4話、現世、そこはやっと町ができた世界、そして酒場にルイーダがいた。
トントントントンアレの2トン、懐かしいな小型トラックのCM。
今でも洗脳されてるな、俺。
目を覚ますと「トントントン」まな板の上で何かが刻まれている音がした。
この音でアレを思い出してしまったのか…。
【現世】は、俺が昔いた世界の物やサービスで溢れてるため、すぐに記憶を掘り起こせるようになった俺。すごいでしょ。
今朝のごはんはなんだろう。
ボケーっと天井を眺めていた俺は違和感を覚えた。
アレ?静音ファン変わってね?色が違うし、LED付いてるじゃん。
枠にはOWL-FY1225L2という刻印があった。
型番?OWLって事はあのメーカーか。
「おはようございますユビーさん」
今朝は割ぽう着姿のシルちゃんが挨拶してきた。
「おはよシルちゃん、天井のファンかわった?」
「はい、朝起きたら壊れてたので電気屋さんに交換してもらいました」
「天界の電気屋さん?」
「そうですよ、タブレット使えるようになったので注文も簡単です」
「それは便利だね」
「以前は固定電話を使っていたのですが、交換手を経由しないといけないので、面倒だったのです」
いつの時代の回線だ…
「タブレットで注文するとゴールドポイントが通常より1%アップなのでお得なんですよ」
あー、駅前のアノお店ね。マルチ天界、何に売ってるんだろう?
「ごはん出来ましたよ。今朝は焼き鮭です」
輝きのある白米、味噌汁、シャケに納豆(におい控えめ)まであるよ!
「いただきます」
と2人で言ってから、俺は納豆に手をつけた。
シルちゃんはシャケからのようだ。
「シルちゃん、今日は町を作ろうと思うんだ」
「ついに町ですか!大きなお城に素敵な王子様を置きたいです」
「俺は小さな町に田舎娘を置きたいのだが…」
今まで幾多の異世界を旅してきた俺としては、田舎町からスタートして、酒場で情報収集してから冒険に出るのが好きだ。
何度か大きな町からスタートした事もあったが、右も左もわからず、その世界の仕組みも分からない状態だったので、キョロキョロしてたら不審者と思われ連行されたこともあった。
悲惨だったのは世界に降り立った時、運悪く魔王軍が王都を攻撃してる場面に遭遇し、魔術師が放った攻撃魔法が俺にヒットし即死した。
その時の事を一行にまとめると、目覚めたら、魔法喰らって目の前真っ暗、転生ルームに戻ると女神プレスコットが腹を抱えて笑っていた。そんな感じだ。
しかし、あの野郎…。いつかきっと…。
俺の体験談をシルちゃんに話す。
「わかりました。最初は小さな町にしましょう」
「王子様のいる王都は、町を3つ作ってから配置しようぜ」
「はい!」
そんな話をしているうちに朝ごはんを食べ終えた。
「ご馳走様でした」
2人で言った後、シルちゃんは洗い物や日課の清掃を始めた。
「キーーン」という独特の高音がするアノ掃除機を使うシルちゃんのとなりで、俺は寝転がってタブレットを眺めていた。
建築アプリ『オルダウッド』を起動し、操作方法を見てみる。
このアプリは地形作成とは違って、1キロ四方から10キロまで、1キロ単位で町の広さが調節できる。
という事は、王都を作るとしたら最大で10キロ四方という事に、いや?
