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「ガハハハッ! ほら、見てみろ! やはり、ただの人間ではないか! 真っ二つにしてやったぞっ! 天界人を惑わす人間はこうなるのだぁ! ガハハハッ!」


 大声で笑う大天使カールの声がこの場を包む。何が起きているのか理解が追いつかないワタシは、左腕の痛みを忘れてしまうほどだった。


「おーい、聞いてるか?」


 なぜかは分からないが、カールに斬られたはずのマサオが目の前におり、再びワタシの耳元で囁いた。魔法でもない、もちろんシステム介入でもないのだ……。


「えっ……?」


 と、小さく反応する以外、ワタシにはできなかった。すると、マサオにしか見えない少年の口は開く。


「アンタが敵なのは分かっている。それにアルフの命を狙ってるのも重々理解しているつもりだ。でもさ、ここはどうか……アルフを……『あの中』から助け出すのを手伝ってくれないか?」


 ワタシの右耳に向けて、そう言った。ワタシは困惑した。今の現象に頭がついていけてないのに、そんな質問をされても答えようがない。そんな時だった。すぐそばにいるマサオではなく、カールに斬られた方のマサオの存在からシステム異常を感知する。見たこともないコードの羅列にシステム自体が困惑し、復旧しているのが読み取れる。システムがそんな反応を見せたのは初めてだ。少しづつだが、頭の中の歯車が回り始め、そこで目の前のマサオに最初に浮かんだ言葉を投げかける。


「あ、あなたは何者なの……?」


 かすれた小声で、そう聞くしかなかったのだ。固有レアスキル『パーフェクト メジャー アビリティ』レベルでは計れない真の実力を見抜くスキルを使用しても『レベル5の人間』としか分からなかったから。するとマサオは――


「はぁ? なに言ってんだ? アルフとずっと一緒にいただろ? あれだけ俺のこと場違いだの何なのって馬鹿にしてたのはお前だぞ! もう忘れたのか? たしかに勇者とか魔王とかいる場で、ただの人間がいるのは何か変なのは分かるけど……忘れるとか酷くない? 存在感が薄いの気にしているのに、なんでそういうこと言うかなぁ……まったく……」


 顔を真っ赤にしたマサオは、ふてくされるように言う。ワタシが聞きたかったことと違う気がしたが、この瞬間、このマサオは本物だと確信した。そうなると、更に疑問が増える。斬られたマサオは……ってことになる……、視線をカールたちへと変えた時だった、驚きの光景を目の当たりする。斬られたマサオの姿が、不自然にその場からパッと消えたのである。移動したとかそういう類のことではない。ただただ、その場から消えたのだ。すると――


「な……なんだとぉぉぉぉぉ! きえ……消えただと……! たしかに斬った。手応えはあった! な、なのに……消えるとはどういうことだ? システム上、場所変更、時間変更、それらの干渉もない……。起きた現象の後に変更などありえない……こんな現象は絶対にあってはならないのだ……ど、どういうことだ……ハァハァ……それよりもどこに行った……?」

 

 太い血管を首筋に立てながらカールは叫ぶ。そして、ふと気づくとシステム上のマサオの存在情報は、目の前のマサオへと移動していた。信じられない光景である。ワタシは震える唇を動かしマサオへ放った。


「い、い、今……アナタ……な、な、何をしたの……?」


 叫ぶカールの方へ顔を向けていたマサオは、ワタシの言葉を聞き受けるとコッチを向き、不思議そうな表情を浮かべた。


「ん? なんだって? それにしてもよ、あの羽根を生やした人ヤバくないか? さっきから何かキレてるみたいだし……何が何やらサッパリ分からん……。でもさ、アルフを閉じ込めているのは『あの人』なんだろ? だからよ、ここは停戦ってことで助けてくれないか? 頼むって! お前だって、アルフがあのままだと倒せないぞ? いいのか? それによ、いきなり出てきた新参にデカイ顔されていいのかよ? 今はそんなナリだが、お前魔王なんだろ? 悔しくないんか? おう? 悔しいよな? だろ?」


 必死に訴えてくるマサオに明らかな温度差を感じつつ、ワタシは困惑しながら言った。


「ちょ、ちょっと待ってよ! マサオが先に説明してよ! アレどうやったのよ? もしかしてアナタも知る者だったの?」

「な、なに? 汁物? 今はメシの話は関係ないだろ! そういえば、今、俺の名前言ったよな? 忘れたフリしたんか? なんだ? そういう精神攻撃か? 今は仲良くしようよ! 協力してくれよ! 頼む――って、お前っ! ひ、左腕どうした? まさか、アイツにやられたのか?」


