7話、現世、そこは鉱山ができた世界、坑道は光コケが生えて幻想的でした。
現世2つ目の町バイオス。
俺達は町の中心部にある噴水広場でお昼ご飯を食べることにした。
シルちゃんは、リュックから二つのお弁当を出してきた。
ふたを開けると、白いご飯にふりかけ、玉子焼き、ウインナー、ミートボール、プチトマトなどの野菜類が入っていた。
シルちゃんの弁当は小さめで、具材は同じだが俺の半分程度だ。
「いただきます」をして俺達は食べ始めた。
「食べ終わったら鉱山を作ろうと思うんだ」
「わかりました。ダンジョンも併設でしたか?」
「うん、下層はモンスターが湧くダンジョン化した鉱山にする」
「それじゃモンスターが必要ですね」
「そうなんだよね、シルちゃんはどんなモンスターがいいの?」
「私は…」
と言って、シルちゃんはリュックからノートを取り出し、モンスターのスケッチを見せてきた。
たぶん可愛いモンスターなんだろうなと思ってたら、やはりそうだった。
その昔、電子メールを可愛い動物が運んでくれるソフトがあったが、そこに出てくるピンクのクマそっくりのモンスターもいた。
せっかくなので、一部を採用する事にした。
「このノートあとで借りるね、タブレットで撮影してモンスターとして登場させるね」と告げると、シルちゃんは喜んでいた。
俺は食べながらタブレットを操作しようとしたその時。
「ユビーさん、ごはん食べる時は操作しないほうがいいですよ。消化に悪いそうです」
「あ、ごめんごめん。つい…」
またシルちゃんに怒られてしまった。この子たまにかーちゃんみたいなところあるんだよな。
操作はできないから、代わりにどんなダンジョンにするか話し合いをした。
「ダンジョンの深さなんだけど、初心者向けだし地下タイプの5層にしようと思うんだ」
「なるほど、それくらいがちょうどいいかも知れませんね」
5層のうち、2層までは通常の鉱山にして、生産系冒険者が採掘できるようにした。
3層はシルちゃんのデザインしたお菓子のモンスター(Lv1程度)を配した。
ここは、レアな鉱石も出るようにして、スキル構成的に採掘戦士が活動できるように配慮した。
俺は以前、採掘戦士をしていた時があった。
そこは生産が盛んな世界で、スキルを鍛え上げれば戦士並みに稼げたのである。
はじまりの町の近くに地下4層の鉱山があった。
最下層のみモンスターが出るのだが、そこはレアな鉱石が出るのでみんな必死に戦闘スキルも上げた。
そしてスキルも順調に上がり、採掘戦士として十分やていけるようになった矢先俺は死んだ。
その鉱山で初めてとなる落盤事故が発生したので。運が悪かったのだろう。
自分のステータスが可視できるなら幸運の数値を見てみたい。
これはユニークスキルの恩恵を得ていると実感できる瞬間でもあった。
「だから、この鉱山はそこを参考にしたんだよ」
「やはり多くの世界を旅してきたユビーさんは頼りになりますね」
照れるな、何もでませんよ。
そんな会話をしていたらお昼ご飯は終わってしまった。
「ごちそうさまでした」
そして俺は食後のコーヒータイム。
シルちゃんは愛車アランデールのボディーを毛づくろいしていた。
その間に俺はささっと地形と建築アプリを起動して、岩山と鉱山を作り始めた。
基本的ところは昨夜の間に作っておいたので、今の会話を元に構築するだけ。
4と5層はもう少し難易度を上げてもいいかな?
レア鉱石の種類も増やすとして、特に5層は採掘戦士単独では作業が困難にしておこう。
そして一番奥にシルちゃんのデザインしたピンク熊をボスとして出そう…。
うーんでも、なんで鉱山の奥地にクマなんだ?まぁ3層のお菓子も意味不明ではあるけど。
そこで俺はクマを通常配置の鉱石モンスターと組み合わせた外見にしてみた。
かなりグロテスクなピンククマになった。
シルちゃんが戻って来たので見せてみる。
「なんですかコレ?」
「シルちゃんのピンククマを鉱石モンスターに改造したんだよ」
「……。あなたは子供の夢を破壊する気ですか?」
シルちゃんに睨まれた。
となると、鉱山には他のモンスターを配属させよう。
ピンク熊は森の奥で見ることができる調教可能なレア動物にしておいた。
これでシルちゃんのご機嫌も回復した。
鉱山に関する設定をすべて終えたので、シルちゃんと一緒に予定地へ向かった。
バイオスは広場を中心に十字路を配置し、北はノースブリッジ、南は王都、東は予定では山を越え海へつなげる計画だ。
鉱山は西に配置るのでそちらを進む、街路の両脇は鉱山に関係する商会や商店、労働者用の住宅を置いた。
この通は酒場の数も多いようにしてある。
珍しい施設ではノースブリッジに無かった公衆浴場を設置した。
代わりにあっちには温泉でも置こうかな?
