29話、この子誰の子?
スライムって分身もできるんか?だとしたら凄いな。
でも、なんて言ったらいいんだろう、分身というより子を抱いてるようにも見えるな…。
「ユビー、ライムが抱いてる小さい方をスキャンしても構わないか?」
「もちろんさ、分身だと思うけど調べてみよう」
ニアがパソコンにスキャナを接続しスキャンした。
結果を見た俺は我が目を疑った。
――― スライム ―――
種 類:モンスター ▲
種 別:スライム
STR:70
DEX:25
INT:25
幸 運:100
知 性:B
速 さ:B
防 御:F
魔 術:F
両 親:ライム/ユビキタス
忠 誠:100
能 力:変身A ▼
――――――――――――
ちょっと待て、両親のところが俺になってるぞ?
やはりこのスキャナは壊れてるな。
「ユビー、これはどういう事だ?」
「ユビーさん、両親のところに名がありますよ?」
2人の視線がとても冷たい。特にシルちゃんは今朝の事もあるので俺の株は下がる一方…いや、暴落だ。
一刻も早くサーキットブレーカー制度を導入しないと危険だよ…。
「みんな落ち着こう、スキャナーが壊れているだって…」
ニアがもう一度スキャンしたが結果は同じだった。
どうなってるんだコレ?俺とライムの子って事になってるじゃないか。
寝ている間に襲われたのか?
「ユビーさん……」
シルは軽蔑や蔑みといった表現がピッタリの視線を送って来た。
「シルちゃん誤解だよ。スキャナーのメーカーを変えてみようよ」
「私だってFランクを受け入れたんですよ、これは故障ではありませんよ。あなたも結果を受け入れ神の私に懺悔すべきです」
やばいぞコレ、どうしよう…。考えろ俺。ラ、ライムに聞いてみるしかないか?
でも、ユビーノコ、カワイイとか言われたら終わりだぞ。いや、間違いなく言いそうだ。
認知するしかないのか…。怖いが聞いてみよう。
「ライム、その子はなんだ?お前が分身したんだよな?」
「ユビトライムノコドモ!カワイイ」
予想通りだった。DNA検査なんてこの世界に無いだろうしな。
魔王ならなんか作ってくれないかな…。
「ニア、本当に俺の子なのかDNA検査できないか?」
「DNAだと?」
ニアはネットに接続して調べ始めた。気まずい空気が隠し部屋に流れる。
シルも独自に調査を始めたようで、ライムに俺が襲ったのかどうか聞いている。
一呼吸置くとニアが口を開いた。
「検査できるぞ、このスキャナのソフトを少し調整すれば可能だ」
言ってから彼女はプログラムミングを始めた。
ライムに視線を移すとシルが聴取を続けている。ただライムが「ユビノコカワイイ」といった感じ事しか言わないので、会話が成立しているとは思えない。
シルが聴取を断念すると、ついに誰も話さなくなった。
ニアがパソコンを使う「カチカチ、パチパチ」という音だけが部屋に響く。そのテンポはとても早く、手練れのプログラマーが仕事してるといった感じだ。
「これで完了だ。ユビーとこの子をスキャンして、DNAの配列を確認する」
「すごいなニア、よろしくお願いするよ」
でもこれは正直に喜べない。この検査結果次第では俺の子というお墨付きを得ることになる。
こんな緊張初めてだ。
落ち着くんだ。人とモンスターは遺伝子が異なる。子が出来るわけない大丈夫だ。
もし親子という事になれば認知すればいいさ、ライムと幸せな家庭を築けばいい。わけない!
「結果が出たぞ」
「どうなんだ?」
「お前たちは親子だ」
「まじか……」
「コンコン」このバッドタイミングで、隠し部屋の扉がノックされた。
「はーい」といってシルがドアを開けると、しかめっ面の女神プレスコットが立っていた。
「中に入ってください」
プレスコットは部屋に入ると、開口一番「この浮気がバレた時のような空気感は何?」と失笑した。
「何笑ってるんだよ」
俺はプレスコットを睨みつけた。
「あんたの青ざめた顔を見るのが楽しくって」
俺は思わず眉をしかめた。
こいつ本当に性格の悪い女神だな。悪魔の方が似合っている。
「あの事を天界に話すぞ」
「ごめんなさい。言い過ぎたわ」
ニアは面白そうに肩を揺らしながら謝罪してきた。絶対反省してないだろ!
