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34話、今夜のご飯はオムライス

 戻った俺達は、ラマのアランデールを小屋に入れてから家に入った。

 この家に帰って来たのは数日ぶり。

 中に入るとシルちゃんはキッチンに向かい冷蔵庫をあけ、つぶやき始めた。


「賞味期限過ぎてるな…」


 賞味期限が過ぎたから直ちに食べれなくなるわけじゃない。卵なんて1ヵ月くらい大丈夫なんて話もあるくらいだ。


「みなさん、お夕飯ですが卵を使い切りたいので、オムライスでもいいですか?」


 待ってましたオムライス!

 シルちゃんの作るそれは玉子がふんわりしてて、とても美味しいのだ。


「もちろんいいよ」「私も構わん」「ママダイスキ!」


 俺とニアはオムライスが好物なので大歓迎だ。

 ライムのダイスキは、食べ物ではなくシルのことを大好きと言ってる可能性がある。


「オムライスとはどのような食べ物ですか?」


 イムはオムライスを食べるのが初めてなので、どういったものなのか気になるようだ。

 俺は作り方を説明してあげた。


 最初はチキンライス作り。鶏肉などの具材を炒めてからトマトケチャップを加え具材に絡める。

 それからご飯を入れて全体に混ぜる。ここでうまくやらないとべちゃっとした感じになるので要注意。


 次に卵。

 これは牛乳を少し加えてもいい。フライパンに油とバターを入れて、弱~中火で熱を加える。

 バターが溶け切り、プライパンが十分に温まったら卵を流し込む。手早くかき混ぜながら半熟状になったら火を止める。

 あとは卵の真ん中に楕円形になるようにチキンライスをおき、手前の卵を被せる。

 お皿に乗せたあとケチャップをかけたら完成だ。


「すごく美味しそうじゃないですか。イムも作りたいです!」


 イムは視線をシルに移した。


「シルさん!イムも一緒に作ります」

「はーい、じゃこっちにおいで」


 シルとイムは冷蔵庫から具材を取り出し調理を始めた。


 俺は料理ができるまで床に寝そべって待つことにした。タブレットで未完成エリアの地形でも作ろうかと思ったのだが、思っている以上に目が疲れていたのでやめた。

 疲れを癒すため天井の静音ファンをぼーっと眺める。


 ニアはパソコンでプログラミングでもしているのか、キーを高速タッチする音が聞こえてきた。

 

「イムさん、冷蔵庫の下段に冷凍してるご飯があるので取ってください」

「わかりましたー」


 2人の調理も順調そうだ。天井を見ていると疲れのせいか、眠気を催してきたので瞼を閉じる。

 それだけでは照明の光を完全にカットできないので、少し明るい感じはするが、それでも何かに吸い込まれていく感じで眠りにおちてゆく。

 意識が完全になくなる直前、俺の唇に何かが触れ吸い取ってる感触が伝わってきた。


 これはなんだろうか?って、待て、こんなことするのはアイツしかいない。ライムだ。

 俺はスリープモードを解除し、急いで瞼を開けると予想通りライムの顔がドアップで見えた。


 ぶちゅーっとライムは俺にキスしていた。

 俺は両腕に力を入れてライムを引き離した。 


「こらやめろライム!」

「ユビダイスキ!」


 ライムはとても満足した表情をしている。マズイ、これは手遅れかも知れない。

 明日の朝、第二子の顔を見る確率はかなり高いだろう。なんてこった…。


 名前は何にしようか?この前考えた気がするが、ライムからイを取ればラムになる。

 大昔のアニメで聞いたような名だが思い出せない。なんとなく電撃系の攻撃が得意な子になるような気がする…。


 俺はキッチンの2人に視線を移したが、料理に集中しているせいか、ライムとの行為には気づいてないようだ。

 次にニアに視線を移すと、目が合った。そしてニコニコしている。


「ニア、見てたのか?」

「観察させてもらった。ライムがどうやって子を作るのか興味があったからな」


 ニアの笑みが深まる。


「そうか、それで成果はあったのか?」

「ユビーにぶちゅーっとディープキスした時、口元から少し光が見えたんだ。まるでサキュバスがエナジードレインを使っている感じだったな」

「俺の細胞と一緒に精気も吸い取られてるの?」

「そういう事だな」


 ライム、お前はなんて恐ろしい子なんだ。寝ている間に精気を吸い取り、目覚めると転生ルームだったというヲチもあるかも知れない。

 こいつは、サキュバスやリリス、玉藻前といった悪魔や妖怪の類なんだろうか?スライムに化けて俺のもとに近寄るという作戦か?

