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 ワタシの首すぐ手前まで接近した鋭い指先は、小刻みに震えている。あまりにも突然な事でワタシは石のようになってしまう……。


「くっ……! 放すのじゃマサオっ!」


 腕を伸ばしワタシの命を絶とうするアルフの声が上がる。


「ちょ、ちょ、ちょっと待てって……! な、何しでかそうとしてんだ……おいっ!」


 伸ばされた腕をガッシリと掴んだマサオは、焦るように言葉にする。掴まれたアルフの腕は、放出されるはず方向への力を止められたことによって大きく震えている。ひと目で物凄い力が入っている事は分かる。


「んんんっ! この糞メスは、マサオを誘惑しようとしたのじゃぞっ! 余の旦那を寝取ろうとしたのじゃ……許せることではないっ! マサオ、手を放してたもう! この人間の殺しだけは黙って目をつぶって欲しいのじゃ!」


 なおも目一杯の力の入った腕でアルフは訴えかけた。


「だ、旦那……? いやいや、そんなこと目をつぶる事なんてできるわけないだろっ! と、とりあえず腕を下ろせ! お、落ち着いて話し合おう! 『クリス』がそんな事するわけないだろ? お、お前の勘違いだっ! だから……いいから下ろせっ!」


 ワタシの目の前には、前腕の筋肉を大きく盛り上がらせた腕がある。その腕は、細い腕を握り締めてワタシの命を守ってくれている。その立派な腕の持ち主であるマサオは、どうにか説得しようと必死だった。ところが――


「へ、へぇ……クリスって……呼び捨てにする仲なのじゃな……へぇ、そうなんか……。う、う、う……浮気者ぉぉぉぉぉ! マサオのばかぁぁぁぁぁ! うおおおおお!」

「お、おい……」


 アルフは叫んだ、声を荒げて叫んだ。それと同時に、その声と同調するかのように地面が揺れ始めた。驚いたワタシが視線を下に向けると、アルフとマサオの足元の地面がミシミシと地割れしていることに気づく。すぐに目線を戻して二人を見る。


 怒りに狂ったアルフの顔は真っ赤に高揚し、左目だけ開いていた目はワタシのことをジッと睨みつけ殺意に満ち溢れていた。マサオの顔は驚いた表情を浮かべつつも、ワタシへの攻撃を止めている右腕は先程よりも筋肉が膨れ上がり血管も浮かび出ている。そんなマサオが――


「くっ……! お、おいおいおい! な、な、なに怒ってるんだ? 急にどうしちまったんだよ?」


 すでに余裕のない声を上げた。すると、アルフは悲しむ顔の表情に変わると、


「ううっ……もういいのじゃ! マサオなんて知らんのじゃ! ソイツを殺して余も死んでやるのじゃ……フンだ!」


 と、拗ねた声を出した。

 困った表情になるマサオは、目をキョロキョロさせながら何かを考えているようだった。依然として地面は揺れ続けていた。その時だった、マサオの表情が一気に変わる。そして、何かを黙って聞いているように見えた。


「はぁ……マジでコレ言わないといけないのかよ……? 勘弁してくれよ、マーちゃんさんよ……」


 と、マサオは独り言を言っているのか小声で呟いた。そして、改めて腹をくくった表情を浮かべたマサオは、真剣な面持ちでアルフに向かって口を開く。


「な、何を勘違いしてるか分からんが……お、俺はお前以外の女には興味がない……! お、お、お……俺にはお前しかいないんだぁぁぁぁぁ!」


 マサオはアルフに向かって叫んだ。恥ずかしいのか顔は真っ赤にしている。愛の告白のように聞こえたが、若干棒読みだったのが少し気になった。告白を受けたアルフは、あっけにとられた表情を浮かべている。そして、気づけば地面の揺れはすっかり収まっていたし、ワタシの首に伸びていたアルフの腕は静かに下ろされていた。


「ミャ、ミャ、ミャサオぉぉぉぉぉ! うえぇぇぇぇん! ちゃ、ちゃんと言葉にして……愛の告白してくれて……余は……余は……余は……とっても嬉しいのじゃぁぁぁぁぁ!」


 アルフは歓喜の声を上げながらマサオへと飛びついた。マサオの胸元にガシッと抱きついたアルフは、顔を擦りつけて喜びを満喫しているようだった。


「ははは……それはよかった……はぁ……」


 乾いた笑いを上げるマサオは、困ったようなホッとしたような表情を浮かべていた。


 マサオではないが、ワタシもホッとして一気に疲れがやってくる。息をするのを忘れるほど死の危機を抜けたのだからしょうがない。ワタシはその場に座ろうと思い、右手に持っていた『雨季の杖』を腰のベルトにしまおうと、右手に意識を持った瞬間に気づく。


 右手に何も持っていないことに――。

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