町を抜けると徐々に鉱山の岩山が見えてくる。
手前には、掘り出した岩石のゴミが積み上げられている。
鉱山の場合は、実体化しないと中に入れないので、外側だけ確認後《Okay》を押してもらった。
お馴染みの効果音のあとに実体化した岩山が現れた。モンスターはまだ配置していない。
俺とシルちゃんは早速入ってみる、アランデールは外でステイさせた。
「ユビーさん、中はうす暗いですね」
「確かにそうだよな、でもあまり松明を増やすと酸素が減るからな」
確か手動で坑内に空気を送る装置があったような?
俺はアプリを起動しリストを見る。
あった、人力で動かす送風装置だ。
これも配置しておこう。
「2層までは通常の鉱山でしたよね?」
「そうだよ」
「素朴な疑問なのですが、2層はどこに掘り進むのでしょうか?」
ん?
「稼働した後、鉱夫達がどこを掘るかって事だよね?」
「はいそうです」
ごもっともな質問が来た。
これについて調べてみたが記述は無かった。
「うーん、それに関しては書いてないね。ヘルプメニューから質問を送ってみるよ」
「よろしくお願いします」
駄目もとで、アプリを開発したウィルさんにメールを送信した。
でもこれは確かにその通りで、2層から別のところに堀進んでモンスターが出たらどうなるのだろう?
実際に稼働したら調査に来てみよう。
「ここから更に下へ降りるのですね」
「2層までは階段を設置して容易に下りれるようにしたけど、ここからはダンジョンみたいなものだからね、雰囲気作りのために梯子にしたんだよ」
「確かに雰囲気も大切ですからね」
3層までは坑内に松明による照明があるが、4層と5層は真っ暗だ。
光コケを生やして、わずかに明るくするかどうか悩む。
「シルちゃん、ここから先は真っ暗にしてあるんだけど、光コケでうっすら明るくした方がいいかな?」
「そうですね、まだ初心者も多いところと思いますので生やしましょう」
早速配置してみると…。意外と綺麗だった。
「とても綺麗じゃないですか」
「すごいな幻想的な光景だ」
彼女がいるならデートコースにいいかも知れない。もちろんシルちゃんと2人きりでもOK!
そして俺達は5層の奥までやってきた。
「ここにボスモンスターが出てくるんだ」
「なるほど、鉱石の結晶が綺麗ですね。キラキラしてますよ」
レアな鉱石の結晶をいくつか配置して、モンスターを倒すと持って帰る事が出来るようにした。
ついでに採掘が出来るかどうか試掘をしてみた。
すると、設定どおりレア鉱石が出てきた。
「鉱石も掘れるようですし、ダンジョンは問題なしですね」
「そうだね、これでモンスターを配置しても問題ないしだ。さて地上に戻ろうか」
「はい!」
「ピキッ」
どこからともなくひびが入る音した。
「ユビーさん危ない!」
シルちゃんが急に俺の手を引っ張った。
「ガラガラザー」
という音と共に天井の岩が一部落ちてきた。
シルちゃんが引っ張ってくれなかったら、危ないところだった。
「助かったよシルちゃん、俺また鉱山で逝くところだった」
マジで助かった。やはり俺は運がない。
いや、助かったからそうでもないか。シルちゃんがいれば大丈夫なのかもしれないな。
◇ ◇ ◇
鉱山の視察を終えた俺達は、外に出てきた。
シルの姿を見たアランデール近寄ってきてスリスリしていた。
ほんとこのラマはシルが好きなんだな、俺にはあまりなつかないけどな。
「それじゃシルちゃん、松明と送風機を追加するね」
「それで問題ないと思います」
「名前もシンプルにバイオス鉱山にするよ」
「オッケーです」
最後シルちゃんに《Okay》を押してもらったので鉱山は無事完成しました。
◆バイオス鉱山◆
階層:地下5層
鉱夫:50名
モンスター:5種類
ステータス:テスト中
◇ ◇ ◇
鉱山から町へ戻る道中、昨夜作っておいたバイオスのNPCを仮配置した。
人口150名のうち主要なポジションと個人的に好みの者は自作で、あとはNPCの自宅や職種にリンクだけさせておいて自動作成にした。
噴水広場に着く頃には配置を終えていた。
シルちゃんに確認してもらったあと《Okay》を押すと、半透明の幽霊みたいだった人たちが実体化した。
そして俺達はデバック作業に入る。
「それじゃスタートするよ」
「お願いします」
俺が《テスト》を押すと止まっていた人たちが動き出した。
少し人口多すぎたかな…。田舎にしては賑わっている。
シルちゃんとはぐれると困るので、彼女はアランデールに乗ってもらった。
広場を一周してみるが特に不具合は無さそうだった。
次に冒険者ギルドに行ってみる。ラマは入口でお留守番。
ここの受け付けは俺がデザインしたエルフ娘だ。
なんかリアルに動くのを見ると嬉しくなってしまう。
クエストも正常に表示されていた。ノースブリッジ同様壺も配置したので、持ち上げて割ろうとすると声を掛けられた。
