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「さてと……無礼者も消した事だし、そろそろ本来の仕事でも始めますか! ねぇ……クリスちゃんっ!」
しゃがんだ体勢から立ち上がると、振り向きざまにカールは不気味な笑顔で言い放つ。今の状況を飲み込めていないワタシは、パニック状態に陥っていた。
――はぁはぁ……この場には生物反応は二つだけ……二つだけだ……マサオ……ワタシにとってのわずかな希望は消えてしまった……はぁはぁ……そういえば瀕死で倒れていた勇者……そうか爆風で死んだのか……あそこにいるアルフは……見えてはいるがこの世界と繋がっていない別世界……生体反応で感知できるわけがない……んっ?
アルフが視界に入った瞬間、物凄い違和感を感じた。アルフは表情一つ変えず、腕を組んで我々を見ていた。おかしい……マサオが死んだっていうのに眉一つも動かさずいるのだ。あれだけ彼に依存していて、何もリアクションがないのは、さすがに違和感を感じる……。
こんな危機迫る状況下で、身を守る事よりもマサオやアルフの事が気になって仕方がなくなっていた。そして、そうこうしていると、
「じゃあ、死ぬ準備はいいかな? 無駄に抵抗しないでおくれよ! 余計に苦しむことになるからさ!」
体の向きをマサオからワタシへ完了したカールは、再び優しい口調で言った。別の事が気になって何の準備も出来ていないワタシは、
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! そもそも何でワタシはアナタに殺さなけばいけないのよ!」
咄嗟に出た言葉はコレだった。当然な疑問であった。確かにマト様とは、いつの日か天界を滅ぼす計画は立てていたが、今は何もしていない。天界人に狙われる覚えはないのだ。すると、
「ん? 変なこと言い出すねキミ。自分の置かれてる立場は、とっくに気付いていると思っていたよ」
と、カールから返された。何を言っているのか分からないワタシは、考えるよりも口が出た。
「わ、ワタシは『女神ウキヨ』に頼まれてこの世界にやってきた! 今のワタシは天界からの使いという立場のはずだ。なのになぜ、天界人であるアナタはワタシの命を狙う?」
自分で喋ってて冷静に考えればその通りである。いつの間にかマサオたちに変な感情を抱くようになってきたが、ワタシは元々、天界からの依頼でやってきたのだ。共通の敵であるアルフを倒すために。表面上では、天界とは敵対関係ではないはずだ。すると、カールは考える仕草を見せた後――
「いやー参ったなぁ……まさか今のキミからそんな言葉が出るとは実に想定外だ……」
何かに悩んでいるのか、カールは困った表情になって言った。もしかしたら、カールは何か勘違いしていたことに気付いたのかもしれない。内心は、どうであれ今は天界は味方のはずだ。目的であったアルフは、天界側の望む形にはなっている。何かモヤモヤする終わり方ではあるがコレで良いはずだ。何度目か分からないが、ワタシは肩の力を落とした。勘違いさえ解ければ、ワタシは安全なはずだ。
「んー、あっ! そうかそうか! そういうことかっ!」
何かに気付いたのか、手の平をポンっと叩き、カールは明るい表情を浮かべた。その顔を見て、私に対する誤解が晴れたことを確信した。「はぁ……」と、大きな息を吐き出し、ホッと安心した瞬間――
「キミ……『本物』のクリスではないね?」
「……えっ?」
言葉を理解する前に、声が出てしまった――。




