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33話、いっきに1000人も転生してきた!

 2人が戦った場所の安全をタブレットで確認した俺達は、再び手を繋ぎ転送移動した。

 到着すると目を覆うばかりの光景が飛び込んできた。

 ニアの周囲2メートルから先は地面がえぐれ、彼女を中心とした1キロ以内はその状態がつづく。

 そしてジャバの姿が見当たらない。


「ユビーすまない。ジャバを消し去ってしまったようだ」


 ニアは渋い表情を浮かべ言った。

 俺は返す言葉が見つからなかったので、無言のまま視線を仲間に向けるとスイフトが手紙を差し出してきた。


「これはジャバからだ。ニアと戦って敗れた場合は渡すように言われている」


 俺は受け取ると手紙を広げ読み下す。

 それによると、ジャバ達は女神プレスコットの勧めでこの世界に転生していたようで、俺達のことも知らされていたようだ。

 ニアと勝負し敗れた場合は転生ルームに戻り、この世界へ冒険者を呼び込む役をするつもりだった。

 もしジャバが勝っていた場合は、ニアのポジションに彼が入り俺達を助けることにしていたようだ。


「事情はわかった。ニア、これはあらかじめ想定していたことなので落ち込むことはないぞ。これを読んでみろ」


 俺は手紙をニアに渡した。


「黙ってて悪かったなユビキタス、ニア。これはジャバの願いだったから話すわけにはいかなかったんだ」

「大丈夫だスイフト。俺達は仲間だろ」


 ちょうどその時、タブレットの呼び出し音が鳴ったので見てみると、プレスコットからビデオチャットのお誘いが来ていた。

 チャットアプリを開くとジャバが映っていた。


「ニア、こっちへ来てみろ」


 ニアが近寄って来たので、一緒に見える位置へ画面を移動させた。


「驚かせてわるかったなニアちゃん、ユビキタス!」

「本当に驚いたぞ」

「ニアちゃんの攻撃半端ないな、俺の放った攻撃が一瞬で無効化されて、気がついた時には転生ルームさ」


 ニアの魔法の破壊力はそこまであったのか…。


「完敗だぜ!ハハハハ。さて、俺はこれからプレスコットと仕事に入る。実はな…」


 ジャバによると【異世界】ウルフデールで人生を終えた伝説の勇者ギロが転生ルームにやってくるらしい。

 彼はプレスコットと協力してギロを俺達の下へ転生させるようだ。

 同時にギロのお供をさせる剣士や騎士も多数送り込むつもりらしい。


 ここでジャバとプレスコットが交代した。


「ユビー、転生ルームが変わったのは聞いたわよね?」

「10日間滞在できるんだろ」

「今ね、タイミングよく乱心した賢者を封じ込めるため、魔族と人が協力して戦っている世界があるのだけど、ここで死者が続出してるのよ」

  

 賢者が乱心ってどうしたんだ。まじめすぎて気が狂っちまったのか?


「シダーミルの世界も設定は似た状態だから説得すれば転生してくると思うわ」


 既に1000人以上ここに転生しているらしい。プレスコットを仲間にして正解だった。


「数日待ってもらえれば4~5万人程度は送れると思うのよ。それからギロと戦う事に…」


 プレスコットはニアに作戦を伝えた。

 ギロ達の軍勢は最終的に5万近くになると予測され、実際に戦う時はギロに的を絞って攻撃し、多くの兵士を残してほしいらしい。

 その後も有名な魔王や魔女、勇者、賢者、覇王に魔法少女といった者たちが人生を終え転生ルームにやってくる予定なので、説得してこちらに転生させるらしい。その時、指揮下の兵士が多い方が話を進めやすいらしい。


「しかも獣神アグナムードβも間もなく転生ルームに来るのよ!彼女は炎攻撃がとても強い。自慢できるくらいね!生命力も際立ってるわ。ここに注目すると素晴らしいわ!わくわくする!」

「ちょっと待て、ひとりでわくわくするな!それが誰なのかわからないが、獣神って中のヒトは神族じゃなくて冒険者なのか?」

「獣神の中身は冒険者よ」


 どうやったらそんなものに転生できるんだ。


「どんどん送り込むから、そっちもうまくやるのよ。またいいカモが見つかったら連絡するわね」


 一方的に話し終えると彼女はビデオチャットを閉じた。

 女神プレスコットは仕事はできるが、性格はかなり悪い。

 

