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『タッタッタッタッタッ……』


 地面に耳を当てていたワタシは、誰かの駆ける足音を拾う。地面にかかる衝撃音から、その者の体重を推測し判断する。これは、アルフと一緒にいる少年、マサオの足音だろう。その音は、今いるワタシの場所から離れて行くように地面の中で反響していた。向かっている方向を推測すると、ワタシがさっきまで立っていた場所へ、つまりマサオはアルフの元に駆け寄っているのが解る。そして、息を殺し聴覚に集中していると――


「おーい! アルフー! 今は何がどうなっているんだー?」


 駆けながら声を上げるマサオの声が地面から伝わってきた。問いかけた内容はワタシにとって都合が良い、何よりも今は情報が欲しいところ。今後、作戦を考えるにしろ相手の状況が分からないことでは立てるものも立てられない。じっと耳を地面に当てたまま、その回答を固唾を呑んで待った。すると、マサオの足音が急に止まる。たぶんアルフの目の前に到着したのであろう。そう、想像していると、


「どうも何もない。見たまんまの事じゃが……?」


 と、アルフの声が地面から伝わってくる。


「いやいや、見たまんまで分からないから聞いてるんだよ……。で、あの女の子……殺しちまったのか?」


 と、マサオの声が響いてくる。それと同時に靴の底が地面を擦る音が鳴る、体の向きを変えたのだろう。たぶん話の内容から、瓦礫に埋まっているワタシを指差して話しているのが安易に想像できる。


「ああん? なんじゃ? やっぱりあのメスが気になっておるのか?」

「ち、ちげぇよ! どうなったかと思っただけだよ!」

「はぁ……まぁ普通の人間ならアレで死んでおると思うが、アヤツは『身代わり宝石』を身に着けておったからのぅ、残念なことにたぶん生きておるよ」


 この発言の瞬間、私の心臓は大きく跳ねた――。そして、頭の中にデカデカと登場した言葉は、『バレてるぅぅぅぅぅ!』だった……。息を殺していた呼吸は一気に荒くなり、体全体の汗線からは噴水のように汗が吹き出す。踊り狂う心臓の鼓動を感じながら必死に思考する。


 ――この杖……『雨季の杖』は、飛び道具ではない。上部に付いている宝石は、触れている空間のシステムコードに干渉する効果がある。なので、切り離す空間を作り出すには、その部分を直接宝石でなぞらないと効果が発動しない。つまり、あのアルフに至近距離まで接近し杖で空間を囲まなければいけないのだ……。ワタシとアルフの力量差から考えれば、相対している状況でいちいち空間を囲む作業を呑気に待ってもらえるわけがない。更にいえば囲った空間にアルフを止めなくてはならない。もう不可能に近いことだ。ただ、一つだけチャンスがあるとするならば、ワタシが死んでいると認識している隙に、システム移動で背後にまわり、瞬時に空間を囲むことくらいしか方法がないと考えていた。つまり、ワタシが生きていると知っている時点で、唯一無二の方法がご破綻したことを意味していた。どうしようどうしようっと眼球をキョロキョロと動かしていると、


「はぁ……そうか……それならよかった……」


 と、マサオから安堵の声が上がる。ワタシは生きている事を知られて慌てふためいているのに、あの少年はワタシが生きている事を知ってなぜか安心したように聞こえた。意味の分からない反応に困惑していると、


「あああああー! そ、そ、その反応ぉぉぉぉぉ! やっぱりやっぱりやっぱりじゃー! あのメスが好きなのじゃろぉぉぉぉぉ! アレと恋愛したくてしたくて、生きてて良かったって喜んでおるのじゃなぁぁぁぁぁ?」


 思わず地面から耳を離してしまうほどの怒鳴り声がアルフから上がる。その後、『ドンっ! ドンっ! ドンっ! ドンっ!』と、地面からとんでもない衝撃音が響いてくる。これは……地面に向かって何度も踏みつける音だ。たぶん……怒って地団駄を踏んでいるのだろう……。そう、想像した瞬間だった。ワタシの脳裏に一筋の閃光が走った。


 アルフの弱点は――アレ(マサオ)だ。

 上手く利用すれば……ワタシは勝てる――。

 

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