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28話、新世界の下準備

「はーい」

 シルが返事をして扉を開くと、予想通りアランデールと上村さんがいた。


「ごきげんよう!我が召喚獣シダーミルよ」

「ガルルルーって、まだその設定続いてるの?」

「あたり前じゃない。さぁ私を案内なさい」

 シルは上座にあたる部分に彼女を案内した。


「ユビー殿」

「どうも上村さん」

「すまないね。分かっていたとはいえ、実際に自分たちの世界が無くなるというのは寂しいものでしてね、だからアランデール様も紛らわすためにシダーミル様を召喚獣扱いしているのです」

 それはよくわかる。俺達の世界もいつ吸収されるか分からない。

 だからこそ、みんなで協力して悪あがきをこれからする。


 椅子に座り短い脚を無理に組むと、アランデールが本題を切り出した。


「知ってると思うけど、私の世界が召喚獣の世界に吸収されるわ」

「ガルルルー」

 アランデールはシルの頭を撫でた。 


「しかしね、これ以上他の世界に吸収されるのはもうゴメンよ何か案があるなら言ってくれないかしら?私達も協力するわ」

 自分が世界の主神ではなくなり居候の身になっても、アランデールは自身のスタイルを突き通すようだ。

 落ち込む彼女を見るよりはいいだろう。 


 俺は事前にニアと相談したプランをアランデールと上村さんに伝えた。


「ユビー殿のプランはわかりました。小生も手伝います。もちろんアランデール様も」

 アランデールに視線を向けると彼女も頷いていた。これで契約成立だ。

 

「アランデール様は邪神としてこの世界に君臨してもらい、上村さんはアランデール教の教主をしてもらう。それでいいかな?」

「もちろんです。魔族として転生してくる冒険者をコントロールするのはお任せあれ」

 上村さんは自信に満ちた表情だ。彼らの役は、現在活動している内容とほとんど変わらないため受け入れやすかったのだろう。

 邪神だって神だ。アランデールも【現世】で引き続き神が出来るのだから納得だろう。


 そして俺は次の案件に移った。


「次に統合にあたっての手順を考えたいと思う」

 これは俺が以前考えたアランデールとの統合案を少し変更したものだ。


「移住に関しては本日午後から行う。それが完了したら天界へ連絡を入れ、アランデールの旧世界を終了してもらう」

「ユビー殿、わかりました」「承知した」

 俺が終了という言葉を使った時、2人とも一瞬顔をしかめたが了承してくれた。やはり自分の世界が終了するのは辛い事なんだと察する。


 次は移住後の信者について。


「上村さん、信者の中にうちのシルちゃんに興味を示している人はいるのかな?」

 ここでアランデールの眉間にシワがよる。それを上村さんは言いにくそうに答えた。


「その、なんといいますか…。少しはいます」

「上村よ、何人いるのだ?」

「はい、43名ほど…」

「なんと1/4ではないか!まぁ我が召喚獣を慕ったとしても、眷属に変わりはない」

「アランデール様の寛大さに感謝いたします」

 アランデールの表情が少々こわばってるが、内輪もめは解決したようだ。


 信者は現在165名、王都にはアランデール、上村さん、信者80名を残し街中の宗教施設で布教活動を行ってもらう。

 その中の戦闘が出来る者については、王宮の護衛やアランデールの世話をしてもらう。


 ここで問題になるのは人界側の助っ人だ。


「シルちゃんの人界側にもう1人補佐をつけたいのだが、女神プレスコットはどうかな?」

「良い案だと小生も思います。ここで奴を使わない手はないでしょうな」

「それと先ほどの43名をシダーミル教の信者として出向して欲しんだ。人界側にやってくる冒険者を束ねるためにも、シルちゃんを頂点とした教えが必要と思うんだ」

「なるほど、それも一理ありますな」


 この世界は《善》vs《悪》が分かりやすい形で争ってる世界になる。善が不利と分かれば正義感のある冒険者が必ず転生してくる。

 ただ、善といっても考え方は人それぞれで、どちらが最善なのか争いになってもらっては困る。

 そこで、転生してきた人たちが好き勝手しないようルールを作っておく必要がある。それを守らせるためにシルを神とした教えを説く者達が必要になる。シダーミル教だ。

 

