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「オラ! オラ! オラオラ! どうしたどうした? そんなもんか! 知る者の実力はっ! もっともっと速く動かないと死んでしまうぞつ! ほらっ! さぁ、この僕をガッカリさせないでおくれよ!」


 目を輝かせ、口角が上がりっぱなしの大天使カールは、一心不乱に攻め続ける。これは、複数同時によるシステム介入演算の継続時間を計っているのだ。

 

 77同時――今のワタシが、このスピードを実現させるシステム介入の数だ。大気中に漂う物質の重力を変化させ続けている。さらに、身体能力向上魔法も常に発動させ続けなければいけない。相手の動きを見ながら、この作業を続けなけばワタシは死ぬってことだ。今のワタシは、右手で料理しながら、左手で演奏し、右目で東を見ながら、左目で西を見るものなのだ……。


 さすがに無理がある。徐々に同時にできるシステム介入を減らすしかなかった。つまりスピードがだんだんと落ちるってことになる。今の同時介入は55――かろうじて避けていた動きから、かすりながらも攻撃を受け流す動きに切り替えていった。そんなワタシに対して、カールはすぐに気づく。


「おいおいおい! もう終わりかよ! あーあ! 所詮、下界人ってところか? チェッ! つまんねえの! まぁいいや、このまま殺しちゃうね! 少しは期待してたのに残念だよ……」


 と、上がりっぱなしだった口角は下がり、カールはボヤいた。何に期待してたかは知らないが余計なお世話である。カールの動きは、さらに速くなり、その攻撃は鋭さを増していく。本当に今、殺る気のようだ。その瞬間、久しぶりにワタシの声帯は働いた。


「融合魔法の一つ! フレイヤーストーン! 我の敵に天誅をっ!」


 ワタシがそう叫ぶと、次の瞬間には、ワタシたちの周りに、無数の赤い浮遊物が存在する。この戦闘の中で舞い上がっていたのは、無数の砂やホコリだけじゃない。カールの凄まじい攻撃の衝撃波により生まれ続けた数えきれない小石たちも存在している。その『モノ』たち全てに魔力を与えた。いろんな形、いびつな大きさの小石たちは、一気に真っ赤に輝き、そして炎を身にまとう。それは、個々に意思を持つように、一斉に大天使様へと立ち向かっていく。この『現象』は、カールもすぐに気づく。


「はあ? なにこれ?」


 と、カールから呆れ声が上がる。ごく当然の反応だった。今更、魔法を使って何になると思うだろう。だかしかし、ワタシは知る者の以前に『魔法使い』なのだ。魔法もろくに使わず死ぬ事は許されない。これは、ワタシの意地なのである。至って真剣なワタシに対して、カールは呆れ顔で、


「はぁ……しゃーもな! 本当に下界人は低能で哀れだ! 小賢しい手段しか思いつかない。所詮、魔法ってやつは、下界人が考えたおぞましい手段に過ぎない。あーあ、とても残念だよ。知る者は他の下界人とは違うと期待したのに、なんら変わらない。小汚く、下品で、野蛮だ……こんな汚い下界にはもういたくもない。さっさと死ね!」


 軽蔑したような目でワタシを見ては、そう吐き捨てた。

 そして――


『パチンッ!』


 と、カールは指を鳴らした。次の瞬間、真っ赤な炎を身に纏った無数の小石たちから輝きが消えた。


「貴様らの魔法なんて、天界人の我々からすれば、この指鳴らし一つで消える現象だ。本当にしよーもない現象。直接、見るだけでも吐き気する! もう二度と見ないように、一瞬でお前を消してや――」


 『る』っと言いかけたところで、カールの声が途切れた。続いて――


『シュンっ!!』


 と、風を切る音が鳴る。音の持ち主は、大天使カールの一番近かった小石の一つだった。そして、彼の肩を貫通したのだ。


「ななななな、なんだとぉぉぉぉぉ!」


 一瞬で怯んだカールは、仰け反りながら吠えた。今までとは違う、演技でない。我々下界人が作る表情をしていた。今まで見せたことない表情だ。どんな時もシワ1つ作らず表情を作っていたのがよく分かる、今は違う。しわくちゃに発生したシワは、真実を表していたのだ。幻覚でも何でもない。真実の表情を見せてくれた。ワタシがこの表情を堪能していると、カールの瞳はギョロリとワタシに向ける。


「魔法の現象は、キャンセルしたはずだ! なのになぜ……?」


 さっきまでと打って変わって、真剣な声のカールにワタシは、


「確かに魔法の現象である炎は消えた。だが……小石たちが持っている『運動エネルギー』は魔法ではない、向きを変えただけだ。変えられた運動エネルギーは、自然現象に変わる。そうそう、ちなみその運動エネルギーの元は……さっきまでワタシに向かってバカみたい使っていたエネルギー……そう、お前が放っていた運動エネルギーなんなんだよっ! バーカ! だから、下界に存在する石でも貫通できたんだ! ざまーみろ!」


