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 その歩みは力強い。今まで見てきたマサオとは別人のような面構えをしている。一直線に天界人へと向かう。


 今の状況にワタシは戸惑った、相手が何者か分かっているのだろうか……? ただの人間が天界人に何をする気なのか……? マサオの行動、一挙手一投足までも目が離せないでいた。そして、そんな彼にどこか希望を持ち始めている自分がいた。もしかしたら……なんとかしてくれるんではないか……と。


 ズカズカと進み続け、マサオは天界人のすぐ目の前で止まった。自分より頭二つ背が高い天界人に対して、見上げる形になったマサオは、そんなことにも動じることはなく、物怖じしない真剣な面持ちでいた。そんな今の彼を見て、今まであったモヤモヤした違和感が確信に変わる――


 ワタシはずっと不気味に感じていた事がある。アルフにトドメを刺そうとしたあの時、マサオは目にも止まらぬスピードで救い出した事。あと、ワタシには見ることも出来なかったアルフのスピードを彼は見えているようであった事。そして、決定的なのは怒り狂ったアルフの攻撃を素手で止めていた事。どうして、そうなったか不思議で仕方がないが、彼はただの人間ではない。もしかしたら、天界人を遥かに超えるチカラを持っているのかもしれない……。もしそうならば、ワタシは天界人からも殺されることもなく生き残れるかもしれない。そう思った瞬間、ワタシの心臓は高鳴った。あの自信ありげな表情、考えに間違いはない、ワタシは確信する。いつの間にか敵のはずの人間、マサオを応援していた。ちょうどその時だった。


「なんだね、キミは?」


 先に声を出したのは天界人だった。そんな下界より圧倒的優位に立つ天界に住む者に対してマサオは、ジッと見つめたまま声を出さない。そんな彼に対して、


「はぁ……何か用ではないのか? まさか私と戦おうなんて思ってないよね? ただの人間だとしても私の存在は分かるはずだ。先程、魔王アルフに助けるなんて言っていたようだけど、どうするつもりなのかな? アルフも言っていたが、私はキミには用はない。このまま帰ってもらっても一向に構わない。この場に貼られている結界は、私が解除しといたからすぐに帰りたまえ。変なことを考えずにね!」


 そう、天界人は優しい口調で言った。この話を聞いて驚きを隠せないワタシがいた。結界を解除しといた……だと……。ワタシはすぐに結界を確認するとなぜか解除されていた。いやいや……あれは『死期結界』。つまり、ワタシ自身で解除するか、ワタシが死なない限り解除出来ない結界のはず……どうやってやった……? 考えを巡らせる中、辿り着いた答えは一つだけだった――世界のシステムを操作したんだ……それ以外ない……。この瞬間、自分では名乗ってはいないが天界人で間違いなくなった。そんなことをできるのは、マト様とワタシみたいな『知る者』以外、天界人しかいないからだ……。まさかシステム介入ができるほどの天界人とは思っていなかった……。ワタシのアドバンテージは何もなくなったって事になる。やっぱり、ここは彼に賭ける他ない……未知なるチカラを持つマサオに!


 ワタシは息を飲んでマサオの動向に注目した。収まりをみせない心臓の鼓動だけが、体全体を響き渡せている。すると、長い沈黙の後、とうとうマサオが動き見せた。何をするのか、期待と不安がワタシを包む。そして、マサオは――


 突然、両足の膝を地面に付けた。何かの構えなのか、儀式でも始めるのか、膝立ちの状態になるマサオ。そして、大きなモーションで両手を地面に置いた。何が起きているのかワタシには分からないでいると、そのまま頭を地面に擦り付けた。なに? 何をしてる? そうか、ここからとんでもない攻撃が繰り広げるのか? と思っていると――


「あ、あのー! すみません! よく分かりませんが本当にすみません! 話の流れから、アレはアナタがやったようで……どうにか許してくれませんか?」

「はっ?」


 地面に頭を擦りつけながらマサオは、情けない声を上げながらそんな事を言い出した。それに対して、天界人は間の抜けた声で反応する。正直ワタシも「はぁ?」である。何言ってんだコイツ状態だ。この空間にクエッションマークが入り乱れまくってる中、マサオは続けた。


「あのバカが以前皆様に失礼なことやったことで今こういう状況になっているは理解しています。しかしながら、アイツはそんな悪い奴じゃないんです。どうか許してくれませんか? この世界では、自分が責任持って悪い事はさせませんから! どうかお願いです! 何でもするのであそこから解放していただけませんか?」


 と、マサオは何とも情けない声を上げ続けた。この瞬間、私の中での彼への期待がガラガラと崩れ落ちた。


「フハハハっ! 面白いこと言うなぁキミは! 残念だけどね、どんなにお願いされてもできない相談だ。それにキミは勘違いをしてる、あの魔王アルフに何かされて恨んでいる奴なんていないんじゃないかなぁ。そこにいるゴウマ、いやクリスだって直接何かされて恨んでこんなことしてるわけじゃない。要するに、簡単に言えば存在が悪なんだ、生まれてきちゃいけない存在なんだよ。アルフが存在する限りみんなに迷惑がかかるから隔離するんだ。皆に迷惑かけないためにもね! キミも分かってくれるよね? あんなアルフのために人生を無駄にすることはない、このままココから出て好きに生きなさい」


