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 ワタシの名は、クリス。世界を創造された『マト様』の使徒である。魔族の平和を乱す悪『アルフ』を退治するため、生物がどう求めても辿り着けないチカラを授かって、この世界へやってきた。現に、この世界で最強と思われる勇者を瞬殺した。この世界には、ワタシに勝てる者なんていないはずだった……。


 なのに……なぜ……ワタシは、こんなみっともない姿でいる……? 瓦礫の中にいるワタシは、受け身を取ることが出来ず、みっともない姿で埋められていた。なんて屈辱的であることか……。こみ上げる憎悪だったが、それよりも疑問のほうが増している――。


 背後を取られた後、何をされたのか未だに分からない……。何か嫌な予感がし、首にぶら下げているペンダントを指でなぞった。その瞬間、ワタシは驚愕した。ペンダントに付いていた宝石が砕けていたからだ。この宝石は、『身代わりの指輪』と同じ種類の宝石を使っている。身代わりの指輪は、自分という同じ生物を生成する効果だが、この『身代わりのペンダント』は、自分と同じ命を生成する。効果は、自分の命を失った際に発動し、身代わりの命になるというアイテムだ。つまり……ワタシは、一度死んだって事になる……。


 荒くなる呼吸を必死に抑えながら、冷静を保とうとしたが、頭に浮かんだ言葉は、『アレはバケモノだ……』だった……。身代わりシリーズのアイテムは、もうない。次やられたら終わり。高鳴る心臓、溢れ出す汗、速くなる呼吸、そう認識した瞬間、恐怖がワタシを包もうとしてきた……。


 もう後がないと理解したワタシは、右手に握っていた杖に意識がいく。この杖は、使いたくなかった。これは、『女神ウキヨ』から与えられたモノだ。アルフ同様、天界人もマト様の敵である。そんな者から与えられた武器を使うことに抵抗があったからだ。だがしかし、そんな悠長なことを言っている場合ではない。実際にアルフと相対して分かったことがある――アイツは……デタラメ過ぎる……。マト様が危惧していたことが現実味に帯びてきた。きっと……アイツは……マト様を……殺すことが……できる……。


 その事に気づいた時、真っ先に頭の中に浮かんだ事――マト様の命を守らなければいけない……どんなことをしても……あの悪魔は、ここで殺さなければいけない……ってことだった。ワタシは女神から与えられた杖を強く握り締めた。


 この杖の名前は『雨季の杖』という。神器の一つで、効果は、世界に存在するものであれば、例外なくその場に固定し、拘束ができるという。って話だったが、ワタシには解る。杖の頭部にはめ込まれた宝石一つ一つには、システムに干渉できるコードが刻まれている。つまり、これは魔法でもなんでもない、システムを捻じ曲げて、その空間ごと世界から切り離すというカラクリだ。空間ごと世界から切り離せば、どう暴れても関係ない。倒せなくてもこの空間に入れてしまえば死んだのと同じ事である。一言で表すのならば、女神を通さないで別世界に移動させたことになる。何もない小さな小さな世界に切り離す。想像しただけでも怖ろしい杖である。ちなみに世界間の移動は、マト様以外にはできない。例外なく、アルフもこの世界には、女神のチカラでやってきたらしい。つまり、アルフには世界間を移動するチカラは持っていない。この切り離した小さな世界に閉じ込めてしまえば、ワタシの勝ちってことになる。コードが読めなければ、信じられない効果の杖だが、私からすればネタばらしした杖である。女神もワタシがマト様の使徒で『知る者』とも知らずに渡したのだろう。自分たちの敵になるかもしれないヤツに渡すとは思えない、とんでもなく恐ろしい杖である。


 そこで一つ疑問が浮かぶ。天界は、これだけの武器がありながら、なぜ自らアルフを処分しないのか……? なぜ転生者に任せたのか……? そんな疑問が浮かんだ……。しかし、今はやめよう関係ない。改めてアルフを倒すことだけに集中しよう。空間を切り離すとしても、アルフの動きを止めないとその場に閉じ込めることはできない。ヤツの動きは見えない、気づかれたら一撃で殺される状況で、気づかれずに動きを止め、空間に閉じ込めるしかない。チャンスは一度きり、これだけの効力だ、世界のシステムへの負担も計り知れない。一度、一度しかないんだ……失敗は許されない……。ワタシは、死んだフリをしつつ、地面に耳をあて、アルフの動きを窺う事にした――。

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