3話、現世、そこはやっと森ができた世界、そして女神達はC言語を使っていた。
「ユビーさん、森も出来ましたしお昼ご飯にしませんか?」
「シルちゃん何か持ってきてるの?」
「はい、朝ユビーさんと一緒に食べようと思って、おにぎりを作ってきました」
なんて優しい俺の嫁!
俺はラマに乗ったシルちゃんと一緒に、出来たばかりの森を抜け草原に出た。
ラマから下りた彼女は、リュックからお弁当とクマの柄が入ったレジャーシートを取り出して敷き始めた。
お弁当箱を開けると、4つのおにぎりと玉子焼き、タコさんウインナーがあった。
ラマは適当に草をむさぼっている。
「これが梅で、順番にカツオ、シャケ、たらこです。お好きなのをどうぞ」
「それじゃ、カツオ、たらこを頂こうかな」
空に雲はひとつも無く、日差しも穏やか、横には森があるがそれ以外は草原が広がっている。
俺とシルちゃんは2人きりの世界を楽しんでいた。
カツオを食べながら、いくつか疑問があったので聞いてみた。
「シルちゃん、転生ルームにあった端末では、この世界の所に【現世】って書いてたんだけど、なんでそいうネーミングなの?」
「あ、それはですね私が緻密に計算して出した名前でして、他の多くの世界は【異世界】って書いてるじゃないですか、だから【現世】って書けば冒険者さんが釣れるかと思いまして…」
それは俺です。10歳児に釣られました。
「でも誰も来てくれないので、失敗したなと今では反省しております」
シルちゃん的に失敗したネーミングに俺は釣られたのか…。
「でも、こうしてユビーさんと出会う事が出来たので、今では感謝してます」
ありがとう。シルちゃん。俺との出会いを大切に思ってくれて…。
そう言えば、あえてスルーしたのが【極楽浄土】だ。
「シルちゃん【極楽浄土】って世界もあったんだけど、どんなところか知ってる?」
「知ってますよ、私と下位争いをした女神アランデールの世界です。タブレットも使いこなせるようになったし、今夜連絡を取ってみようかな…」
まだシルちゃんはタブレット使いこなせてないけどね、スリープとか理解できてない。
彼女によると、俺が前にいた【異世界ノースウッド】は、女神ノースウッドが創造した世界という事らしい。
世界のネーミングは【天国】と【地獄】は使用禁止。
一定の人口がある世界は、規制があるらしく、それさえ守れば自由につけることが出来るらしい。
現在は【異世界】+ 女神の名前+一言、といったシンプルなタイプが流行だけど異世界という言葉が飽きられてきてるので、純粋なファンタジーをアピールする世界が徐々に増えているそうだ。
ちなみに、規制が入る前のネーミングは…
【異世界の妻たち】とか
【イケメンに囲まれる異世界】とか
【イイネ!エロフしかいない異世界☆彡】とか
【収入保障!引きこもり専用の異世界です】とか
【この壺を買えばあなたは異世界の教祖です】とか
【あなたは今日からネコしかいない異世界の勇者です】とか
【異世界に転生したら、チートで強くなってモテて成功した件】とか
ネーミングと実世界が乖離し過ぎて、詐欺状態の世界が続出。
更に、放送コードぎりぎりのピンクネーミングまで出現し、転生する冒険者から苦情が寄せられたため、規制をかけたらしい。
まぁ規制されて当然だよな。ネコの世界に行ってモフモフされたいのに、実際行ってみたら、おっさんにモフモフされるんだろ?詐欺じゃん。
【異世界】プレスラで似たような事を経験済み。
「それと同時に導入されたのがですね…」
シルちゃんの説明が続く。
規制と同時に転生後1時間以内なら、転生ルームに戻れる安心サポートも導入されたようだ。
ただしこれは5世界まで。
俺はこのサポートの制度を女神プレスコットに一度も説明されたことが無い。
あの野郎……。
という事で、シルちゃんの【現世】は、人気がないので規制の対象外。
アランデールの【極楽浄土】ってのも、たぶん人気が無いって事なんだろうな。
「その子とは仲が良かったの?」
「そうですね、結構いたずらされましたけど、私と話をしてくれる数少ない子ですね」
シルちゃん学校生活も大変だったのかな、そっとしておこう。
お弁当を食べ終えると、シルはリュックから動物の印で有名な魔法瓶を取り出してお茶を入れてくれた。
空を見上げると、太陽が少し西へ動いていた。
夕方まで、森を作るために作業を再開する事にした。
森づくりをマスターしたシルは順調に森を増やしていった。
動物のランダム配置はラマばかり出てくるので、時間をかけて多種類配置した。
夕方になる頃には、家を中心とした20キロ四方の森がほぼ完成し、本日最後の森のOkayをタップした時、事件が起きた。
なかなか森が現れなかったのである。
おかしいと思ってタブレット再確認すると、《Okay》ボタンの下で〇印が回転しWait・・・と表示されていた。
回線でも混み合ってるのだろうか?と思った俺は、画面の隅っこをみると電波マークが0本になっていた。
俺は全く気にしてなかったのだが、この世界の通信環境ってどうなってるのだろう?
