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「はぁはぁ……うまくいった……」


 目の前の光景に、堪らずワタシの声は漏れた。カールの胸に刺さった部分、人間で言うところの急所だ。マトの話からすれば、下界人と天界人は基本的な生体構造は同じと聞く。「よし……ワタシの勝ちだ……」と心の中で小さく呟いた。


 右手から発生している土属性魔法の現象は、ワタシの魔力供給が終えたことにより、その姿は光の粒子を残し消えていった。そして、その後すぐに、カールはその場に倒れ込む。


「いっ……いっ……」


 倒れ込んだ大天使は、言葉にならない声で唸っていた。死ぬまでそう時間はかからないと思うが、念の為にもその首を落とそうと思い、倒れ込んだ場所へとゆっくりと歩み初める。この一歩一歩と進める中で、これから先のことで悩んでいた。マトの元へ戻るか、それともこの世界で自由に生きるか、についてだった。


 マトの元へ戻ったとしても、利用される人生しか待っていないだろう。もう正直、魔王アルフとか天界とか、どうでもいい。それ以上に、普通の人生を歩んでみたかった。借り染めに作られた人格にしろ、れっきとした人間だ、人間としての幸せを見てみたいのだ。そう、普通の人間の女の子として……。


「ふふ……」


 思わず、口から感情が漏れてしまう。自分の変化に可笑しくて仕方がないからだ。この世界に、なんの感情もなく魔王としてやってきた。そんなワタシがこんな事を考えるようになるとは……。まぁ、全ては『マサオ』せいなんだ。ほんの一瞬だったが、アイツと関わってせいで、アイツの隠さない感情が、作られたばかりのワタシに影響を与えたのは間違いないだろう。驚いたり、怯えたり、見え張ったり、悲しんだり、喜んだりと、まぁ、いろんな感情を見せてくれた。


「全てアイツのせいなんだ……本当に面白い奴……もう一度だけ……会いたいな……」


 いつの間にか、考えている事を口に出している事に気づく。誰も聞いているわけもないのに、とても恥ずかしくなり、燃えるように耳が熱くなった。


 ――そうこうしていると、目的の場所まで辿り着いていた。目の前には、倒れたカールがいる。


「いっ……いっ……」

 

 未だに唸り声を上げているカール、まだ息がある。そんな姿の大天使に声をかけることなく、黙って腰に仕込ませていたダガーを逆手で引き抜くと、そのままカールの首元へと持っていった。戦いとの決別を意識しながら、ダガーへと魔力を注ぎ込んだ。『ブーン!』と、刃と魔力が共振し、青白く魔力がダガーを包み込んだ。これなら、男の首でも簡単に落とせる。そして、何の考えず首を落とそうと腕を下ろした瞬間――


「いっ……いっ……今……どんな気持ち?」

「えっ?」


 唸る事しかできなかったカールが、とつぜん流暢に喋った。驚いたワタシは、思わず手を止めてしまう。


「さぁ! 教えてよ! 今、どんな気持ちなの?」


 つぶっていたはずのカールの瞳は、大きく開きこちらをギョロリと見つめていた。その顔には、苦痛などの表情もない。何が起きたか分からないワタシは、とっさにカールの胸元を見る。すると、そこには刺したはずの傷跡どころか、破れたはずの着衣も綺麗になっていた……。


 回復魔法とも思ったが、致命傷の傷をこんな一瞬で回復できるわけがない。システムによる介入かとも疑ったが、ずっと監視はしてたし、そのシステムが変更した様子もない。ならどうやって……と、目を見開いて考えていると、


「せっかく、こんな状況までも作り出したのに教えてくれないと困るなぁ!」

「え……? 作り出した……?」


 まったく理解できないで固まっていると、カールはゆっくりと立ち上がった。そして、服に付いた砂やホコリをポンポンと叩く。そして、明らかにノーダメージの大天使は、再び憎たらしい笑みを浮かべながら口が動く。


「はぁ……今、どんな気持ちなのか、レポートしたいんだけどさ! どういうことか理解できないとろくに喋れないみたいだから教えてあげるよ。まぁ、そもそも、さっき僕が言った、キミが世界を崩壊させる危険かあるからすぐに殺すね、ってやつ自体が嘘でね、そこまで追い込まないと知る者の真の実力が見れないと思って、こんな茶番を仕掛けたわけさ!」

「ちゃ……茶番……?」

「そう、知る者がどこまでシステムに介入できるかは、天界にとっては一番知りたいところだからね。そこが分かるまでは、もともと殺すつもりはなかったのさ。だからさ、たぶんキミが知らないであろうシステムについて、わざわざ教えてあげたんだよ! どこまで理解して、どこまで使えるようになるかを知るためにね! どうせ僕のこと、どんどん情報を垂れ流すバカとか思っていたんでしょ?」

「えっ……!」

「いいよいいよ! 気にしないで、そのためにやってたんだからさ。で、キミが一番気になっている、さっきの土属性の究極魔法をどうやって防いだかだけどね、一言でいうと、キミもアルフに使っていた『幻術』だよ!」

「げ、幻術?」

「そうだよ。べつに全て幻術にかけてないよ! 現実は、キミが『ソイルメッチャ』を撃って、僕がシステム内の現象キャンセルして、その後、キミがキャンセルコードを書き換えてキャンセル無効にした、そこまでは現実だよ。その後、キミがそれに成功した幻術をかけたわけ。どう見えた? ちゃんと胸に突き刺したように見えたでしょ? で、実際はというとね、キャンセルを書き換え後に、さらなる現象キャンセルを申請してたわけよ! だから、キミが起こした究極魔法という現象は消えたわけ! そのあとは、キミが見えている状況を作り出すために、ココに寝転んで、キミがココに歩いてくる途中で幻術を解くいたわけよ! どうだい? 分かった?」


 頭がスーッと涼しくなった。あっ……これヤバイヤツだ……と、自分の置かれている立場がとんでもなくヤバイことを実感する。すべてカールの手のひらで転がされていたのである。勝てるなんて思ったこと自体がカールの計画だったのだ……。


「顔色悪いけど大丈夫かい? まぁ、そのおかげで知る者は、『第二層』まで可能ってことが分かったよ! ありがとうね! いやーこれは素晴らしい発見だよ! でもね、残念だけど、ある程度研究が終わったら本当に死んでもらうから! これは嘘じゃないよ!」


 大天使カールは、満面の笑顔で言った……。


 普通の女の子になりたい……なんて馬鹿みたいな夢を見たせいなのか、絶望で何も考えられない。もうだめだ――。


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