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一難去ってまた一難……頭に浮かんだ言葉だった。何でこうも何もかも上手くいかない……。苛立ちと焦りがワタシを襲う。マト様から与えられた作戦は完璧のはずだ。魔王アルフに対し、ゴウマの姿で陽動し、システム干渉移動で背後とり、『次元刀』でその首を取る、そしてマト様の元へ帰る。そんな難しいことではない簡単なことだ、それなのになんだ今の状況は……? アルフは想定外なうえ規格外だったし、天界人までもが現れる始末だ。今のワタシでは、天界人とまともに戦えない。マト様と入念な準備のもと天界に攻め込む気でいたが、まさかこんな早く出くわすとは思っていなかった。今まで天界人とは戦ったことはない、女神とは接触したがそのチカラは未知数、もし天界人もまたアルフ並に規格外ならワタシに勝てる見込みなどありはしない。自然と息が荒くなる中、思考をめぐらせていると――
『ドンっドンっドンっ!』
突然、壁を叩く様な音が鳴り響く。ワタシは目の前にいる天界人からその音の発信元へと視線を動かす。そこには――何もない空間を叩くマサオの姿があった。そして、その先にアルフが立っている。
「おいっ! アルフっ! コレどうなってんだ? 何もないのにコレ以上近づけないぞ! おい、何か言えよ!」
マサオがそう叫んだ。しかし、アルフからの返答は聞こえてこない。不思議に思ったワタシがアルフに視線を合わせると、アルフの口はパクパクと動いている。しかし、声はこちらには届いてこない。何が起きているのか分からないでいると、
「無駄だよ。魔王アルフは、この世界と切り離した。今は切り離した直後だから世界の修復が間に合っていなくて、その姿は見えるけど、音は届かないよ」
と、天界人はマサオに向かって言った。たしか先程「封じ込めに成功した」と言っていた……そうか『雨季の杖』を使ってアルフを世界から切り離す事に成功したってことだったのか……。そう理解した瞬間、ワタシは戸惑った。本来、ワタシの目的が達成されたはずなのに、ちっとも嬉しくない。それどころか不思議さえ感じられる。おかしい……あのアルフと言う者がこんな簡単に捕まるのか? マサオが無事なのを見たところ、杖の効果が発動する前には気付いていたはずだ。それなのに、なぜ回避しなかった……。アルフのスピードならマサオを逃したあとでも回避できるだろう……。気づけば、敵のはずだったアルフがまんまと天界人に捕まったことに納得ができない、と言う不思議な感情が生まれていた。そんな複雑な感情の中――
『ドンドンドンドンっ! ドンドンドンドンっ!』
マサオの叩く音は、更に大きくなっていた。
「なんなんだよっ! 意味が分からねぇよ! はぁはぁ……! アルフっ! アルフっ! 俺はどうすればいいんだ! 教えてくれっ!」
マサオは取り乱すように声を荒げる。そんな彼に対して、
「はぁ……これだから下界人は嫌なんだよ……。ちゃんと説明しても理解ができない、感情をコントロールできない、本当に不完全な生物だ……。しょうがない……キミはただの人間みたいだし、サービスしてあげよう」
天界人がそう言うと、パチンッと鳴らした。次の瞬間だった。
「マサオっ! マサオっ! マサオっ!」
突如、アルフの声がこの空間に響き渡った。
「切り離した世界の音、この世界と繋げてあげたよ。この世界の切り離した部分の修復までの時間しかないけどね、最後のお別れぐらいしてもいいよ! 魔王アルフでも世界間の移動はできない事は判明している。もう二度と会えないからね! それにしても驚きだ、あの魔王アルフが人間と親交を持つなんてね」
と、天界人は言った。ワタシはすぐにマサオたちを見た。
「ア、アルフどうなってんだ? ハァハァ……な、何が起きてるんだ?」
マサオは戸惑いを隠せないように早口で喋った。
「マサオ……落ち着くのじゃ……。こうなっては仕方がない……残念じゃが……マサオとはココでお別れじゃ……」
アルフは落ち着いた口調で寂しそうに口にした。そんな彼女に対してマサオは、
「はああああ? ふ、ふざけんな! お前……お、俺とずっと一緒だって言ってただろ! な、なんで急にこうなる?」
あたり一面にツバを撒き散らしながらマサオは叫んだ。
「余がいるこの世界とマサオがいる世界が繋がっておらん……。余はそちらの世界へは戻ることはできんのじゃ……。短い間じゃったが、お主と一緒にいれて楽しかったぞ……ありがとう……」
目の中にいっぱい涙を溜めながら、言葉を区切るようにアルフは言った。この言葉を聞いた天界人の口元が緩むところをワタシは見逃さなかった。
「ふ、ふ、ふざけんなあああああああああああ! 勝手に呪いまでかけてココでお別れなんて許さんぞ! お前は俺のパートナーなんだよっ! 一緒にこの世界を旅をするんだよぉぉぉぉぉ!」
子供の駄々をこねるが如く、マサオは感情の赴くまま叫び続ける。そんな彼の言を聞いたアルフは、少し嬉しそうな表情になり、
「マサオよ、そこにいる者たちはマサオには用はない。たぶん、何もされることもなく、その場から帰してもらえるじゃろう。だからお主は、この先その世界でやりたいことをやるのじゃ! あ、そうじゃった、マサオはたしか賢者になりたいのじゃろう? 頑張って目指すのじゃ! うん……まぁ……余のことは気にしなくて良いから……」
優しい笑顔を浮かべながら言うアルフは、元魔王だったのか疑うくらいだった。親が子を諭すように優しい笑顔だった。そんな彼女に対してマサオは、くるっと背を向けた。
「ふんっ! うるせえよ……」
服の袖でゴシゴシと目元を擦りながらマサオは言った。そして、続けて言う。
「待ってろ! 必ず助けるから!」
その言葉はワタシの深い部分に突き刺さった……。そして、驚きの表情を浮かべたアルフは、
「おいっ! マサオ何をするつもりじゃ!」
と、慌てた口調で言う。その問いに対してマサオは、何も答えず一歩一歩と歩みを始める。その行き先は……天界人の所へだった――。