シルちゃんに聞いてみた。
「シルちゃん、この世界の通信環境ってどうなってるの?どこかに基地局でもあるの?」
「確か、上空に小さな基地局があるそうなのですけど、あまり詳しく分からないのです」
なるほど、上空にあるのね。
試しに1マス分移動すると、アンテナが1本だけ現れ3Gと表示された。
どこのキャリアなのか調べてみると、白い犬のとこだった。
あのメーカーどうやって天界に進出したんだ?
とりあえず、この付近は電波状況が弱いので、町を配置するのは避けておこう。
そんな事を考えていたら、目の前に森が現れたので、今日のお仕事はおわり。
シルちゃんの家に戻って、タブレットを確認するとアンテナ3本4Gだった。
そうだ、家に入る前にラマの小屋を作らないと!
「シルちゃん、ラマの小屋を作ってあげよう」
「はい、それは大賛成です。私が作るので操作方法をお願いします」
建築アプリをタップし、《カスタムモード》を選ぶところまで教えたら、シルちゃんは丸太を選択しラマの小屋を作り始めた。
「このラマにさ、名前つけてあげようよ」
「それはいい案ですね。何がいいかな?」
腕を組み悩み始めるシルちゃん、俺がタブレットを覗き込んでみると、小屋はほぼ完成していた。随分と成長したなー、まだ2日目だよ?
「決めました、アランデールにします」
「え?それって【極楽浄土】の?」
「そうですね、なんとなく似てましたからね」
おい、アランデールってどんな顔なんだよ、見てみたい。
シルちゃんは《Okay》を押したようで、目の前にアランデールの小屋が現れた。
「さぁ、お前は今日からアランデールです、中に入りなさい」
ラマは少し頷き、小屋に入って行った。
どうやらご主人様と理解したようだ。
「シルちゃん冷えてきたし、中に入ろう」
空を見ると太陽はすでに沈み、東の空には星が見え始めていた。
中に入ると、シルちゃんは夕飯の支度にとりかかった。
俺は洗濯機の中にあった衣類を取り出して折りたたむ。
するとシルちゃんから、先に風呂に入るよう促された。
「ざぶ~ん」と風呂に入ると手で顔を軽くこすり、リラックスモードに入る。
ちなみに俺は先に湯船に浸かる派ですから!
働いたあとの風呂はたまらんねー。
肉体労働はしてないけどね。
くつろいでいると、懐かしい感じのいい匂いが漂ってきた。
わーい、俺の大好物カレーだ!
食べるのはいつ振りだろうか?
さて体でも洗うかな?
野郎がどこから洗うとか、知りたくも無いだろうからここは割愛。
すっきりした俺が浴室からでると、いつの間にやら着替えが置かれていた。
どうやら、俺が頭を洗っている間を狙って、こっそりやっているようだ。
本当に気の利く子だなー。
そして、脱衣所をでると例のテールの上にカレーが並んでいた。
隣には、コールスローとらっきょ、福神漬けまであった。
素晴らしきかな現世。
ちらっとキッチンをみると、空っぽになったカレーのパッケージが見えた。
これは確か百貨店の地下売り場でしか見れない、ちょいとお高い冷凍カレーじゃないか。
確かスープカレーも売ってたんだよな。
「いただきます」
2人で合唱したあと、スプーンを手に持ったおれはカレーをかきこんだ。
思わず「シルちゃん、今日も美味しいよ」と言ってしまった。
「いや、それは私じゃなくてカレーを作ってる会社が凄いのです」
まぁ確かにそうなのかも知れないけど…
そこは「てへ、美味しいって言ってくれると私もうれしいわ、ア・ナ・タ」とか言ってくれると嬉しいんだけどね。
シルの方を見ると、コールスローを食べていた。
彼女はどうやら、先に野菜系から食べる派のようだった。
そういや、生卵をかけても美味しかったよな。あるのかな?