 目を丸くしたマサオは、ワタシの左腕を見て驚いている。噛み合わない会話に、ワタシの頭は熱くなった。


「もう! 左腕のことなんて、どうでもいいのよ! ワタシの話をちゃんと聞いてよ!」


 と、強めの口調で言い返した。すると、マサオはワタシを見ずに、キョロキョロとしている。そして、パッとその場から消え、瞬時にパッと現れ――


「お、おい……これ……お前のだろ……? うっ……俺、グロ耐性ないから、早くくっつけろよ……」


 と、右手にはワタシの斬り落とされた左腕が握られていた。ソレをワタシに差し出してくるマサオは、顔を青くしていた。促されるまま受け取るワタシは、


「い、いや、渡されても困るわよ! 水属性の魔力を持たないワタシには、治療なんてできないんだし……っていうか、そんなことはどうでもよくて、アナタのことを説明してよ! どうやって、あの攻撃を避けたのよ! それに、どうやったらあんな風にシステムに干渉できるのよ!」


 渡された左腕を強く握り締めながら言い放つ。すると、マサオは血が滴り落ちるワタシの左腕ばかりを細めた目つきで見続けいる。


「おいおい、なんだよ……治せないのかよ……参ったなぁ……グルモのところに治療できそうなヤツいたし、そこに連れて行くしか――」

「もうっ! いい加減にしてよ! 左腕のことなんかどうでもいいって言ってるでしょ! そんなことよりも、ワタシの質問に答えなさいよ!」


 ブツブツと左腕のことばかり気にしているマサオに対して、頭にきたワタシは彼の言葉を遮って怒鳴る。なんで、こんな男が生きてたことをあんなに嬉しく感じたのか……ワタシをイライラさせているだけじゃない。そう、ゴウマの姿の時から、この人間にはイライラさせられっぱなしよ……こんな男……大嫌い……。ワタシがそう睨みつけるとマサオは、


「でもよ……そのままだと、これからの生活が困るだろ? 俺が上手く言ってやるからグルモの所へ行こうぜ。その代わりと言っちゃ悪いが、あの翼野郎を何とか説得してもらえねぇか? アルフを解放してもらるようによ。翼野郎よりお前の方が明らかに強いし、嫌なんて言わないだろうからさ、頼むって!」


 と、言った。何を言ってるのか分からない……ワタシの方が大天使より強いって……どう見たらそう思えるわけ? 左腕を落とされたのを見て、なんでそう思えるのか、さっぱり理解ができない。そもそも、雨季の杖は破壊されてしまっている。つまり、二度とアルフを解放させる手段なんてないのである。必死に頼み込んでいる彼を見て、なんて言えばいいのか……? と、思いを錯綜させていた時だった。


「なぜ……貴様がソコにいる……?」


 と、すぐ近くでカールの声が聞こえた。しまった、と思った時には後の祭り。マサオとの会話に夢中になっていたせいでシステム監視を疎かにしていた……。カールは、すでにシステム移動し、我々の後ろに回りこんでいた。


「マサ――」


 『オ』を言う前に――


「遅いっ! 二人共死ねぇぇぇぇぇ!」


 背中から感じる物凄い殺気……ワタシたちに向かってくる空を舞う剣の「ヒュゥゥゥゥゥ!」という音。さすがに、ここまで背後をつかれたら避けようがない……。一瞬で後悔が押し寄せてくる。バカみたいな喧嘩するより、普通の会話をマサオとしたかった。奇跡のようなことが起きたのに、変なプライドがでて素直になれなかった。マサオの「仲良くしようよ」は、凄く嬉しかった。ワタシのほうこそ仲良くしたいって言いたかったのに……ホント……ワタシってバカだ……。




『ドスンッ!!!!』




 剣が地面まで貫いたのだろう……地鳴りのような物凄い音がした。ワタシたちは斬られたのだ。そう思った瞬間――


「あーもうっ! しつこいヤツだなぁ!」


 と、マサオの声が聞こえる。その瞬間、つぶっていた目を開き、広がる光景に体が硬直する。目の前にはマサオの顔があったからだ。ワタシは……彼の腕の中に抱きかかえられていた。


「あっ……」


 出た言葉は、それが精一杯だった。顔が異様に熱くなるのを感じていると、マサオがコチラを覗く。


「おい! 腕落とすなよ! まったく、何をしてるんだお前は? もう少しで当たるところだったぞ!」


 と、眉間にシワを寄せてワタシを叱ってくる。体の中がポカポカと熱くなるのを感じた。ジーっとそのままマサオを見ていると、チラッと彼と目が合う。恥ずかしくなったワタシは、目を逸らそうと視線を移動させると、先の光景に驚きを隠せなかった。それは、かなり遠くで剣を振り下ろし、地面ギリギリで止めたカールの姿が目視できたのである。一瞬でココまで移動したことにも驚愕したが、それよりもカールの剣の先には、斬られたマサオとワタシの姿もあったことだ――。

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