2つくっつければ2倍の広さもいけるし、その気になれば世界の半分を王都にできる。地下にダンジョンを併設するのも面白そうだ。
町と直結してるから、ダンジョンに出会いを求める冒険者で賑わうだろう。
と、つまらない事を考えていると。
「ユビーさん、そこ掃除しますのでどいてください」
シルちゃんに怒られた。
俺は仕方なく日曜日床に転がってるお父さんのように、コロコロと横に3回転しその場を明け渡した。
しかしうるせー掃除機だな。吸引力はいいんだけどね。
さて、町づくりに戻ろう。
『オルダウッド』は、1キロ四方内なら任意の形で町の形を決めることが出来る。
◆――――――――◆ ■…畑
| ■ | □…市街地
| ■■ ■ | |…町の境界線
| □ ■ | 無印…草地や木|
|□□□ ■■ |
|■■ |
|■ ■□□ □ |
|■□■■□ □□ |
|□□□■□ □ |
◆――――――――◆
これは極端な例だが、落ちてくるブロックを組み合わせるゲームのような町も作れる。
以前も紹介したけど1マスは100mで、その中を細かく設定する事も出来る。
とりあえず俺はシンプルな町をデザインし始めた。
初めて世界に降り立った冒険者の視点イメージする。
スタートは酒場の中、作りは中世のイメージにしておくかな。
そして、某宇宙船(NCCって書いてるやつね)内の転送ルームのように、キラキラと輝きながらクリンゴンではなく冒険者が現れる。
突然現れた新参者に対して声を掛けてくるのは、男性ならエルフ。いや、いきなりエルフを出すのは勿体ない。
ここは普通に酒場の看板ガールにしておこう。
女性の場合は、ちょい悪オヤジ風のマスターかイケメンバーテンが対応する。
そして、酒を飲みながら。
「あーら、お兄さん素敵ね、この世界は初めてかしら?私の名はルイーダよ」
やっぱ酒場と言えばこの人しかない! *メモ*
そしてこの世界の仕組みを優しく教えてあげる。
「ギルドに言って冒険者登録をするといいわ」
と聞いて酒場を出る。
ここで俺は再び現実世界へ引き戻された。
「ユビーさん、そこ掃除しますのでどいてください」
俺は3回転逆方向に転がった。
酒場を出たら…、うーん、目の前は雑貨屋でも置いておくか。
右を向けば銀行が見えて、ギルドは左にしよう。
左に曲がった冒険者。直進すると左右に魔法屋、鍛冶屋、田舎だから武器防具を一緒に売ってるちっこい店、あとは厩舎だな。
ん?、何か足りない。
ゲームなら蘇生するアンクだが、この世界は死んだらルーム行きだから、教会にするかな。美人のシスターを配置しておこう *メモ*
NPCはあとで、違うアプリでまとめて作るので、いまはタグを出してメモのみしている。
そしてギルドの建物は、最初の町だしシンプルな木造2階建てにしよう。
1階は受け付けにして、ここは胸がふくよかなエルフを配置。*メモ*
そしてクエストの掲示板はここに置くと。
もう一工夫…。そして伝説へ…で有名なあのゲームみたいに、壺を置いて割れるようにしよう。
おや?中に入れるアイテムの指定もできるな。
秘密クエストをここで発生させるのも面白そうだな。
内容は……というか、ここの壺だけいつもイベント発生っておかしいよな?
町中に破壊できる木箱と壺を置いて、ランダムに現れるようにしよう。
ランダム…。 秘密クエストも偏りがあるのだろうか…?
お約束ですが、《Okay》を押してみよう。
恋文、密書、脱税、恋文、恋文、猫耳、恋文、恋文、手配書、手記、遺書、恋文
やはり偏りがあるな…。恋文みてどうしろっていうんだよ。
ん?猫耳ってなんだ?
気になった俺は内容を見てみた。
秘密クエスト《猫耳》
これはランダムに発生するレアクエストで、クリアすると猫耳が貰えます。
効果:装着すると異性を高確率で口説き落とすことが出来ます。
レア度:★★★★☆
なるほどチートアイテムか、稼働させたら真っ先にクエストをクリアしよう。
「ユビーさん、そろそろ寝間着を替えてください」
「はーい」
俺は町の設定を保存すると、タブレットをスリープさせた。
今日俺に用意されていたのは、フード付きのローブだった。
フードを被ると怪しい奴だなコレ、シルちゃんと歩いたら確実に通報されるね。
着替えも終わったし町を配置しにいこう。
っと、その前にデザインを見てもらおう。
「シルちゃん、最初の町をデザインしたから見てくれないかな?」
「はい、ゴロゴロしてる間に作ったのですね。さすがユビーさんです」
シルちゃんの笑顔がたまらない。
「町の配置はこれで問題ないと思いますが、女性のNPCが多いですね」
「だって、女性が多い方がウケがいいもん」
「冒険者の方が女性の場合は?」
