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「なんじゃ? チッ! 邪魔しおって……」


 マサオのことをとろける様に見つめ続け、ときめく少女の顔だったアルフ。そんな彼女は今、眉間にシワを寄せ害虫でも見つけたような顔になり、ワタシに向かって殺意と共に言い放つ。


 ワタシは固まった……。作戦の盤面からひっくり返させた事により、頭は真っ白になる。マサオがワタシに好意を抱いている前提で組み上げた作戦なため、それが勘違いだと気づいた瞬間どうすればいいのか分からない。マサオが止めてくれる保証がなくなったのだ。


「あ、あ、あ……あ……」


 咄嗟に出た言葉はコレだけだった……。


 死……これから待っているのは死だ……。真っ白だったワタシの頭が、やっと動き出して最初に語りかけた言葉だった。今している呼吸があと何回できるか分からない恐怖……まばたきをすることさえ忘れるくらい呼吸に意識した。マト様から天命を受けた際は、命なんて捨てる覚悟で挑んできた……はずなのに……いざそんな状況に置かれると……やっぱり怖い……情けない自分が嫌になる……。


 ただ、一つだけ小さな小さな希望はあった。それは、先程言っていたマサオの言葉の中にある――アルフには人殺しはして欲しくない、という言葉。もしかしたら……ワタシに好意を持ってなくともマサオはアルフを止めてくれるんでないか? もしかしたら……ワタシを守ってくれるではないか? そんな甘い期待を抱いていた。そんな時だった――


「なんじゃコイツ、さっきまでの威勢はどうした? 余を殺すのでないのか? おい、さっさとかかってこい」


 固まってしまい黙っているワタシに、痺れを切らしたアルフから声が上がる。


 これ以上、怒らせてはいけない! 何か言ってこの場を切り抜けるのだ! と、本能はそう命令してくる……が、どうすればいいか分からない、何を言えばいいか分からないのだ。アルフのあの目を見れば分かる……どれだけ命乞いをしようが、お前は邪魔だ、必ず殺す……と、訴えている。ヒシヒシと肌で感じる殺意は、時間が経つごとに増している。そんな時だった、救いの声が上がる。


「おい、アルフ。もういいんじゃないか? あちらさん、もう戦う気はないらしいぞ。これ以上、戦うのはやめようぜ」


 待ちに待っていた言葉がやってきた。ワタシが求めていたマサオの声だ。希望の糸を掴んだ喜びで、頭の血管はドクドクと勢い良く血液を流す。


 頼む! 頑張ってくれマサオ! ワタシの命はアナタにかかっている! 真剣に祈った。その瞬間だった、心の中で笑いがこみ上げくる。


 フフフ……おかしなものだ……つい先程まで、この場には場違いな奴で、なぜ存在いるのか分からない無価値な人間だと思っていたのに……そんな奴にワタシは、必死になって願っている……。


 下唇を噛みしめ、そんな感情が表に飛び出さないように努めた。


「マサオよ、そう言ってもよ……あやつはマサオも殺そうとしたのじゃぞ! 余は許しておけん……」


 アルフは困った表情を浮かべ甘える声で言った。それほどまでマサオに嫌われたくないってことに驚いたのと同時にワタシは勝ちを確信した。この少年に上手く取り入れば、アルフを倒す事は容易い事だ。頭の中では、物凄いスピードで作戦を組み上げた。そこでワタシは――

 

「あ、あの! ご、ごめんなさい! 許して下さい! わ、ワタシどうかしていたのです……」


 頭を深々と下げ、喉を引き締め、できるだけ高い声色で発した。我ながらプライドが傷つく行為だが背に腹は変えられない。


「……なんじゃ、コイツ」


 アルフから嫌悪感丸出しの声を出した。ワタシは下げた頭を少しだけ上げ、上目遣いでマサオを見る。すると――


「……ん? ま、まぁ、ここまでしてるんだ、さっきまでのことは水に流して許してやろう。あ互い転生者だしな、喧嘩するより仲良くしたほうが良いよ!」


 頬を赤くしたマサオは、照れながらもそう言った。ワタシは気づいていた、マサオの目線に。彼は、前かがみになっているワタシの胸をチラチラを見ている。よし、作戦通り! 所詮、人間の男、女の身体をこういう目で見る卑しい生物なのだ。自分の体をこういう使い方をしたのは不本意だが、今は仕方ない。もうこれで、殺される心配はな――


『バチーーーーーーーーーーーンっ!!』


 突然、腹に響く凄まじい音が空洞内全てに響き渡った。と、同時に体が飛ばされそうなくらいの衝撃波が発生する。何が起きたか分からない。目を丸く見開いていると、


「いったーーーー! い、いきなり何すんだアルフ!」


 気が付くと、マサオは手で目を抑えながらうずくまって言った。今の一瞬で何が起きたのか、ワタシには見えなかった……。


「ふんっ! そんなもの見てはダメじゃ!」


 次に、目を細めながらアルフはそう言う。何が起きているのか分からないでいると――


「おいっ! メスっ! キサマ……何のつもりじゃ?」


 ワタシのことを睨みつけたアルフは、地を響かせるような声で言った。


「えっ……? な、なんのことですか……?」


 驚いて何も考えられないワタシは、とりあえず答えた。

 すると――


「あん! ナメんのか? 余のマサオにそんな汚いもの見せつけて! とぼけてんじゃねぇぞ! コラっ!」


 今にも殺しそうな目つきでアルフは怒鳴った。その怒りは凄まじく彼女の周りの空間が歪んで見える。ワタシは咄嗟に――


「ち、ち、ち、違います! ご、ご、誤解ですっ!」


 と、答えた後だった。声を出して息を吸おうとする時……吸っても吸っても空気が入ってこない。何が起きているのか分からない。アルフはワタシに触れてもいない。苦しい……ヤバイ……目の前が白くなっていく……と、思った瞬間、アルフの殺意がワタシの頭のテッペンから足のつま先まで埋め尽くした。そして、何か来ると、直感した瞬間――


「お、落ち着けアルフ! はぁはぁ……」


 この声はマサオだった。気がつくと、ワタシの首元までアルフの手は伸びていた。そして、その腕を右眼を充血させたマサオが掴み止めている。またもや、何も見えなかった……。そして、我に返ると、普段通り呼吸ができている。訳がわからない……なんなの……? なんなのよ……いったい……さっきから何が起きているの……? そんな中で何よりも不気味で分からないことは……アルフの攻撃を物理的に止めているマサオの方だった――。


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