 逆に魔界は、どうしても悪のイメージがあるので、荒くれ者が集まる傾向がある。彼らをまとめあげるのは圧倒的な力、余裕があれば組織も欲しい。

 こちらにはチートアプリを武器に持つ本物の魔王だっている。魔族達が団結したところで、簡単に政変を起こすことはできないが油断は禁物。

 前世界で俺の妻に扮していた魔王ウィラメットくらいの用心深さが必要になる。


「アランデール様もいいかな?広義の意味では、あなたの下部組織になる」

「私は寛大だ、それくらい構わん」


「シルちゃんもいいかな?」

「気は進みませんが分かりました」

 これで2柱ふたりの同意は取り付けた。


「残りの信者は地方の町に行き、布教活動に努めてもらいます」

「わかった。では、私はプレスコットに連絡する。さっさと来いとな」

 アランデールは不敵な笑みを浮かべ、タブレットを取り出すと音声チャットアプリを起動させた。


 最後に転生ルームのリストに掲載する文面を差し替え、同時にシルが出演したPVを作る。

 これも出来れば今日中に済ませたい。その辺りの事が完了すれば、この世界に転生する冒険者が現れるはずだ。


「ところでユビー殿、そちらのピンク髪のお嬢さんは?」

「この子はライム。実は変身能力を持つスライムで、会話もできるんだ」

「そうでありましたか。なかなか可愛い子ですな」

「ライム、こちらは上村さんだ」

「ウエムラ!チュッチュ」

 ライムは上村さんに抱きつくと頬にキスをし始めた。彼の顔色がみるみるうちに赤くなっていく。


「なかなか刺激の強い子ですな」

「ライム、ストップ!」

 上村さんは俺がニアの胸を見た時と同じくらい鼻の下が伸びていた。

 

「そ、それではユビー殿、小生は仲間に連絡を取り、こちらへ移動するように指示を出します。今回は統合特例で転生ルームを介さなくても直接こちらに来ることが出来ます。転生時魔族を選択するようにだけ伝えます」

「それでお願いします」

 魔族転生の場合って、どんな姿になるのだろう?ニアがデザインした街中にいたNPCのように角をはやし、皮膚も青白や灰色っぽくなるのかな。

 それによっては俺も変装する必要がある。


「ニア、新たに魔族転生してくる冒険者って、どんな姿になるんだ?街中のNPCのような感じか?」

「ヒューマンに近いタイプもあれば、私がデザインしたNPCのような姿までいろいろあるようだ。残念なのがその設定部分にはアクセスできなくてランダムになる」

「俺は変装する必要はあるのか?」

「角を生やせば問題無いだろう」


「それなら私が作りましょうか?」

 家事Sランクのシルが名乗り出た。可愛い角だけは勘弁して欲しいところだ。


「それじゃお願いするけど、可愛いのはなしで!」

「・・・」

 やはり、そのつもりだったのか。釘を刺しておいてよかった。

 ピンク色の可愛い角をつけて玉座に座ったら笑い者になるのは間違いない。魔族相手の場合はナメられたら負けだ。

 話し方も練習する必要があるので、ニアにレクチャーを受けるつもりだ。


「ユビー、プレスコットと連絡がついたわよ。転生ルームの仕事を放り出す事は出来ないから終わったら来るそうよ」

「分かった。ありがとう」

「あと私達が住む部屋はどこになるのかしら?ここは召喚獣の部屋だから獣臭いわ」

「私は臭くないです!」

 シルは少しお冠の様子で、アランデールを睨みつけていた。


「あくまでも、この世界の主神は私ですよ!忘れないでくださいね、アランデール」

「わかったわよ、臭いは取り消すわ」

 王宮内にアランデール教の施設を作ったほうが良さそうだな。


「今からアランデール様用の施設を作るから、少し待ってくれ」

 俺は王宮の周囲にある堀を縮小し、そこに大型の教会と彼女が住む家をデザインした。

 雰囲気としては魔界のイメージ合わせたダークな感じだ。


「アランデール様、こんなデザインでどうだ?」

「いい感じではないか、気に入った」

 アランデールはタブレットを俺から取り上げ《Okay》を押した。窓の外を見ると教会がそびえ立っている。

 そうか、主神以外でも設置ができるんだな。神用のタブレットが2台になったって事は、未着手になっているエリアも早く作る事が出来そうだ。


「私は新居に移動する、プレスコットが来る頃にここへ戻る」

「分かった」

 アランデールと上村さんはシルの隠し部屋を後にした。


「ユビー、私はシルとPV用の撮影をしてくる」

「いってらっしゃい」

 部屋は俺とライム2人きりとなった。今朝は早くから起きていたせいか眠気を催してきたので仮眠させてもらおう。

 俺はシルのベットで軽く眠りにつく。ライムも添い寝してるようだ。


  ◇ ◇ ◇


「ユビー、起きるんだ!」

 俺はニアの声で目が覚めた。寝すぎたか?


「これはどういう事だ?」

「何がだよ?」

 目をこすって、ニアが指さす方を見るとライムが更に小さいライムを抱いていた。


「あれ?ライムが増えた?」

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