「大丈夫、イケメンもちゃんと配置しするし、防具屋は男性を2人配置して、その筋の方が心行くまで妄想できるようにしておくから」
ちょっと不安な表情をするシルちゃん
「シルちゃんだったらどんなNPCを置くの?王子様はダメだよ」
ぷーっと顔を膨らますシルちゃん
「やっぱりかっこいいお兄さとか、優しそうなお父さんを置きます」
それはそれで需要はあるかも知れないが…
その2人を置くとしたら、厩舎にしておくか。*メモ*
「シルちゃんの言っていた2人は、厩舎に配置するよ」
「本当ですか?父子2人で厩舎をやってるって素敵ですね」
ごめんねシルちゃん、ちょっとだけ意味合いが違うんだ。その筋の人向けだからね。
◇ ◇ ◇
出発の準備が出来た俺達はLGA775を後にした。
彼女はペットのラマ、アランデールに騎乗している。
「今日も晴天だー」
「確かにいい天気ですよね。今日はサンドイッチ作って来たのでお昼に食べましょう」
「ありがとうシルちゃん」マジ天使。
俺達は昨日完成した、ちょこっとラマの多い森を抜けると草原に出た。
待てよ、ここに町を配置したらシルちゃんの家と町が近すぎる。
あれは冒険者に見つかるとまずい気がする。
俺はシルちゃんに懸念を伝えた。
「それはダメです。ユビーさんは特殊な例なのでいいとして、通常冒険者さんが女神の家を見たり、入る事は禁じられているので、家を隠す必要があります」
やはりそうか、となると山を配置して隠すか。
俺は地形作成アプリを起動し、断崖絶壁の山を作り地図アプリ上に仮配置してみた。
シル家周辺の森の外周を山で囲んだ感じ、それをシルちゃんに見てもらった。
「家からの眺めが悪くなりますが仕方ありませんね」
「他世界の女神の家ってどうしてるの?」
「人口の増加に合わせ辺境へ移動し、最後は地下に潜るパターンが多いですね」
「地下はパスしたいな」
俺は暗いところが苦手なのでマジ勘弁。
今回100回目の転生だから、今まで99回死を経験してる。
死ぬときって視界が暗くなってくので、どうも苦手なんだよね…。
ユニークスキル、キーピングメモリーの副作用ってやつ。
「あと、これは上手だなと思ったのが、女神自身がその世界で崇められる存在となって、それを祀る巨大施設を作り、中心部に家を配置するんです。そこは神聖な場所だから一般人立入禁止にしてましたね」
「その手もあるか!」
「もう一つ凄いのは、女神の家の同じテクノロジーを持つ文明を作り、街中に普通に住んでる女神もいますね、女神カスケイズがそうですね。ただこれは上級女神じゃないと維持が困難です」
「なるほど、だから転生リストを見た時、
【異世界】カスケイズ(Tポイント進呈中!)となってたわけか」
どうやってポイントを配布するのか、疑問に思ってたのが解決した。
さて、【現世】はどうしようかな…。とりあえずは辺境に移動しつつ、シダーミル教(仮)を作くろうかな。
町に設置する教会で崇められるのはシルちゃんにしておこう。
これは後で話すとして…。
「それじゃシルちゃん、町を配置する場所まで移動しよう」
「わかりました。山もその時ですね?」
「そうしよう」
俺は移動しながら、地形アプリで周辺の草原に木を配置したり、丘を作ったりしながら移動した。
結局シルちゃんの家から10キロ離れた場所に町を置くことにした。
山の幅は3キロにした。
文字数を稼ぐために平面図を書くとこんな感じ。
■□□□◇◇■■■◇◇■
町 草原 森 山 森 家
「それじゃ町を配置しますよ」
「よろしくシルちゃん」
《Okay》を押すと、お馴染みの「ポン」という効果音と煙と共に町が現れた。
「すげー町が出来た!」
「ユビーさんが来て3日目で町ができるなんて…」
シルちゃんは今日も涙ぐんでいた。
俺も少し感動した。
気づいたらお互い抱き合って喜んでた。
「じゃ早速酒場へ行こう」
「行きましょう」
俺は酒場に移動する道中で、NPCメーカー『フォスタ』を起動し、先にデザインしておいたNPCを仮配置した。
「ここが酒場だ。それっぽいだろう?」
「そうですね、わくわくします」
2人が店内に入ると、ちょい悪マスター、イケメンバーテン、ルイーダが半透明になった状態で立っていた。
「シルちゃん、《Okay》押してくれるかな?」
「わかりました」
すると半透明だったNPCが実体化した。
そして、正常に動作するかテストしてみる。
「あーら、いらっしゃい。お2人かしら?」
ルイーダが俺の目を見て語り掛けてきた。
酒場のテストは成功だ。
ゆっくりではあるが世界作りは前進した。
ぶっちゃけ、このペースじゃ間に合わないんだけどね!
最後までお読みくださいましてありがとうございます。
3/29 読みやすくするため、文章に少し手を加えました。