「お前それ持ち上げて割る気じゃないだろうな?」
振り向くとマッチョなおっさんが睨みつけてきた。
「まさか、こうやって運動してるだけですよ」
「ならいいが、割ったらぶん殴るからな」
「そんな事しませんってば」
俺はすぐに壺を下ろした。
ちなみにシルちゃんはタブレットを持って建物外に避難していた。
ルイーダの事もあったから仕方ないか…
「大丈夫でしたか、ユビーさん。あなたは無茶し過ぎです」
「つい、いろいろ試したくなってね」
壺割はまた後日にしよう。というか、偶然割れる事はあっても故意にやる奴はまずいないだろうな。
意外と秘密クエストっぽくていいかも知れない。
「次はシルちゃんどこに行ってみよう?」
「そうですね、ケーキ屋さんに行きましょう」
「いいね、ついでにちょっと休憩しよう」
俺達はギルドホールを出ると広場をぬけてケーキ屋へ向かった。
が、本日休業の張り紙があった。
理由は、本日分の材料が入ってきてないという事だった。
俺は人目につかないようにタブレットを出して理由を調べてみた。
どうやら、このお店の取引先の一部に、ノースブリッジの農家があった。
ノースブリッジエリアは稼働させていないので、材料が届いていないという事になる。
「残念ですねユビーさん」
「ノースブリッジはまだNPCの配置が終わってないからな。稼働させたところで急に材料が届くわけじゃないから、数日お預けかもなぁ」
「むーーーーー」
「明日家で作るとか?」
「あ!賛成です。もうすぐ夕方になりますし、確認を終えたら帰りましょう」
俺達は残りのポイントを確認すると町外れの茂みから転送コマンドで家に戻った。
◆バイオスの町◆
人口:150人
産業:畜産・鉱山・林業・農業
ステータス:テスト稼働中
◇ ◇ ◇
家につくと、シルちゃんは夕飯の準備、俺は先に風呂に入らせてもらった。
「ざぶ~ん」と風呂に入ると手で鼻をつまみ潜った。
耳からは湯中の独特な音が入って来る。
こうすると目の疲れがとれる気がして…。
タブレットで目を酷使してるから、こうした民間療法的ケア必要だ。
風呂を出るとお鍋がセットされていた。
今日はキムチ鍋だ。
この時期、といっても何月なのかわからないが、朝夕は冷える。
「シルちゃん、今って何月?」
「全く気にしていませんでした、あとでタブレットで確認しましょう」
2人で恒例の「いただきます」してから、俺はうす揚げに手を伸ばし白菜と豚肉も確保した。
これと白ご飯を一緒に食べると美味しいんだよね。
しかしシルちゃんは違っていて、白菜、菊菜など葉物から行っている。
まだ育ち盛なんだから、キムチとご飯とか豪快に行けばいいのに…。
「ご飯終わったらさ、ノースブリッジのNPCを配置してテストするから、確認だけお願いね」
「わかりました」
「明日の午前中は王都のデザインするから、出かけるのは昼からにしよう」
「なるほど、今夜中に城のデザイン決めておきますね」
たぶん、習志野の臨海部にある、アノ城になるんだろうな…。
「城は任せたよ」
堅牢な城は諦めて、せめて城壁だけはしっかり作るとするかな。
この世界に来た冒険者がびっくりするような王都にしたいな。
予定している初期エリアは王都以外に3つしか町が無い。
国土が狭いのに王都だけ異様に大きいというのは避けたいところであった。
もう一つ、町とエリアを拡大しておくかな。
シルちゃんにも話しておこう。
「なるほど、確かにそうですよね。周辺は貧相なのに王都は豪華。国民が蜂起しそうで怖いです」
「シルちゃんよく分てるじゃん。王都が豪華だとその分資源を使うから、国土の資源が枯渇すればみんな不幸になるからね」
まぁそれまでに、隣接するエリアに国を作りオープンさせるけどね。
「最後の〆に中華麺入れますね」
「待ってました!」
「天界生協で売ってる麺の中でも高い方なので美味しいと思います」
シルちゃんは先に軽く茹でてあった麺を入れるとほぐし始めた。
キムチ鍋のグランドフィナーレはやはりコレだ。俺的にはだけどね。
うどんを入れるとこもあるのかな?
「さぁできましたよ」
「いただきます」たまらん、いろんな味が染み込んで最高や!
◇ ◇ ◇
食後、俺はタブレットを立上げ、ノースブリッジにNPCを配置しシルちゃんに確認してもらった。
その後テストをスタートさせた。
◆ノースブリッジの町◆
人口:50人
産業:畜産・林業・農業
ステータス:テスト稼働中
これで、2つの町と鉱山が現在テスト稼働していることになる。
明日現地をチェックして問題があれば修正するだけ。
そのあとシルちゃんが城のデザインを持ってきたが、予想通りの城でした。
◇ ◇ ◇
深夜、ユビー達が寝静まった頃、ノースブリッジでは…。
「おい聞いたか?北の山が削れて幅の広い道が出来てるそうだぞ。悪魔が住んでいるのかも知れん、バイオスへ早馬を出すんだ」