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8話、現世、そこはテスト中のNPCが蜂起する世紀末な世界。

 東から昇った太陽の朝日がLGA775(シルハウス)に差し込むころ、女神シダーミルは自宅横の家庭菜園で野菜を収穫していた。

 隣ではペットのアランデールが草をむさぼっていた。


「やはり早朝の空気は気持ちいいですね。今日の朝ごはんは何にしましょうかね」


 女神が野菜の収穫を終え、朝のメニューを考えていたその時、滅多に鳴かないアランデールが声を発し警戒している。

 それは、朝もやのかかる森の方角を向いていた。


「どうしたのですかアランデール?悪魔でも現れましたか?」


 彼女も気になってその方角を見ると、声が聞こえてきた。

 モヤの中に人影のような物も確認できた。


「何か聞こえますね?人の声?」


 やがてはっきり聞こえるようになってきた。


「あそこが魔女の家だ、焼き払え!」


 最初、その意味が理解できなかったが、朝モヤの中から松明やクワを持った人間を見て理解した。

 私の事を魔女と勘違いして討つ気だ。


「ユビーさん助けて――――!」


 女神は収穫した野菜を地面に落とし、急ぎ家に避難した。アランデールも一緒に。


 ◇ ◇ ◇

 

 ユビーは夢を見ていた。嫁のルビーに誘惑される夢。


「待てルビー、なんでこんなところで脱ぐんだ!服を着ろ」

「ユビーさん助けて――――!」


 俺の夢にシルの悲鳴にも似た声が割り込んできた。


「今日も悪夢からスタートか?!」


「ユビーさん大変です。外外そとーーーー!」

「ヒィィィーン」


 アランデールも必死に鳴いていた。

 俺は起き上がると扉を開け外を見た。


「バタン」そして即閉じて鍵を掛けた。


 なんだこれ?夢じゃないとしたらNPCが蜂起した?

 え?税率が高かったか?


「魔女を焼き払え!」


 外から声が聞こえてきた。

 魔女?この家が原因か!しまった犯人は俺だ、削除した山を戻し忘れてたんだ。


 シルはアランデールと抱き合って大泣きしている。


「怖いよー!ユビーさんなんとかしてください」


 俺はタブレットを手に取るとNPCメーカー『フォスタ』を起動し《テスト停止》を押そうとした瞬間、「ガチャ―ン」という音とともに石が飛んできた。


 それは俺の予想通り頭にヒットし、意識が遠のきはじめた。

 だが、なんとか失う直前《テスト停止》を押し、意識を失った。

 ほんと俺って運が無いよな…。


  ◇ ◇ ◇


「誰かが俺の顔を舐めている…くすぐったいし臭い」


 目をあけると、アランデールの鼻の穴がドアップで見えた。


「うわっ」


 どれくらい気を失ってたのだろうか。


 起きると、アランデールは服の袖を引っ張り、ある方向を向かせようとしていた。

 そっちを見ると、シルが三角座りをしてうなだれていた。

 俺はシルのところに行き声をかけた。


「シルちゃん大丈夫か?」


 返事は無いが、何かをつぶやいていた。

 耳を傾けてみると…「もう嫌だ、天界帰りたい。NPC怖い、怖い、怖い、帰りたい、私は魔女じゃない」


 これはダメだ、重症だ…。

 アランデールも優しく彼女を舐めていたが効果はない。

 俺は安全確認のため家の外に出てみた。


 周囲は昨日配置したNPC達に囲まれており、停止に失敗すれば本当に放火されていただろう。

 シルが育てていた家庭菜園も踏みつぶされ悲惨な状態だった。


「どうしてこうなるんだ…、俺は呪いでもかけられているのか?」


 シルちゃんは巻き込みたくない。もっと気をつけないといけないな。


 俺はもう一度タブレットを操作し《テスト終了》を押した。

 そしてNPCのデータを全て削除した。


 地形アプリを起動し、削れていた山も修復しておいた。


 これでひとまずは安全。

 家に入った俺は割れたガラスを掃除し、破損したところには応急処置で厚紙を入れて置いた。


 そしてシルの隣に座った。


「NPCは完全に削除した。もう大丈夫だよ」 


 しかし返事はなく、小声でブツブツとつぶやいているまま。

 俺はシルを抱きしめてみた、彼女は震えている。


「もう大丈夫だから」優しく言ってみる。

 少しするとシルもぎゅっと力を入れてきた。


「本当に.....大丈夫ですか?」

「もちろんさ、本当にごめんな俺のせいだ」

「.......」


「気分転換に天界に遊びに行かないか?」

 シルは小さく頷いた。


 ◇ ◇ ◇


 天界へ遊びに行こうと誘ったものの、俺はどうっやて行くのだろうか?