 今まで溜めていたフラストレーションを一気に吐き出した。脳内アドレナリンがドバっと一気に噴出して、ハイになった。そんなワタシに対して、カールは必死に表情を作り直していた。負け惜しみなのか、再び口角を上げながら開く。


「クックックッ……この程度で僕に勝ったつもりかい? こんな怪我、我ら天界人なら一瞬で完治できるんだよ! 下界人と違ってね! 調子に乗りすぎたねキミ! 僕、正直ムカついたよ……天界人……いや、大天使なのに……感情的になっているだ……。簡単に死ねると思うなよ……バラバラにして……殺してくれと泣き叫ぶまで苦しめてやるからな……」


 カールのその目は、据わっていた。本気で怒っているらしい。だが、ワタシは続けてこう言ってやった。


「そう……それにしても、今の状況で随分余裕ね! 石がアレだけだといつ言ったかしら……アナタの運動エネルギーを持った小石たち……」

「な、なんだと……」


 カールの顔から笑顔が消える。一気に青ざめるのが表情から読み取れる。更にワタシは続ける。

 

「その程度の怪我なら一瞬かもしれないけど、ワタシに言ったみたいにバラバラになったら、どうなるのかしらね……。ちなみに、今はアナタがバカにした魔法で運動エネルギーを止めているけど、アナタ自身でキャンセルするのかしら……」

 

 と、言ってやった口元が緩んだ瞬間、その場に止めていた運動エネルギーを全て解放する。


『シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ!』


 数えきれない音が次々と耳に入ってきた。ワタシを避けて取り囲むようにカールに飛んでいく小石たち。物理的移動では、避けれない数だ。どうする? 天界人? 考えられる行動は27通り、どれで来る? 大天使カールの一挙手一投足を見守った。すると――


「クソっ! これでは間に合わない! こ、こんなゴミみたいな下界人に対して……システム……移動……」


 ワタシの視界からカールは、じんわりと消えた。ワタシは、静かに目を瞑る。システム変動の位置が変動するのを待った。そして――


 この瞬間、笑いが込み上げて止まらなくなった。最も愚かな行動に出たことに。これで、全てが分かった。ずっとおかしいと思っていた、この戦いの中で一切、カールから魔力の痕跡がしないことに。ないのは当たり前、天界人自体、魔法が使えないのだ。


 予想はしていた、カールもあの言い方からも分かるように、天界人は魔法に対して必要以上に嫌悪している。天界人にとっては使う必要もなかった魔法、だがしかしシステム介入ができるワタシを対象したことによって、その気持ちが露わになったのだ。わざわざキャンセルしなくても良い魔法に対してもキャンセルしてきたのもその証拠だ。カールよ、その魔法で、全てを失うのだ。

 

 ――魔法が使えるのなら、システム移動だけはしない。システム移動をすることによって、今までシステム介入でコントロールしてきた自分の周りの砂やホコリを捨てたことになる。そんな状態のお前なら、こんなワタシの攻撃でも当たる。魔法は、下界に住むモノの努力の結晶だ。下界を舐めるな!




「ハァハァ……な、なんてことだ……こんなことがウキヨ様にバレたらワタシはどうなる……? 調子に乗って『下界モード』なんてしなければよかった……言われた通り『通常モード』のまま始末すればよかったのに……クソックソッ……『大天使クラリス』にまた馬鹿にされる……はっ!」


 カールは、やっとワタシの存在に気付いた。今のカールの場所、最初にワタシが逃げてきた場所だった。あれほど、アルフから離れるなって言っておきながら、ここに来るとは……。「はぁ……」とため息をついた瞬間――


「下界人ごときがふざけやがって! キサマなんて、天界から見たら、その辺に落ちているただのゴミと変わらないんだよ! システム――」

「遅いっ!!」


 ワタシの拳はカールの顔面を捉えていた。右拳には、普通の人間と同じ肌の熱が伝わってくる。メキメキと鼻の骨が砕ける感触も拳から伝わった。身体能力向上魔法の一つ『トリプル フルブースト』で筋力を限界まで上げていたおかげだ。


「ほげぇぇぇぇぇ!」


 大天使とは、思えない声を上げたカールは、以前のワタシと同様に、アルフのいる場所へと吹き飛んで行った。カールの周りのホコリの重力はイジっているから、あの場所まで飛ぶだろう。


 今……やり残したことは……全てやった……。あとは……この後、待っているだろう死を受け入れるだけだ――。

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