 大人が子供を教育するかのように語る天界人。存在してはいけない存在……たしかに、アルフは世界のルールから外れている存在だ。この先、世界を統括する天界人からは邪魔な存在以外なんでもない。ワタシだって、マト様の命を脅かす存在だから消しに来た。でも、それが本当の悪なのか? 自分にとって不都合だから存在してはいけないなんて言っていいのか……。分からない……ワタシは今までこんな事をしてきたのか……頭が痛い……ワタシは何がしたい……。使命はあるが、それは本当に正しい事なのか……?  


 天界人の話を聞いて割れるように頭が痛くなる。そんな時だった。


「意味が分からねぇ……存在しちゃいけない……生まれてきちゃいけない……ふざけんな……」


 地面に顔を伏せたマサオから小さな声が漏れる。天界人はその声に気付いていない。頭を砂やホコリにまみれながら、その顔は必死に怒りを抑えようとする表情だった。眉間には数えられない程のシワを作り、口元は開かないように歯ぎしりをたてながら必死に堪えていた。そんなマサオから、


「はぁはぁ……そ、そ、そこをなんとか……お願いします……解放して下さい……何でもしますので……」


 絞り出すような声でマサオは言う。口元からはヨダレが垂れ続け、怒りを必死に堪えていた。彼にも分かるのだろう、戦ってどうにかなる相手ではない事に……。そんな必死に懇願する姿を見続けて、違う意味の興味を持つ事になる。


「はぁ……しつこいなぁキミも……人間相手だから親切に対応してたけど、あんまりしつこいと対応変えるよ……」


 天界人の声から優しさは消え始めている。それでもマサオは、


「お願いします……お願いします……どうかアルフを解放して下さい……」


 譲れないものを必死に守ろうと御主人様に懇願する奴隷のような姿だった。この姿は、ワタシの中の何かを震わせている。何かは分からない、ただ初めてこうしたいって気持ちがメラメラと湧き出てくる感じがした。そう「助けてあげたい」と……。


「あーもう! いい加減にしろ! 無理なもん無理と言ってんだろっ! 下界人は我々の言う事だけ聞いてればいいんだ!」

 

 天界人から余裕が消えてゆく。声から苛立ちが分かる。ワタシはこのままではマズイと思い、マサオをこの場から逃がそうと思った時だった。


「な、何でもするので……何でもするので……解放――」


 マサオがそう言った後、地面に置いていた手を前へと差し伸ばして懇願し続け、天界人の足元にその手が触れた瞬間だった――


「はああああ!! おいっ! キサマァァァァァ! 誰に触れてるか分かってんのかぁぁぁぁぁ! 我は『女神ウキヨ』様にお使いする、大天使第三位である『カール』である! 下界人の汚い手で触れて良い存在ではないっ!」


 大天使カールと名乗った天界人は、烈火の如き喚き散らした。さっきまでの優しい顔は、感情の赴くままの魔獣よりも恐ろしい表情を浮かべていた。マズイっ! と思った時には、


「下界人……その蛮行……万死に値する……」


 と言い、右手をのばし地面に伏せられたマサオの頭をを掴んだ。


「おいっ! やめろぉぉぉぉぉ!」


 声の持ち主は、ワタシだった。何故かは分からない、咄嗟に声が出た。そして、次の瞬間――




『バババババァァァァァァァァァァァァン!』




 大天使カールの右手から爆発が起きる。腹に響く轟音と衝撃波がやってきた。とんでもない爆発威力に目を開けていられない。前面には防壁魔法を五段重ね顔を手で覆い、体が吹き飛ばされるのを足元から流した魔力で必死に堪える。詠唱もせず、これだけの現象を引き起こすなんて、我々下界人にできる芸当ではない。天界人の実力を初めて体験し、想像以上だと言うことに気付かされる。


 ある程度収まったところで顔から手を下ろした。そして、目の前の光景に息を飲む。洞窟内のはずなのに見上げると空が見える。そう、ここは大山脈をくり貫いた洞窟内だ。しかし、その大山脈ごと消えていた……。とでもない威力に身震いが止まらない。それ以上にワタシを混乱させた……カールの右手の先に居たはずのマサオがその場から……消えていた……そう、影も形も残さずに……。人間が直撃を受けて耐えれる衝撃ではない。魔王倒す勇者でも……ワタシみたいに限界を超えレベル上限解放した転生者でも……無理だ……はっ……この場にある生体反応は……二つだけ……ワタシと大天使カールの二つ……つまり……マサオは……死んだ――。


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