 ニアと話そうとした時、再びビデオチャットの呼び出し音がした。

 今度はアランデールからだ。


「ちょっとユビー!シダーミルをなんとかしなさいよ。多くの冒険者を相手にして心が折れ、私のとこに逃げてきたのよ。変わるわね」

「ユビーさん!」


 画面に涙目のシルが映った。


「一気に1000人とか来たのですが、もう私には無理です。これからはアランデールの召喚獣としてやっていきます。サヨウナラ」

「シルちゃん!待ってー」


 再びアランデールが画面に現れた。


「ユビー、作戦を変更なさい。もうこの子ダメよ。しばらく私が面倒みるけど、あとでこっちに来てケアしてあげなさい」

「ありがとうアランデール! …様」


 ビデオチャットを終えた俺はニアに相談した。

 

「見ての通りだニア、シルちゃんの役をNPCにさせる事はできるかな?」

「もちろん可能だ」


 本人を精密スキャンして、暴走しないように制限を加えれば、女神シダーミルのNPCを作る事ができるらしい。

 

「スイフト、パイソン、これからはノースブリッジで、新規に訪れた冒険者に世界の状況や魔王と戦うために団結するように促す役をお願いしていいかな?」

「おいらに任せておけ、職業は僧侶だから教会でうまくやってみせよう」


 俺はパイソンにアランデール教から派遣されている信者の話をし、彼らと協力するように求めた。

 連絡用のタブレットも購入して渡すことにする。


「シルさん大丈夫ですかね?」


 2人との話を終えたタイミングを見計らって、イムが話しかけてきた。


「今から王都に戻ろう。ニアも来るだろ?」

「もちろんだ」


 俺達はスイフトとパイソンをノースブリッジへ送ってから、王宮の隠し部屋へ転送移動した。

 部屋に入ると俺に気付いたシルが泣きながら抱きついてきた。

 シルと一緒にいたライムは笑顔で「ユビユビ!」といって抱きついてきた。

 

「もう冒険者の相手したくないです…」

「ユビダイスキ」

「わかったからライム」頭を撫でるとライムは満足げな表情になった。


「シルちゃん、何があったんだい?」


 俺は興奮するライムを落ち着かせ、シルに事情を尋ねた。

 それは冒険者の中に、いわゆる幼女好きが混ざっていたようで、鏡越しではあったが卑猥な言動や行動をされて、ピュアなシルは心が折れたのだ。


「ちょっとシダーミルは真面目すぎるのよ、私の様に図太い神経を持つべきね」


 お前はもう少し恥じらいを覚えたほうがいいと思うが…。

 こうなれば、作戦を変更するしかない。


 ノースブリッジはシダーミルのNPCを配置して、スイフトとパイソン、それにアランデール教徒に任せる。

 問題のシルは、アランデールと本気で組むのか?


「シルちゃん、本当のアランデールと組みたいの?」

「・・・」

「なるべく希望どおりにするから言ってみてよ」

「私は…、以前のようにユビーさん、ニアさんと私の家で平凡に世界作りしたいです…」


 シルちゃんの気持ちはよくわかる。ここ数日で環境が全く変わってしまったから。

 確かにあの平凡な生活は非常に魅力的だ。みんなで使い勝手の悪いテーブルを囲んだ食事は本当に楽しかった。

 俺もあの生活に戻りたいが、世界のルールが天界の身勝手な理由で変更されたいま、人口100万人の目標を達成しないとシルは女神の資格をはく奪され、この世界も消えてしまう。

 そうなれば全てが水の泡になってしまう。


「シルちゃんよく聞いて」


 俺は今思ったことをシルちゃんに話した。


「それは…、分かっているのです。自分なりに頑張ってみましたが、やはり怖いです。Fランクだからこんなものでしょう…」

「ネガティブに考えちゃいけないよ。アランデールを見てみろ、彼女も同じランクだけど、それを全く気にしてないじゃないか」


「ちょっと待ちなさいよ!私だって気にしてるわよ。能天気馬鹿みたいな扱いしないでよね!」

「馬鹿にはしてないが、そのポジティブさを見習って欲しいと思って言ったんだ。アランデールの、…様の凄いところじゃないか」

「凄いのは当然よ!でも、なんかスッキリしないわね…」


 本当のところ、アランデールの能天気さは俺も見習いたいくらいだ。冬山で遭難して絶望的な状況になっても、彼女だけはいつも通り「私を崇めなさい」とか言って和ませてくれるに違いない。

 そう考えると彼女も俺達にとって必要な仲間なんだと改めて思う。


「上村さん、今日はもうシルちゃんを連れて家に戻ろうと思うけど、あとをお願いしてもいい?」

「小生にお任せあれ、ユビー殿はシダーミル様をケアしてあげてください」

「ありがとうございます」


「私も一緒に帰ろう。そろそろ夕食の時間だし、シルの手料理を食べたい」

「はい、頑張って作りますよ!」


 ニアが手料理の話をするとシルに笑顔が戻った。


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