23話、地形づくりもあと少し
さて、このエリアの特徴はどうしようか…。
作業を再開した俺は、島の南から南東部の地形で悩んでいた。
氷河、湿地、大地溝帯、クレーター、う~ん…。
そうだ、火山があってもいいな。
このあたりは火山エリアという事にして、巨大な二重カルデラを配置し、中央火口丘に小さなカルデラ湖を作っておこう。
巨大な火山を下手に置くと、山体崩壊を起こされても困るし、大火砕流が発生し王都まで来たら、ヴェスヴィオ山の大噴火で埋まってしまったポンペイみたいになってしまう。
その点、カルデラを持つ火山なら噴火で溶岩を伴っても外輪山が抑え込んでくれるから安心だ。
種別は活火山に設定した。更に詳細設定が出来るようなので見てみると、溶岩の粘性についても設定可能だった。
俺はこのあたり関しては詳しくないのでHelpを読んでみた。
粘性の単位は「パスカル秒」Pa・ sらしく、水は1.004Paみたいだ。玄武岩や安山岩など岩の種類によっても粘性が異なるらしい。
細かく数値を入れることもできるが、知識を持ち合わせていないので、粘性は『中』に設定した。
ちなみに、水も軟水や硬水の設定ができる。
このアプリは自動設定があるので楽だけど、もしそれが無ければ地学勉強をする必要があっただろう。
タブレットが導入される前の世界作りは大変だっただろう。
ふとキッチンを見ると、洗い物を終えたシルが洗濯を始めていた。
次は洗濯か、ニアの分が増えたから少し大変だな。
寝具を洗濯する時は手伝おう。
俺は視線をタブレットに戻す。
火山を作り終えたので、次は隣接する4つ目の町、ワーム近郊の地形づくりを始めた…その時。
「ユビーちょっといいか?」
急にニア話しかけてきた。
「なんだ?」
「以前作った試作アプリがあっただろ?それをストアで売ろうと思ってな」
「売る?」
ニアは一体何をするつもりなんだ?
「そうなのだ。アプリを売って収入を増やしてシルの負担を減らしてやりたいのだ」
食事前言っていた収入を増やすって、この事だったのか。
ニアによると、ビルさんとこのOS上のアプリストアに登録すれば売ることができるらしい。
販売するのは、ウィルさんが作った地形や建物などを作るアプリを全て統合し、さらに扱いやすいように改良を加えたものだ。
その試作品は俺が今使っている。コードは全て新規で作ったらしいので、著作に関しても問題無いだろう。天界に知的財産関係の法があればだけどね。
「このアプリはニアのオリジナルなんだよな?ウィルさんのをパクったんじゃなくてさ」
「参考にはしているが、ほとんどオリジナルだ。解析されないように暗号化してある。他者が見る事は絶対できない」
だとしたら、苦情が入る事も無さそうだな。
さて、アプリの販売だが、ビルさんのところは販売手数料が30%、ニアの取り分は70%、一定以上売れれば取り分は80%まで上がるしい。
すでに仮登録は済ませてるらしく、あとはシルの許可を得るだけ。
俺に見せたのは操作性の最終確認の為だった。
NPCのAIについても、完成したらアプリの拡張プログラムとして販売するみたいだ。
ちょうどこれから、ワーム近郊の地形づくりをするので、新アプリで作ることにした。
さて、このワームの町だが、本来は先ほど作った火山のあたりに設置する予定だった。しかし、そうなると東部へのアクセスが不便になるので少し東へ移動させたのだ。
この町の特徴は火山の恩恵。というわけで温泉などの保養施設や、数種類の岩石を配置し採石場を設ける事にする。
町のデザインはシルちゃんが作ってくれたので、郊外に配置する温泉施設もそれに合わる予定。
あとは採石場だ。岩石の種類は、マグマがゆっくり冷えて出来た、花こう岩、せん緑岩を設定。
また海に近い方ではマグマが急に冷えて出来た、玄武岩や安山岩を設定した。
これでワームは保養地と石材を扱う町として賑わってくれればと思う。
新アプリは、これらの設定が非常に楽ちん。
例えば、先ほどの水の設定。試作アプリは軟水か硬水の二択だったが、新アプリではバーをスライドさせるだけで割合を調整できる。溶岩に関しても同様。
初心者向けアシスト機能も搭載。
アプリの使用者が悩んでいるようなら、すぐにアシスタントが現れ丁寧に解説してくれる。
アシスタントはサキュバス、インキュバス、魔王、キッズ向けの動物を選択できるが、魔王と動物以外はお色気要素が詰まってるので、はっきりって成人向けだ。
「ニア、このアプリ便利だぞ!」
付け加えると無駄にエロい。
「そうか、ではシルに許可をもらってくる」
これが売れれば収入は間違いなく増えるだろうな。ユビキタス家の家計も安泰だ。
ちなみに価格は500ヘブンスドル。日本なら500円(税別)といったところか?
