クラスメイト
今日の投稿はこれでラストです。
ギルドで報告を終えた俺は討伐の証であるスライムの核と引き換えに報酬を受け取り、魔石も買い取って貰えた。
もう辺りが暗くなり始めていたので、その報酬金でも泊まれる宿を探そうとギルドを出ようとした時に
「は、晴海君!!」
「え?」
後ろを振り向けば息を切らした聖職者が着ているようなローブを装備している橋本が立っていた。
うん、パッと見ただけじゃ誰かわからないな。後から4人の男子が追いかけてきた。
「成美ちゃん、いきなりどうしたの?・・・ってそこにいるのは宮古か」
「・・・・・」
あからさまに嫌そうな顔をしているコイツの名前は屋根新太。橋本のことが好きだと聞いたことがある。自分が好きなアイドルに似ているとかで。ちなみに俺の事が嫌いらしい。
「チッ、早く精算してしまおうぜ」
コイツは大山精児。同じく橋本に気がある。かなり積極的というか事あるごとに橋本と一緒にいようとする。
付き纏いというか、ストーカーだな。コイツも俺の事が嫌いだ。
「急に走り出してどうしたんだい橋本さん?」
「ボクから離れると危険だよ。周りはキミを狙っているかもしれないんだからさ」
メガネをかけた2人組み。先に話した方がやせ担当は佐川明夫。デブ担当は長谷川太志。オタクで橋本の追っかけ。俺嫌。
4人の事は気にした様子もなく橋本は話を続ける。
「やっと起きたんだね!この3日間ずっと目が覚めなかったから、心配してたんだよ」
「ああ、昼間くらいに目が覚めた。心配かけたようで悪かったよ。ところでいいのか?さっきから連中待ってるみたいだが」
追ってきた4人の野郎達とも同じパーティを組んでるみたいでそいつらは受付にいた。
クラス一番のイケメンの鳴川悠人。その友達で空手部所属の池山剛。そして橋本の友達でクラスのご意見番、滝井澪。割と大所帯だな。
「いけない、あんまり待たせちゃ悪いからもう行かなきゃ。晴海君、よかったら明日予定空けててほしいな。ダンジョンに行こうよ!」
「成美ちゃん!明日は・・・」
「あ、そうだった・・・。じゃあ明後日!お願いね!・・・それから、あの時のことはなんでもないから!なんでもないから忘れてね?」
あの時というのは異世界に転移された日の校舎裏でのことだろうな。
それだけ言うと屋根だけ残し、橋本達は受付のほうへと戻っていった。屋根は俺に話があるようだ。
「おい、宮古。お前さぁ、あんまし調子に乗るなよ。成美ちゃんがなぜかお前だけ積極的に話しかけているようだけど、お前が彼女と釣り合うわけないんだしさ。そうだ、現実を見させてやるよ。今のお前のLV言ってみ?」
「はっ?LV2だけど?」
というか今日の昼過ぎから戦い始めたばかりだし、王様の話長かったし、こんなものだろ・・・。
だが、コイツにとってはそんなのは関係なく、単に俺を見下したいだけみたいだった。
「2!?弱すぎでしょ!?こんなのとパーティ組んだらメンバーかわいそうでしょ!!寄生する気マンマンじゃん!!あ、ちなみに俺達のパーティの平均LVは10だ。お前なんかがパーティとかに入ると足手纏いにしかならねぇの、わかるよな?」
わざと大きな声で発言をする屋根。しかし、それを不快に思った女子の一人がこちらに向かってきた。
「屋根君、大声で他人のLVを暴露するのはマナー違反よ」
「ひっ、・・・た、滝井」
「それと成美が誰とパーティを組むかは成美自身が決めることよ」
滝井がひと睨みしただけで縮こまる屋根。さすが「達人」の異名を持つだけのことはある。
子供の頃に武道を習っており、今も鍛練だけは続けているという。オーラが半端ないな。屋根は舌打ちを鳴らし、去っていった。
「サンキュー、滝井。助かったよ」
「こちらこそごめんなさいね?今はあんなのでもパーティメンバーだし」
実際、元の世界でも橋本関係での揉め事はだいたい彼女が収めていた。ご意見番と言われる所以だな。
俺にとってはトラブルメイカーの橋本より、問題解決の滝井のほうが癒し系だったりする。
「さっきのことは気にしないでいいわよ。成美とパーティ組んであげてちょうだい」
そう言われては助けられた手前、断るわけにもいけないので承諾する。
「よかった。こっちの都合は合わせておくわ。じゃあ明後日、成美をよろしくね?」
「ああ、了解」
さて、明後日か。屋根の言うことを気にするわけではないが、さっきの話だと橋本達のレベルは10ぐらいか・・・さすがに女の子に守られながらは嫌なので、それまでにできるだけレベルをあげとこう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
外はもう夕暮れだが、冒険者ギルド前の通りはまだ人通りが多い。見ればダンジョン帰りのパーティらしき人がほとんどだ。
元の世界でいう仕事終わりの帰宅ラッシュだな。そんな中で俺は宿を探している。
さっき滝井に聞いておけばよかったと後悔した。
なんか知ってそうだし。俺がその宿を見つけた時にはもうすっかり夜になっていた。
『旅の宿 やすめ』
「・・・・・・・・」
いろいろ突っ込みたくなる宿名だが、一泊食事付きでも先ほどの報酬で払える額だった。恐らく一番安いと思う。
「ようこそ『旅の宿 やすめ』へ!1名様ですか?」
「はい、部屋は空いてますか?」
「大丈夫ですよ!ここは連日空きがございます!」
それは宿としていいのだろうか?こちらとしては助かるのであまり言えないが。
「とりあえず1泊食事付きでお願いします」
「ありがとうございます!ではこちらの宿帳に記帳お願いします」
宿帳に自分の名前を書いた。あれ?ちょっと待てよ。この文字は自動翻訳されるのか?
「あのぅ、これってなんて書いてあるんですか?」
案の定、書いた字は翻訳されないみたいだ。仕方ないので口頭で名前を伝える。
「み、や、こ、は、る、み・・・と、失礼ですが女性ではないですよね?」
「男です・・・」
「で、ですよねー。失礼致しました!」
かな表記にするとどっちでも女性ととれることから小学校からかなり弄られたさ。
「ではこちらが部屋の鍵になります。食事はあちらに食堂がございますので注文してくださいね。一食分増やす時は追加料金になりますのでご注意ください」
「わかりました」
部屋は簡素な旅館のようだった。布団と枕、クローゼットではないが衣服を片す収納ペース。そして。
「おお・・・、風呂とトイレもあるのか」
異世界にきてからこれが不安だったが、問題ないようだ。食堂で夕食を食べて、風呂に浸かる。
「こちらにきて3日か・・・。早く帰る手がかりを見つけないとな・・・」
俺が早く元の世界に戻りたいのには理由があった。だがこの日は予想以上に疲れたこともあり、今後の事も考える間も無く布団に入るとすぐ寝てしまった。
書き溜めてた分はひとまず以上です。