「ユビー殿、お取込み中ですかな?」
声の主は上村さんだ。扉付近に視線を移動させると、彼とアランデールがひょこっと顔を覗かせていた。
◇ ◇ ◇
全員揃ったところで、俺は今朝からの出来事を話すことにした。
真剣な表情で話したつもりだったのが、アランデールと上村さんは終始にこやか、プレスコットにいたっては腹を抱えて笑っていた。
こいつは他人の不幸話が大好きなんだろう。
一通り話し終えるとプレスコットが話を切り出した。
「あんたの子で間違いないわよ。ただし、私たちが思っている方法で子作りしたんじゃないの」
ニアは話をつづけた。
スライムの中でもごく一部の個体に限るらしいが、相手の細胞を取り込み、それを核にして子を作る事ができる。
ただこれは、子を作りたいと思わせる事象が必要で、今回は仲間からいじめを受けていたライムを俺が救ったので惚れられてしまったようだ。
モンスターを助けたりする者なんて滅多にいないので、プレスコットも初めて見るレアケースらしい。
「油断するとすぐに子を作ろうとするから、気づけばビッグダディになってるかもね?」
おいマジかよ。俺は何もしてないのに、子がどんどん増えるなんて恐ろしすぎるだろ。
「細胞を取り込むって、具体的にどのようなものを使うのでしょう?髪の毛とかですか?」
シルちゃんナイス質問だ。俺も気になってた。
「うん、髪の毛でもいいし皮膚を引っ掻いてもいいのよ。口づけすれば唾液も入手できるしね」
「それって、私の子を作る可能性もあるって事ですか?」
「神族との間では聞いたことないけど、理論的には可能だと思うわ。シダーミルも子作りしてみたいのかしら?」
「え?それは・・・」
シルは顔を赤らめた。
「ユビー殿がうらやましいですな。小生もライムさんとの間に…」
間髪入れず横から来た拳が上村さんの頬を直撃した。
「アランデール様、何を・・・」
「なんでもないわ、ちょっと殴りたかっただけよ」
「パンパン」ここでプレスコットが手を叩いてみんなを注目させた。
「ユビキタスはスライムに注意する事ね、言葉が通じるようなら子を作らないよう言い聞かせなさい。始末するのも選択肢のひとつよ」
全員がプレスコットを睨め付けた。
「ちょっと何よ、所詮この世界のNPCに過ぎないのよ?」
まだ短い付き合いだがライムを葬るなんてできない。少なくとも人の言葉を話し意思の疎通ができるのだから、単なるモンスターじゃない。
人として扱うべきだろう。
「プレスコット、お前の言ってることは正しいかも知れない。しかし、敵でもないし意思の疎通ができる者を始末するという発想がよくない」
ナイスだニア!プレスコットの人格を否定はしないが、俺もその考えは好きじゃない。
「仲間同士で馴れ合いは結構だけど、甘い事ばかり言ってると足元すくわれるわよ。その考えはこの世界の中だけにするべきね」
「外の世界じゃそうかもしれないが、ここでは俺達の好きなようにする。お前もそれに従って欲しいんだ」
「わかったわ。ただ忠告は随時させてもらうわよ。私の将来もかかっているのだから」
プレスコットもここでは俺達に従ってくれるようで安心した。拒否した場合は例の件を天界に報告すると言えば従うだろうが、無理やりするのは本意ではない。
彼女も最初は嫌がってたが、最近は少しだが考えを改めてくれている。
「スライムの件はここまでにして、私はこの世界で何をすればいいのかしら?」
俺はプレスコットに今後の方針と、シルのサポートをするように伝えた。
時たま渋い表情もしたが最終的に得心してくれたようだ。
「分かったわ。それで進めましょう」
下準備はすべて完了だ。