「シルちゃん、生卵あるかな?」
「ありますよ。ちょっと待ってくださいね」
あ、俺が取りに行けば良かったかな…。悪い事しちゃったな。
シルは立ち上がると冷蔵庫へ向かい、卵を取り出し器に入れ持ってきた。
「お待たせしました」
「サンキュー!お、なんか高そうな卵だね」
「天界の生協でしか売っていない限定品らしいですよ」
まじか!生協あるんか!
俺は器の角で卵を割り、カレーの上にかけた。プルンとした色の濃い黄身が出てきた。
「すげー、俺いろいろな異世界行ったけど、こんなの滅多にお目にかかれないよ」
「私もお気に入りです、玉子焼きもこれ使ってるんですよ」
「どうりで美味しいわけだ」
あ、でもあのふんわりとしたのはシルちゃんの腕前がいいからだな。
それからスプーンをカレーから口まで5往復させると皿が空になってしまった。
シルちゃんが気を利かせて、ごはん大盛りにしてくれてたので満腹だ。
「美味しかった。ご馳走様」
「お粗末様でした」
食後、俺は昨日のようにテーブルの清掃をしてから、タブレットのヘルプを見ながらゴロゴロしていた。
これ、ブルーでSのマークがついたアレが入ってるんだな。
確かチャットと音声会話が出来たはずだ。
シルちゃんは、食器を洗ったり、ゴミを分別している。
ゴミってどこに捨てるんだろう…
まぁいいや、アプリを起動しみよう。
お友達の一覧が非常に寂しい。
宿敵プレスコットの名もあった。
そのうちウイルスを開発して送りつけてやる。
その下には件のアランデールの名があった。
ちょこっと開いてみてみる。
すると彼女からメッセージが来た。
#include <Cedar Mill.h>
int main(void)
{
printf("あーら\n");
printf("出来損ないのシダーミルじゃない\生きてたの?\n");
return 0;
}
#include <Allendale.h>
struct student {
int password; /* Please input the your password */
int["|"]
};
int main(void)
{
printf(""); /* Please input the chat */
return 0;
}
何コレ?どうやって返事するんだ??
int["|"] が点滅してるから、ここにメッセージ入れればいいのかな?
でもパスワード要求されてるな…。
「シルちゃん、なんかアランデールからメッセージが来たんだけど」
ゴミの分別をしていたシルは手を止め、こちらにやってきた。
「ユビーさん、画面にキーボード表示してもらえますか?」
俺はキーボードを表示させ、シルちゃんに手渡した。
どうせ、キーの位置とか文字の変換とか分からないだろうから、教えようと思っていたら、シルちゃんはブラインドタッチを始めた。
俺よりタッチが早いぜ!
#include <Allendale.h>
struct student {
int password; /* true */
int["****"]
};
int main(void)
{
printf("お久しぶり\元気だった?\n"); /* Please input the chat */
printf("私は\生きています?\n");
return 0;
}
タブレットの操作は分からなかったけど、せめてキーボードだけは使えるようにしようと思ったらしく、紙にキー書いてモックを作り練習をしていたらしい。
すごいよシルちゃん!
天界ではタブレットの普及に伴て女神同士がチャットで会話する機会が増えたらしいのだが、そこで使われているのはC言語…。
一例を紹介すると printf("お久しぶり\元気だった?\n");
printfの位置は、自分の感情や気分を入れるところらしい。
strcpyは機嫌が良い
printfは普通
structは機嫌が悪い時に使う。
こちらから printf("こんにちは\n") といって。
返事が struct ("こんにちは\n") の場合。
これは機嫌が悪いという事になるので、雑談は控え用件だけを相手に伝えれば誤解を生むリスクを回避できる。
顔を見合わせて話すのと違って、チャットは相手の表情や雰囲気が分からないので、こういった使い方をしているらしい。
因みにint main(void)にも意味があるそうだが、面倒なので聞かなかった。
「ユビーさんすいません。ついつい話し込んじゃいました」
「アランデールのところは熱狂的な信者が100人もいるんだね」
「うー、私も負けてられません。明日も地形づくり頑張りましょう!」
「おーっ!」
二人で気合を入れたところで本日は終了。
明日は森を広げつつ町も作るかな。
それじゃおやすみ、俺!
3/29 読みやすくするために、文章に若干手を加えました。