1ドル1円という事になる。
ニアはシルに許可をもらいに行った。シルに説明する時のアシスタントは動物に設定していた。ニアも彼女の扱いに慣れてきたようだ。
それからニアはアプリの登録手続きを進め、シルは部屋の掃除を始めた。
吸引力がウリの例の掃除機がうるさい音を部屋に響かせ俺に近づいてくる。
「ユビーさん足が邪魔です」
俺は足を上げた。
掃除機と言えば、魔法の掃除機というゲームがあった気がするが、魔法……。そう、魔法だ!
俺は急に魔法の事が気になった。
この世界にそれは存在するのだろうか?女神は勉強すれば使えるようになるそうだが…。
「シルちゃん」
「はい、どうしました?」
シルは掃除機を止めた。
「この世界って、魔法は使えるようにするの?」
「もちろんですよ。魔法の無い世界はつまらないです」
「わかった」
使える世界にするなら魔法の町が欲しい。
俺はタブレットで地図を広域表示し、町の候補地を探した。
今のところ王都の北東側は町が一つもないよな…、ここにしよう。
北海道なら遠軽あたり。そこに追加の町を設置する事にした。
今日の予定には入ってないが、町の周辺部だけ作っておこうと思う。そして、作業を開始すると掃除機の音が再び近づいてきた。
「ユビーさんが邪魔です」
俺は対面の椅子に移動した。
町のデザインはシルちゃんに任せておけば、何も言わなくてもメルヘンチックな街並みになるだろう。
周辺を山で囲えば、より秘境っぽさが出ていいかも知れない。
魔力を宿すクリスタルや魔石を配置して、魔術や魔法究める者達の聖地にしよう。錬金術も含める。
それと名前だ。今までの流れからすると、マルウェアくらいしか残ってないか…、よし決定。
あとは何か無いかな?
そうだ、重要な事を忘れていた。ここへ人が来るための理由。
どこの町でも魔法や魔術を覚えることができたら、わざわざ辺鄙なところまで来る人はいないだろう。
正式稼働したら人口が転出超過となり、限界集落になるのは火を見るよりも明らかだ。
理想としては、各町で初期の魔法を学べるようにして、興味が出たら王都の魔法学校へ進学。
そして魔法を究めるためにはマルウェアに行く必要がある。
こうしておけば、過疎の町になる心配は無いだろう。
というわけで、王都に魔法、魔術、錬金術専門の学校を追加する。
こうして、俺はマルウェア周辺の地形を作り終えた。
一区切りついたので、背筋を伸ばしいるとニアが叫んだ。
「やった!アプリが売れたぞ」
おや、もう売れたのか?
気になったのでニアのパソコン画面を見てみると17ダウンロードと表示されていた。
今の段階で8500ドルの売り上げだ。30%は手数料でもっていかれるけど…。
それと3日間だけ使えるお試し版のダウンロード数に至っては150を超えていた。
レビューも一つだけあり、使い勝手がとても良いとある。
出だしは好調なようだ。
「ユビー、こんな早く売れるとは思ってなかったぞ」
「よかったじゃないか」
清掃をしていたシルも掃除機を止め、こちらにやってきた。
「ニアさん、良かったですね」
「こうやって売れてくるとやる気もあがるな。そう言えばAIの修正もほぼ終わったので、実装してテストをしてみたい」
ニアの奴やる気満々だな。AIが出来たのならテストしてみるか。
「それならお昼から王都へ行ってクエストを一つしてみないか?」
「賛成だ」とニアがいい、シルちゃんも「楽しみですね」と言ってくれた。
この世界を創り始めて9日、NPCだけは本当にろくなことが無かった。
ノースブリッジではルイーダに殴られ逝きかけたし、この家を襲撃されたこともあった。
そしてニアが来て、プログラミング言語をマスターしてくれたおかげで、優秀なアプリができAIもほぼ完成。
世界作りは一気に前進した。
昼からのテストで問題が無ければ、明日全エリアのテストをする事ができる。
最短2日で、このエリアは正式稼働だ。
全てがいい方向に動いてる。この流れに絶対乗ってやる。
「それじゃみなさん、王都へ行きましょう」
シルが声を掛けると、3人+1匹は手を繋ぎ王都へ転送移動したのだった。




