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「はぁぁぁぁぁぁ? お、お前なに言ってんだ? 俺は別にそう言う意味で言ったわけじゃないぞっ! それにな、さっきから連呼してるけどよ、恋愛恋愛って……お前は少女漫画読み終わった直後の乙女かっ!」


 少年の苛立った声が地面から伝わってくる。ワタシの口元は緩み始めていた。予想通り、あの人間の少年はワタシに好意を抱いている。いや、それどころか、先程の心配する言葉……さらに図星をつかれて動揺……フフフ……完全にアレだ……フフフ……使える……使える……使えるぞコレはっ! ワタシはアルフの弱みを握ったのである。笑いがこみ上げてくるのを必死に堪えた。


「なんじゃなんじゃっ? 開き直りかぁ? おうおう! 余が恋愛って言って何が悪い! そんなことより、ハッキリ言えば良いではないか、あのメスと恋愛したいって! おう、マサオさんよ!」


 声のトーンからアルフの苛立ちがビシビシと伝わってくる。この反応、もう確定だろう。アルフはワタシに嫉妬している。つまりアルフはマサオに好意を持っているということだ。なぜ、あのアルフがあんな普通の人間に心を奪われているのか不思議でしょうがないが、これが事実だ。そして、これがワタシが生き残るため、いやアルフを倒すためにも大事なこととなる。


 普通に考えれば今の状況っていうのは、アルフにとってワタシは嫉妬する対象であり、以前より敵意が割増しされ殺される確率がグーンと上がったようにも見える。だが、ここで出てくるのが、場違いのように思えていた人間、マサオの存在だ。アルフはマサオに好意を持っている、つまり嫌われたくない存在である。好意を向ける相手が嫌がる事は極力したくないってものだ。で、マサオが好意を向ける相手は誰だ? そうワタシだっ! つまり、アルフはワタシを殺す事はできないのだ。だってマサオがそれを許さないからだ! よしっ! よしっ! 完璧だ完璧すぎる! まず生存権の確保が第一。それができれば後はなんとでもなる。例えば、マサオに上手く取り入って仲間にしてもらい、油断したアルフの隙を突いて世界から切り離してやるとか……フフフ……なんとかなる!


 完璧な作戦が立ったところで、ワタシはこの瓦礫から出ることにした。突然現れたらその反動でアルフに殺されるかもしれない。ここは慎重にしなければならない。あと、その前に生理的には嫌だが、マサオの気を引くためにも体中を傷だらけにし、更に身に着けている被服も殿方たちが喜ぶように破く必要がある。あまり動き過ぎると怪しまれるかもしれない、ここは目の前に転がっている小石に磁力を持たせ、その小石たちをコントロールし外に気づかれぬよう工作した。音も出さぬよう慎重にやりつづけ、死なない程度の傷と、下着が見えないギリギリまで着衣を切り裂いた。そして、準備はできた。瓦礫から出るタイミングを計るため再び地面に耳を接触させると、未だに二人の口論は続いていた。


「酷いではないか! 結ばれた日に別のメスに目が行くなんて……ヒック……ヒック……」


 いつの間にか状況は変化しているようだ。あれだけ怒り心頭だったアルフが、悲しげに涙する音が聞き取れる。ワタシはこれはチャンスとみた。先程までのように怒り狂っていたらワタシの話も聞かず、マサオが止める間もなく殺される恐れがあったからだ。今の心境ならそんな間違いもない。ワタシは決心して瓦礫をゆっくりと動かし、二人の前へと姿を現す。ガラガラと崩れ落ちる多数の石たちは、砂埃を立てながら転がり落ちてゆく。ワタシは瀕死を装いながら体を起こし、足を引きずりながらこう言った。


「わ、ワタシは……もう……戦えません……ゴホッゴホッ……もう許して下さい……」

 

 我ながら名演技だと自負したい。悲壮感をだすため地面しか見ていなかった視線は、少しづつ上げる。そして、二人を見る。その時だった――


「あ……アルフ泣かないでくれ! 結ばれたってことについてはよく分からんが、よく聞いてくれ! 俺はあの子を心配したわけじゃない! 勘違いしないでくれ! 俺の世界では人殺しは何よりも悪なんだ……だからお前が……人殺しをするところなんてただ見たくないだけなんだよ……俺にとってお前は……この世界で共に歩むパートナーだと思ってる。そんなパートナーを嫌いになりたくないんだ……ごめん……俺の勝手な価値観を押し付けて……」


 ワタシの目に映った光景は、マサオがアルフの両肩に手を置き言い聞かせている姿だった。そして、その言を聞き受けたアルフは顔を真っ赤にさせマサオをじっと見つめている。なんだかピンクのオーラが漂っている……。


 あれれ……? おかしいなぁ……ワタシのこと無視ですか……? と、しみじみ思っていると、次の瞬間、二人がワタシに気づく。


「え、え、え、え、えーと……」


 動揺したワタシは、震える声でこんなヘンテコな声を上げた……。作戦とは何だったのか……あの満ち溢れた自信はどこに行ってしまったのか……。己でビリビリに破いた恥ずかしい姿で、ただ立ちつくす他なかった――。

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