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重力をコントロールすることは、それほど難しいことではない。実現に土属性の中に『重力魔法』っていうのもある。範囲内の重力を強くして、相手を押し潰して倒したり、動きを止めて攻撃を当てやすくするなど、いろいろと利用方法がある魔法だ。だがしかし、『重力魔法』と銘打っているが、実際の重力を変化させているわけではない。元々ある重力に、さらなる力を追加させ、重力を変化させているよう見せているだけなのだ。その証拠に、『重力魔法』では重力を軽くすることはできない。ところが、カールはシステムに介入して重力自体を変化させていた。
この世界の基本的重力を変化させることは、大天使でも無理だろう。世界のシステムが崩壊してしまう。だからカールがやっていることは、砂やチリのような空中に舞いやすい物質にかかる力、つまり重力を都合よく変化させているのだ。強くしたり、弱くしたり、と絶妙な力加減で。単純に素早く動くためだったら、重力を減らせば良いと思うが実際は違う。重力が減れば、それだけ自分にかかる力が減ってある程度スピードは上がるが、飛躍的に変わることはない。それどころか、慣れない重力に対しての力の伝え方はとても難しく、逆に遅くなることもある。だからカールは、基本重力は変わらないようにして、動きに対して最もスピードがでる重力に細かくコントロールしている。踏み込む際は足元の砂たちの重力を強く、蹴り上げた後は小さくと、細かなコントロールで最適なスピードを実現していたのだ。
実際、これのとんでもないところは、自分の周囲にある砂やチリのような小さな物質一つ一つに対して、個別にシステム介入していることだ。何百、何千、何万、という個別のシステム介入を同時に行わないとできないことである。せっかく重力変更コードが分かっても、こんな同時のシステム介入なんてワタシにできるわけがない……。さすが天界人といったところか、システム介入に関しては、ワタシなど足下にも及ばない。だが――
「よーし! ほんじゃ次いくよー! 簡単に死なないでねー!」
カールは、ピョンピョンと小さくジャンプしながら声を上げた。そして、先程のように地面を確かめるようにポンポンと靴底で鳴らし、『ズババババババン!』と爆発音が鳴る。目の前では、土煙を大きく立てながら一気に迫ってくるカール。全く同じ展開に、全く同じ動きのカール。この瞬間、カールの意図は読める。
迫り来るカールに、ワタシは歯を食いしばる。ワタシにも出来るだろうか? やるしかない! やるしかないんだ! 出来なければワタシは死ぬだけだ! やるだけやってみるしかない! 頭の中では、自分へのエールが飛び交う。今の私にできるのは、数十が限度……より効率的に動けるポイントのみ見分けるしかない!
「トリプルアクセルっ! フルブースト!」
ワタシは魔法を唱えた。身体能力向上魔法によって、体中の細胞が魔力で包まれていく。自分の周辺には、この魔法特有の赤いオーラが発生した。その瞬間だった、すぐ目の前には、もうすでにカールの左拳は振り上がっていた。
「まーた、それ! そんなちんけな魔法でどうにかなると思ってるの?」
カールがワタシの姿を見て、嘲笑しながら口にした。そして、振り上げた拳を下ろす。縦に振り下ろす軌道――
『ブゥゥゥゥン!』
と、拳が空を切る音。
「あれっ?」
と、カールから声が漏れる。
初撃を仰け反った態勢でギリギリに避ける。
次――
『ドスンっ!』
と、左足を踏み込む音、カールは右拳を振りかぶり振り下ろす。ワタシの腹を狙った横の軌道――
『シュゥゥゥゥ!』
と、拳が空を切る音。
バックステップで拳一個分、後ろに下がりギリギリ避けた。その後、カールの動きは止まった。一瞬、その場に静寂が生まれる。
――77同時システム介入でなんと避けれた。正直、攻撃を避けれた事に、喜びを噛みしめたいのだが、次のカールの動きが分からない今、どの動きにも対応できるよう、宙に舞っている物質のコードの書き換え、演算をする必要がある。カールの動きにも注意しつつ演算を続ける。今のワタシには、感情に傾ける余裕はない。そんなワタシに対して、カールはゆっくりと顔を上げて口を開く。
「ハハハ! 素晴らしい! よく避けた! またシステ厶移動で逃げたら、本気で殺してやろうと思っていたからね! それにしても、あの一度、見ただけでよくこのスピードを見抜き、実践した! 本当に素晴らしい! さすが知る者といったところか、応用力がある! しかも、身体能力向上魔法を使い、わずか77のシステム介入であのスピードを実現するとは恐れ入った。ほんとキミは、素晴らしい被検者だよ! この僕の研究が進む進む! じゃあ、次の段階へ進むよ!」
と、満足げな笑みを浮かべながらカールの声は踊っていた。ワタシの頬から嫌な汗が流れる。やっぱり……気づいていた……。初撃の軌道からその意図は薄々感じていた。天界人の秘密をしれても、それ自体がその天界人の手の平で転がされている……。この時間があとどれだけ続くのか……私の心は今にでも折れそうになる……。はぁ……次の段階……嫌な予感しかしない。今のワタシにとってキツイのは、このスピードの継続――
「次は、このスピードの継続時間だっ! 知る者のキミがいつまで77同時演算が続けられるかだ! ちゃんと避けないと死ぬよ! よろしく!」
ガツンと頭を殴られた気分になった。たった二発でも精一杯なのに継続時間を計るとか気を失うレベルだ。だが、さっきのカールの発言からずっと気になっていることがあった。もし今考えていることが正しければ、この天界人の手の平から逃れ、『アレ』ができるかもしれない――。




