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モンスターの見た目といえば――
体は動物よりも遥かに大きく、顔は誰それ構わず襲いかかるような殺意むき出しにして、禍々しいオーラを立ち込めている。
人間からすれば、ただただ恐ろしい姿をしているのだ。
そんな恐ろしいモンスターと戦い始めた、二人がいた――
「お――――――!! 可愛ええのぅ!!」
「おい! アルフ! そんなに近づくな! 相手はモンスターだぞ!」
今、二人の前にいるモンスターは『スライム』だ。
イリアカントの城下町を出て、すぐに現れたモンスターである。
イリアカント周辺に出現するモンスターは三種類いる。
・スライム
・ビッグバエ
・お化けフラワー
特にスライムは駆け出し冒険者の初戦には、丁度良い強さとなっている。
マサオは、無難なスライムを初戦に引き当てていたのだ。
しかも1匹のみとパーティを組まないソロでも勝てる難易度である。
「マサオ! もっと近づいて来い! こんなに可愛いぞ!」
「お前分かってるのか? そのモンスターを倒しに来てるんだぞ!」
「はぁ? こんな愛らしい姿のモンスターを倒すじゃと! この人でなし!」
「ふざけんな! そいつは敵なんだよ! 可愛がってる場合じゃないんだ!」
なぜ、この二人が揉めているかというとモンスターの姿にある。
ゲームに登場するスライムといえば、ベトベトした感じで気持ち悪く不気味な笑みをしているモノだ。
しかし目の前のスライムは「キュッ! キュッ!」と可愛く鳴き、色は空に近い鮮やかなブルー、大きさはチワワと同じくらい、しかも顔は捨てられた子犬のような表情をしていた。
そんな愛らしいスライムに不用意に近づき頭を撫で始めているアルフ。
優しい表情で魔王は、撫でながら語り始める――
「余の世界にもスライムおってな。魔族の者は皆、家で飼って育てたもんじゃよ。可愛い奴らで家の主人が帰ってくると玄関までお出迎えをするのじゃ……」
少年はスライムに対して酷いことを言っている気分になる――
「おい! やめろ! そんな魔族の裏情報はいらねぇよ! いいから離れろ!」
さらにアルフは切ない表情になり、
「マサオの世界ではペットは飼わんのか? そんなペットを殺すと言われてどんな気分になる?」
少年は一歩後ろに下がり、
「やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! そんなこと言うな!」
マサオの頭の中に罪悪感が生まれ始めていた――
たしかにそうだ……、モンスターといえど生き物だ……。
人間の常識でモンスターは殺していいなんておかしい……。
少年は下を向いたまま、
「そうだよな……。アルフの言うとおりだ。倒すのはやめよう……」
その言葉にアルフは、天気が晴れるように清々しい表情になる。
「分かってくれたか! お主が魔族差別主義者じゃないと信じておったぞ!」
温かくほがらかな空気が流れ、二人は笑い合うのであった――
しかし、この世界のスライムの特性について二人は何も知らなかった。
クエストの館では町周辺に出現するモンスターに注意事項が書かれている――
『スライム』
注意! 愛らしい姿で近づき、心を許した所を腹めがけて一気に攻撃してくる。
「マサオも触ってみるが良い! なついてきて可愛いヤツじゃよ!」
スライムは可愛く鳴きながら頬をスリスリさせていた。
少年は鼻の下を指でこすり、少し頬を赤く染めながら近づこうとする。
その時である――
スライムの目が不気味に光出し、ニヤリッと口元は緩む。
少年の方を向いていて完全に無防備になっていた元魔王は気づいていない。
力をためるため身体の全体を収縮させるスライム。
アルフが再び目線を戻そうとした瞬間――
青い塊は、魔王の腹めがけて一気に飛び跳ねた!




