初めてのダンジョン3
3人のダンジョン探索はこれで終了です
9階層は割と苦戦したが、レベルも上がったこともあり、なんとか攻略できるまでになっていた。俺達は10階層への階段前まで来ていた。
「とりあえず今日は10階層までにしておこうか」
「そうね、わかったわ」
「うん、そうしよう」
異論はないようだ。9階層は8階層と魔物は同じなのだがステータスは違うようで、8階層と同様な戦闘方法だと痛い目を見る。
いや、実際見た。カウンタースキルに任せた先制攻撃は単体には有効だが、複数に囲まれると対処ができなくなる。
カウンタースキル発動後の隙を突かれ、俺はソードスケルトンの攻撃をくらってしまった。
「晴海君!大丈夫!?」
「・・・大丈夫だ。問題ない」
「それ、本当に大丈夫なのかしら・・・?」
微妙な表情を浮かべる滝井。2匹のオーク亜種と戦闘中なのに少し余裕を感じさせる。
「私のスキルで回復するね」
「え?ああ、頼む」
橋本の両手が光に包まれ、怪我をした箇所に触れると、傷が無くなり痛みも消えた。
これが橋本のスキル「聖女」か。魔力がないから「回復魔法」ではなく「回復スキル」だろうな。
魔法全般は俺達のような魔力のない異世界人は使えないので、魔法のようなスキルはかなり貴重なスキルだといえる。
怪我が治った俺はすぐに前線復帰し、魔物達を殲滅していった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
10階層に到着したが、驚くことに魔物の気配がない。
罠も感知できないので、罠も存在しない。ただ1つ長細い通路があるだけだ。
ここが俗にいう、固定エリアか。
「なんか嫌な予感がするな」
「魔物もいないなんて返って不気味ね」
「と、とにかく進んでみる?」
通路を進んで行くとようやく気配感知にひっかかった。
どうやら突き当たりの扉の奥に魔物が1体の反応がある。
進むか退くか。2人に確認をとってみる。
「この部屋の奥に1つ反応があるが、どうする?恐らくボスだが、この部屋に入ると閉じ込められる可能性もある」
「引き返すのも手、ということね」
「3人で大丈夫かな・・・」
仮に閉じ込められても俺には転移装置の罠を使って部屋から脱出する方法がある。
ボスが罠にかかるかはわからないが、俺達なら大丈夫だ。作戦を伝えると2人は快くOKしてくれた。
命がかかってるというのに信用してくれた2人に全力で応えよう。そして、扉が開かれる。
ギィィィ・・・・
3人が完全に入ったところでバタンと扉が閉まり、開かなくなった。やはりそうきたか。
ボスは頭に王冠をかぶったオークだ。それと体がデカイ。キングオークといったところだな。
「よし、ボスは1体。作戦通り行こう!」
「「了解!」」
作戦は滝井が敵の注意を引きつけて、俺が罠を仕掛ける。敵が罠にかかったら総攻撃をする。
橋本には後方支援を優先に動いてもらう。
滝井が音もしない高速移動で素早くキングオークの背後に回り、攻撃する。
これが滝井のスキル「隠密」。キングオークは動きはそんなに早くはないが、滝井の動きに反応できていない。
気配を殺せる効果もありそうだな。高速で攻撃→離脱のヒットアンドアウェイ戦法で確実にダメージを与えて行く。
俺はその間に罠を仕掛ける。器用さが上がってるおかげで少し設置が早くなった。罠を2つ仕掛け終わり、3つ目の途中で
「!?避けて、宮古君!」
滝井が叫ぶが一足遅く、罠設置中の俺が上を見上げると
「ォォォオオオオン!!!」
キングオークは俺の近くまで大ジャンプしてきていた。罠設置中はどうしても無防備になるので反応が少し遅れた。
俺は罠設置を中断し、バックステップで距離をとる。
キングオークの着地と同時に衝撃波が起こり、距離は十分にあったはずだが俺は余波をくらい、後方十数メートル飛ばされてしまった。
「晴海君!すぐに回復するから!」
橋本が聖女スキルで回復してくれる。
先ほど仕掛け中だった罠のほうは壊されてしまったようだ。
仕掛け終わった罠は落石、シビレ罠。
壊されたのは眠りガスだな。ちなみに転移装置の罠は緊急脱出用に離れたところに仕掛けてある。
不意に脳内アナウンスが流れる。
【スキル:衝撃波を取得しました】
【衝撃波:自分を中心に衝撃波を放つ攻撃スキル。スキルレベルが上がるたびに攻撃力が上がり、範囲が広がる】
こ、このスキルは!?キングオークのスキルを学習できたのか!?
