺は特別な存在になってやる!」
少年はやる気をみなぎらせ――少女は手をモジモジし始めた。
「そ、そ、そのことなんじゃが……。特別な存在になりたいようだが、もうなっておるぞ……。余の中ではな……」
少女魔王は下を向いたまま、顔を真っ赤にさせ小声で言った。
――ラノベのパターンなら「え? なんだって?」と難聴になるはずだが。
「お前の特別になったってしょうがないだろ? 俺は世界の特別な存在になりたいんだよ! なに気持ち悪いこと言っての?」
聴力が良い少年は、冷静に言った。
少女は――大型モンスターに投げっぱなしジャーマンをされた衝撃を受ける。
泣きそうになる気持ちを堪えてプルプルと震えた。
そんな心情を全く知らない少年は――
「さぁ! ステータスの振り分けするぞ! ゲームでもこの時が一番楽しいんだよなぁ! とりあえず、勇者の戦いも見たいから全部素早さにしよ! おい、アルフ、ステマ!」
と少年はアルフに視線を向けると、
「……」
少女は死んだ魚のような目をして――少年のステマを連打していた。
「おい! お前、何してんだ?」
マサオはそう言い――少女からステマを奪い取りソレを見た。
『ちから3 すばやさ2 スタミナ2 かしこさ3 うんのよさ10』
運のよさが8上がっていた……。
そして、運のよさが10以上になったため『レベルチェッカー』を覚えた。
レベルチェッカーとは――対象のレベルが分かる。
――ただソレだけ……。
「おま、おま、おまえぇぇぇぇぇ!! なんてことしやがるんだぁぁぁぁぁ!!」
少年は叫ぶ――少女は悪びれる様子もなく答える。
「よかったのぅ! レベルが見れるようになって! 魔王もレベル知られたら困るのぅ! ねぇ今どんな気持ち? ねぇ?」
少年は顔を真赤にして、
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
と、洞窟内に響き渡った――。