 シルちゃんが少し落ち着いてきたので聞いてみた。


「はい、ユビーさんを私のアドバイザーとして申請すれば大丈夫です」

「それはどういう事?」

「簡単に言えば、この世界を共に創るパートナーと言えば分かりやすいでしょうか?」


 パートナーか、そんなのあったんだな。


「申請さえ通れば、私が一緒にいる限り天界へ行けますし、他の女神の【異世界】も行けます」

「それは面白そうだな、行ったことのない世界も見てみたい」


「でも私は知り合いが少ないので、行けるとしたらアランデールのところくらいでしょうか」


【極楽浄土】か…。


 まぁ気分転換にはいいだろう。

 早速シルちゃんは俺のアドバイザー申請をしてくれた。

 許可証が来るまでの間、彼女は簡単な朝ごはんを用意してくれた。


 俺が作るって言ったんだが、気分転換したいからと言われたので任せることにした。

 その間にタブレットを再び開いて、NPCの説明をもう一度見直した。


 今回の件が不具合の類では無いとしたら、やはりシルの家は完全に隠す必要がある。

 かといって地下は絶対に御免だし、この状況で辺境に引っ越すのも、非常時に家に帰れなくなるので得策とは言えない。

 当面は誰も越えれない山で隠し、やがてはシル教(仮)を作り、家は神聖なエリアに置くのが良さそうだ。


 彼女も渋々OKしてくれるに違いない。


「お待たせしました。モーニングセットです」喫茶店のウエイトレスさんのような口調で言うと、使い勝手の悪いAMIBIOSテーブルにセットが二つ並べられた。

 トースト、ゆで卵、ミニサラダ、ヨーグルト、コーヒー(シルちゃんはミルク)ちょっと豪華な内容だった。


「いただきます」今日は俺もシルちゃんに合わせてサラダから手を付けた。

 

 ぼりぼりと咀嚼(そしゃく)していると、タブレットからメールの新着音が聞こえてきた。

 シルちゃんが見に行く。どうやら許可証が送られてきたようだ。


「あとでプリントアウトします」

「よろしく」


 再び食事を再開した。


「シルちゃん天界のどこに行くの?」

「そうですね。ランチをご馳走してください」


「よろこんで!」


 お金持ってないけどね。


「ごちそうさまでした」したあとは許可証をプリントアウトする事にした。

 

 シルちゃんがプリンターカバーを外すと、見た事あるプリンターが出てきた。

 精工な時計作ってるところじゃん。 


 彼女はタブレットを操作し、無線でデータを飛ばしてプリントし始めた。

 10秒後立派な許可証が出来あがった。


 でもこれ偽造できるんじゃね…?


「天界へ行くには軌道エレベーターを使うのですが、必ず事前に連絡を入れないといけません。私は今から管理局に電話してきます」

 と言ってシルちゃんは部屋の隅っこに行き、四角いケースのカバーを外した。

 そこから出てきたのは、また懐かしい代物だった。


 高速道路にある非常電話だ。グリーンのやつね。

 よく見ると日本道路公団と書いてあった。流石は天界なんでもありだ。

「私が話せば死人が出る」とか言ってた元総裁は元気なのだろうか?


「もしもし、女神シダーミルです。交換手さん、管理局にエレベーターを使うと連絡をお願いします」

「あ、ハイ。わかりました。お願いします」


 連絡は終わったようだ。


「ユビーさん、私洗い物だけしてきますので、洗濯物をそこに入れてスタートを押してください」

「お任せあれ」


 俺は洗濯かごに入ってた俺とシルちゃんの服や下着を洗濯槽に入れた。

 おっ、これはシルちゃんのパンツじゃねーか!

 大人だな…。


「ユビーさん、何見てるのですか?エッチー顔になってますよ」

 まじかよ。これはヤバイ。さっさとスタートを押そう。


 それから俺はシルちゃんの洗い物が終わるまで、タブレットで女神Wikiで軌道エレベータを調べてみた。

 なるほど、エレベーターは有料で片道ひとり8510ヘブンスドル必要。

  

 2人で往復だと結構なお値段だ。だから気軽に天界へ買い物に行けないんだな。


 ◇ ◇ ◇


 洗い物が終わったので、俺はシルちゃんと軌道エレベーターに乗る事にした。

 アランデールは連れて行けないのでお留守番。

 奴はシルちゃんを見送っていたが、どこか寂しそうな目つきをしていた。俺にはなついてないけどね。


 家を出ると、先ほど山を修復した方角とは逆の森を少し進んだ。

 やがて森の中に木が生えてない場所にたどり着いた。

 何も見えないが、シルが手をかざすと天まで続く透明で巨大なチューブが現れた。


 これに乗って天界へ向かうようだ。


「さぁ乗りましょう」

 シルちゃんが中に案内してくれた。

 客室内には座席が10人分、四方は透明な素材が使われているので視界は良好だった。

 扉が閉まると、ゆっくりと上昇を始めた。

 数日前設置した山の山頂の高さを過ぎたあたりから、速度を上げた。


 昨日までに完成した2つの町がどんどん小さくなっていく。

 地平線を見ると丸くなっていることから、この世界は丸っこい惑星タイプなのがわかった。


「しかし、本当に草原で埋め尽くしたんだな」

「1人で頑張ったんですから褒めてください」

「4年間1人で作業なんて俺にはまねできないよ。寂しくて死んじゃう」

 99回死んでるけどね…。


「確かに寂しいと感じる事もありましたね。でも今は私のご飯食べてくれる人もいるし、アランデールもいるし充実した生活が送れてますよ」

「俺のおかげだね?」


「まぁ、そういう事にしておきましょう」


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