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「あぁ……やっちまった……」
教室の片隅で頭を抱える少年がいた。
彼の名前は『マサオ』高校一年生である。
なぜ、こんなにも落ち込んでいるのか、それは少し前のことだった。
中学時代の彼は、面白い人ランキングで三位を取る、ひょうきん者であった。
卒業間近になった頃、クラスの男子の中では女子への告白が流行っていた。
別に好きな女子がいたわけではないが、流れに乗り告白をすることに決める。
理由は、今後の高校生活において彼女持ちという優位性が欲しかったからだ。
つまり少年は『高校デビュー』がしたかったのだ。
――そのためには、好きでもない女子に告白できるような男でもあった。
どうせ告白するなら成功率が高い女子を選んだ。
――物を選ぶように。
なぜあの子にしたのかと聞かれた彼は、空を見つめて言った。
「麻雀で言うなら、捨て牌にある牌を捨てる如く安牌を選んだ」
――酷い言い方である。
自信満々でいざ告白へ。
彼女からの答えは、「マー君は面白いけど好きな人いるの、ごめんね」だった。
頭が真っ白になった。
頭の中をよぎったのは、皆を笑わせていた輝かしい自分の姿である。
教師のモノマネ、即興の替え歌、数ある変な踊りに顔芸……。
そんな自分の姿が走馬灯のように過ぎ去っていった――
――この出来事により、マサオは少しおかしくなっていく。
その後、彼女が言う好きな人はクラスで一番の無口な男子だと分かる。
その二人は、彼女の方から告白しカップルとなった。
その事実を知った彼は――
「ふざけんなぁぁぁ! なんでアイツなんだよ! 俺とアイツ、彼女と話した言葉を文字起こししたら国語辞典と旅のしおりぐらいの差があるだろうが! ズルいよぉぉぉ!」
むちゃくちゃ言いながら泣いた……。
そして、とんでもない勘違いをするようになる。
時代は、お笑いよりクールなんだ――
数ある物語のキャラクターたちを参考にするようになる。
確かにお喋りキャラよりクールキャラの方が女受けが良い。
しかし、物語のキャラを本気で信じる高校生がいるわけがない。
――否、ここにいたのだ。大事なことを気付かず高校へ入学する。
入学した彼は、クールキャラを演じ続けた。参考にしたのはアニメ化もされている人気作品のクールキャラである。家では「アーちゃん……アーちゃん……」と声優さんのモノマネばかり練習してクールさをアップさせていたが、心配した母親に「マーちゃんどうしたの?」と言われる程であった。
無論、こんな状態の男子に惚れる女子などいるわけがなく、さらに言えばこんな状態では友人を作ることも難しくなっていた。だが、この馬鹿は走り始めたら止まらない、彼は無心でクールキャラになり続けた。
そして一ヶ月後、彼は完全なボッチになっていた。
「ふざけんなよぉぉぉ! 今、思えばクールキャラって、ただのおとなしい男子ってことじゃん! 結局、顔かよ! うわぁぁぁぁぁ!」
彼は泣くしかなかった。
――それにしても気づくのが遅すぎる。
「あぁ……、やっちまった……」
本当にやっちまったである、黒歴史完成の瞬間でだった。
高校デビューなんて目指さなければ、教師のモノマネでもして笑っていたのに。
そんなことを考えていると、また泣いてしまった……。
それから数ヶ月の月日が経った。
彼は相変わらずボッチでいた。昼飯も一人、帰りも一人。
この頃は、異世界転生モノ小説を読むことに夢中になっていた。
読んでいる間は、異世界に行っている非現実的な気分になり、こんな妄想するようになる。
――異世界へ転生した俺は、特別なチカラを持つ。そして、メチャクチャ強い敵をバッサバッサと倒して続ける。そんな俺つえぇ状態になった俺は、不遇な扱いを受けている少女たちを助けるんだ! そんでそんで! そんな少女たちは、俺にベタ惚れして、取り合っちゃってんだ! 俺、困っちゃう!
「ん~! いいね! いいね! くぅ~! 異世界へ行きたいなぁ!」
――フラグとしか思えない発言をする、困っちゃうマサオであった……。
そんな、ある日のことである。
いつものようにネット小説を読みながら登校していた。
ここは交通量の少ない道、普段通り道を渡ろうと確認もせずに渡ろうとする。
その時だった――フラグを回収するかのような車がマサオ目掛けて走ってくる。