奴の衝撃波は厄介だが、こちらも使えるならと策を閃く。まずは俺の衝撃波がどれぐらいの威力か試す必要があるな。
「滝井!今から衝撃波を放つ!離れてくれ!」
「このボスのスキルね?わかったわ!」
滝井は俺がボスのスキルを会得できたことを察して距離をとる。やっぱり学習スキルのことを話しててよかったな。
俺はキングオークに近寄り衝撃波スキルを発動させた。
「ブォォァーーー!!」
4、5メートルぐらいの吹き飛ばしには成功したが威力はやはり奴ほうが上だ。
体勢を崩したキングオークに滝井が追撃を加える。ヒットアンドアウェイ戦法が輝く。
俺の衝撃波は奴より強くないことが幸いして滝井や橋本には届いていない。
「作戦変更だ!俺が衝撃波を放つ!2人は奴が体勢を崩したところを攻撃してくれ!」
「いけるわ!」
「うん!」
作戦は成功し、2人と連携して確実にダメージを与えていく。もうそろそろ弱ってきていると感じた時、キングオークの体が赤く脈打ち始めた。
「ブルァァァァ!!!」
「な、なんだ!?今までの動きと違うぞ!」
「少し早くなっているわ!気をつけて!」
キングオークは咆哮をあげると怒り狂い、ステータスが上がったみたいだ。我武者羅に腕を振るい、衝撃波を放つ。
俺も衝撃波を奴に放つが、今の状態のキングオークには効かなかった。
・・・それなら。
「橋本!滝井!罠を仕掛けるから2人で少し時間を稼いでくれ!!」
「任せて!」
「了解!」
俺は大急ぎで先ほど壊された眠りガスの予備を取り出し、同じ場所に設置を開始する。
その間2人はキングオークを必死に足止めしている。かなり厳しそうだ。急げ、もう少し、もう少しで・・・よし、設置完了だ!
「よし、こっちに誘い込め!!」
「「了解!!」」
2人は罠のある俺のほうにキングオークを誘導する。今まで散々ダメージをくらわされて怒り狂うキングオークはまんまとついてきた。その末路は
「ブギィ!!」
まず、落石が王冠の上に直撃し
「ブビビビビビビビ!!」
シビレ罠で体を麻痺させ
「ブヒュー・・・」
眠りガスにより、キングオークは眠りに落ちる。
「よし、総攻撃だ!!」
行動不能になったキングオークに3人による総攻撃が開始され、キングオークは永遠の眠りにつくことになった。
「はぁはぁ、勝ったな」
「ふぅ・・・、さすがボスといったところね。体力が異常なほど高かったわ」
「やったよ!!私達、ボスを倒したんだよね!」
キングオークの姿が魔石に変わると、部屋に階段と隣に転移装置みたいなものが現れる。それと
「えっ!?待って。ラストアタックボーナス?」
「どうしたの成美?」
橋本の手に収まっていたのはティアラだった。恐らくは脳内アナウンスでラストアタックボーナスと流れたんだろう。キングオークの討伐報酬だろうな。
「確かボスにトドメを刺した人が貰えるもの・・・だったかしら?」
「わ、私貰えないよ!澪ちゃんにあげる!一番頑張ってたし」
「成美、頑張ってたのはあなたもよ。トドメはあなたなのだから、貰っておきなさい」
「うー、じゃあ晴海君は?」
「俺にティアラは似合わないだろう・・・」
「「た、確かに」」
2人でハモったのが可笑しかったのか、2人は笑い出した。結局ティアラは橋本が装備することになった。うん、似合うな。
「この転移装置で一気に地上に戻れるみたいだ」
「それは助かるわね。私はもうクタクタよ」
「帰り道が楽でいいね!ボスを倒したご褒美かな?」
3人の脳内にアナウンスが流れる。
『10階層の転移装置を起動させました。10階層への転移装置使用ライセンスを取得しました』
地上に戻った時は夕暮れ前だった。転移装置から出てきた俺達は兵士によって激励を受ける。
ってか入り口のすぐ隣にあったのかよこの装置。
「おめでとうございます!10階層を突破されたのですね!次回よりこちらの転移装置をお使いいただけます。ああ、もちろん1階層からの探索もできますのでご安心を!」
「「「ありがとうございます」」」
ギルドに戻った俺達は今日の精算をする。ドロップアイテム、魔石などを換金して3人で分けた。
キングオークの魔石が一番高くて、過去最高の精算額になった。
「今日はありがとな。楽しかったよ」
「晴海君、明日も・・・、ううん、なんでもない。私も楽しかったよ」
「宮古君、またパーティを組んで貰えると嬉しいわ」
「ああ、またその内な」
2人と別れ、宿に向かう途中で滝井に呼び止められた。どうやら追いかけてきたようだ。
「ごめんなさい、やっぱり話しておこうと思って」
「どうしたんだ?橋本関連か?」
「ええ、そうなるわ」
滝井が語ってくれたのは昨日のダンジョン探索だ。レベル的には7階層より下の8〜9階層も狙えるレベルにも関わらず7階層留まり。少し気になってはいた。
昨日もあの8人で行動してたようだ。構成的にもバランスがとれており、途中まではうまくいっていた。
それが崩れ始めたのは5階層から。魔物討伐組と罠探し組と別れたことだ。
魔物討伐組はこれみよがしに橋本にいいところを見せようと、連携もとらず自分勝手に行動し、罠探し組は自分の見せ場がないことにイラつき、途中から罠探しを中断して魔物と戦い始める始末。
結果、何人かが罠にかかってしまうという事態になった。結局7階層まで行ったところで限界がきて、戻るハメになったらしい。
「このままあのパーティにいたら危険だと思うわ。でも成美はああいう性格だから引き止められたら断れないでしょうね」
「そうだろうな。橋本はもう少し強引さを持った方がいいかもしれないな」
「誰かさんの前では強引なのだけどね。まぁそれはいいわ。宮古君、できればまた成美を誘ってあげてね。あの子のためにも。私のためにも」
「考えておくよ。滝井に頼まれることなんか滅多になかったからな。・・・こうして話にくるぐらいだから余程心配しているんだな」
「ええ、だからよ。じゃあ今日は帰るわ。くれぐれもよろしくね」
「ああ、わかった」
滝井の後ろ姿が見えなくなるまで俺は立ち尽くしていた。今のクラスメイトの現状を知り、これから先の事を考える。
うん、前途多難だ・・・。