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迷走中

 小鳥達のさえずる声と鼻腔をくすぐる馬糞と不快な子猫の肉球の感触で俺は目を覚ます。


「おはようカタイシ!よく眠れた見たいだニャ」

「おはようヤマザキ、よく俺がこんな馬小屋で寝ていると解ったな」

「馬小屋の中に死体が放り込まれているって宿屋で騒ぎになってたから、もしやと思って来て見たニャ」

「もしやと思うなよ!契約者を蔑ろにし過ぎだろ!」


 ヤマザキの毛並みは昨日の茶トラから今は真っ黒に変化していて額には精霊石がしっかりとはめ込まれている。


「あれはあれで苦労するんだニャ、娘さん達は僕がミルクをてちてち舐めるのを見たがるから、ガッチリした物を食べられ無いしニャ」

「ガッチリした物を食べられ無いのは俺も一緒だ。ヤマザキ何か持って無いか?」


 ヤマザキは手の平をわきわきと動かしながら肉球の間からサラミを取り出す。


「酒のツマミだろこれ、ブレ無いな」

「いらニャいのなら僕が食べるニャ」


 腹が減っているのでこの際何でもいいなと思い、少し歯応えのあるサラミをボリボリと齧っていると、いつの間にか馬小屋の周りに人だかりが出来ていた。


「なあヤマザキなんで人だかりが出来ているんだ?」

「見知らぬ藁まみれの浮浪者が、馬小屋で猫と会話しながらサラミを齧っていればちょっとしたエンターテイメントだニャ」

「場所を変えるか」


 そそくさと馬小屋を後にして俺とヤマザキはこれからの事を前向きに考える。


「ヤマザキよ、俺は思うんだ。精霊の力を得るって事はどう言う事かってな」

「唐突に真面目な事を言うニャりね」

「精霊の力を得るって事は、精霊が精霊魔法を使って起こした事象を最大限俺の功労として世に知らしめるのが俺の役目なのかな?ってな……」

「清々しい程のクズっぷりだニャ」

「その為にはヤマザキよ、お前は何が出来て、何が出来無いのかを知る必要があると思うんだよ」

「普通は契約前に詳しく聞かれる事ニャんだが、解ったニャ」


 やはりロマンとしては広範囲モンスター殲滅魔法であっと言う間に大金持ちとか、自然を操る大魔法で周りの人間から盲目的に尊敬されるとかドキドキしますな!


「まだ自分でもわからニャいな」

「は?」

「わからニャ……」

「フザケンナこの毛玉野郎!」

「カタイシは意外と沸点低いニャ、落ち着いて聞くニャ、僕はつい先日大精霊になったばかりの初心者だから、何が得意なフレンズなのか今ひとつ把握しきれて無いニャりよ」


 ま、マジで鉱山奴隷五秒前……


「じゃあなにか?その肉球収納と酒屋の万引き位しか能力が無いのか?」

「違うニャ、まだ解っていないだけで能力が無い訳では無いニャ」


 ふむ……まだ解っていない能力を引き出すにはどうすれば……。


「なあヤマザキ、なんかこうさ、むむ……解る、解るぞ!俺の能力が!どう使ったら良いのかが自然と解ってしまうぞ!的なフィーリングも無いのか?」

「無いニャ」

「精霊詐欺じゃん!女冒険者のオッパイに挟まれすぎて、オッパイボケしてるんじゃないのか?」

「契約時には色々と把握してたニャ!ソコソコの魔獣も狩る事が出来たし、人間の治療も得意だったニャ!契約が終わって直ぐに大精霊になったから契約違反では無いニャ」


 誰だコイツを大精霊なんぞにした愚か者は!


「まあ良いか、その肉球収納を最大限活用して宅配サービスでもやるか?黒猫ヤマザキの宅配便だな」

「保証人が居ないと運搬輸送系の仕事は受けられ無いってギルドのお姉さんが言ってたニャ」

「じゃ何か?今の所お前は女冒険者のオッパイに挟まれながら酒瓶を万引きするだけのフレンズなのか?ある意味すごーい!」

「カタイシは女冒険者のオッパイにこだわるニャりね」

「取り敢えずはだ!お前の能力を早い所見つけないとツルハシとスコップを金物屋から万引きして来なきゃいけなくなるだろ!」

「なんで鉱山奴隷になる前提で話を進めているニャ?」

「大精霊の契約者が鉱山奴隷って……ちゃんちゃら可笑しいですな」

「カタイシ!精霊魔法の使い方を教えるニャ!しっかりと覚えるニャりよ!」


 やる気に満ち溢れたヤマザキが珍しく俺の肩の上では無く、俺の一メートル先の空中を平泳ぎで進んで行き町の外に在る草原まで連れて来られた。


「先ずはここで広範囲魔法のテストをするニャ!」

「やっぱり有ったのか広範囲魔法!」

「この伸び放題の雑草を魔獣と想定して殲滅させるニャ!」

「ほほう。俺はどうしたら良い?」

「カタイシはそれっぽい事を言って、それっぽい雰囲気を漂わせるのが仕事ニャ!」

「それなら得意分野だ。任せろ!」


 俺はコホンと咳払いをして両手を前に向けて広げる。


「精霊術師カタイシが命ずる!眼前に広がりし緑の野を荒地に変えよ!」


 ヤマザキの身体が薄っすらと光り出して、俺の身体から魔力的なアレがヒュルリと抜けた気がしないでも無い感じがする。


「ニャー!」


 ヤマザキが珍しく地面に降り立つと二本足で走り出し雑草の一株をがっしりと抱え込むと鋭利な爪を振り上げてザクリザクリと刈り出した。


「手作業かよ!そんな仕事を求めるなら魔力を差し出さずにお茶を差し出すわ!」

「じゃあどうすれば良いニャ!」

「逆ギレすんじゃねえ!こっちが聞きたいわ!」


 精霊魔法ってのはこんなに面倒なのか?もっとこう『ウフフありがとう精霊サン』的な精霊に丸投げな感じのイメージがあるのだが、最初はやはり精霊と一緒に草刈りとかしたのかな?


「なあヤマザキ、例えばだな水とか火とか風とかそう言う系の魔法の簡単な奴から試さないか?お前最初、風とか火とか言ってただろ?」

「それは属性だニャ。属性から存在が変わるのかニャ?大精霊は」

「俺に聞くのか?まあここで草刈りしてるよりは精霊魔法に近付くと思うぞ」

 心なしかションボリとしたヤマザキを励ます様に俺は呑気に笑いかけた。


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