 考え過ぎかな。でも、前妻(離婚届出してないから本妻かも知れないが…)ルビーの件もあるから、用心するに越したことはない。


「名前はもう考えたのか?」

「ラムだ」


 即答してやった。


「ほう」


 ニアは妖艶な微笑みを浮かべていた。


 ニアめ、他人事だと思いやがって、こいつへの仕返しは褒め称えてやることだが、今はそんな気分じゃない。

 イムにラムか、いや?男の子だったらラムは似合わないな。ヲをつけてラムヲ…、これは安直すぎる。何か無駄に長いシリーズにしよう。

 ミドルネームの追加だ!これは先祖の名前や母方の姓、尊敬する人の名を付けるらしい。地名を入れるのもアリか?

 ラムヲ・ウリワリオリオン・カミクラツクリ・ファン・ユビキタス。どこかの吸血鬼に負けないくらいミドルネームを入れてみた。

 どこの部分が地名なのか、わかる奴はいないだろう。これはイケている。


 ここで、じゅ~っという音とともに、油の香ばしい匂いがキッチンから流れてきた。

 調理は順調に進んでいるようだ。本格的にお腹が空いてきた。


「パパ、もうすぐ出来るからテーブル片づけてください」

「はいよー」


 俺はテーブルの上に置いてあったタブレットを片づけて、布巾でテーブルクロスを拭いた。

 ん?椅子が足りない…。イムが増えたのでユビキタス家は今や5人家族である。


「シルちゃん、椅子が足りないんだけど、どこかにあるの?」


 もし無かったらニアは空気椅子だ。あいつなら筋力もあるし耐えれるに違いない。


「椅子でしたら、電話の隣にある収納ボックスに折りたたみの椅子が入ってますよー」


 そんなのあったっけ?

 この家の電話は、旧世界の物品を再利用しているため、高速道路で見かける緑色ボックスに入った非常電話を固定回線電話として使っている。

 電話の隣を見てみると、どこかで見た事のあるオレンジ色のボックスが確かにあった。


 蓋をあけてみると、折りたたみの椅子が4脚と、同じく折りたたみの机が入っていた。

 お客さんが来た時は、これを使うことになるので場所を覚えておこう。椅子を取り出すのに蓋が邪魔だったので、開けきって固定しようとしたら、裏にシールが貼ってあった。


『凍結防止剤収納ボックス ご自由にお使いください 国土交通省 』


 あぁ、どこかで見たことあるなと思ったら、冬場になると道路脇に置いてあるアレだったのか。

 こういう再利用方法もあるんだなーと感心してしまった。


「みなさん、ごはん出来たので席に着いてくださいね」


 シルちゃんがみんなに声をかけた。待ってましたオムライス!

 

 イムの椅子をセットし終えると、テーブル上に5人分のオムライス、コンソメスープとサラダが並べられた。

 ニアと俺にはワインも用意されている。


「いただきます」するとシルちゃん以外はオムライスに手をつけた。


 この玉子のふんわりさが堪らない、ライスやケチャップとも味が絡み合って、お互いを引き立てていた。

 食事中はシルちゃんが対応した1000人の中にいた個性的な人の話で盛り上がり、特に彼女に卑猥なことをしてきた奴らに対しては、ニアが「見つけ次第叩き斬ってやる」と言っていた。

 シルちゃんも笑顔になってるので心のケアは十分行えたと思う。


 食後は順番にお風呂に入った。一番風呂は俺!次にライムとイムのペア、最後はニアとシルのペアだ。

 俺は1人で入っていたのだが、途中でライムとイムが乱入してきたので、結局3人で入浴する事になった。

 湯船に3人は流石に狭くお互いの体が密着している。しかも、俺の前には見た目10歳児程度の子が2人いる。家族みたいなものだから問題はないのだろうけど…。


 俺は長風呂派なので、それから20分くらい浸かっていたのだが、ここでライムに異変が起こった。

 

 体の形状が保てなくなり、突然ジェル状になってしまったのだ。


「おい大丈夫かライム!」

「ユビビビビ…」ぶくぶくぶくと泡を立てながらとけてしまった…。


 マジかよ!


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