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22話、魔界料理はやめて欲しい

 次の日朝

 俺が目覚めると、キッチンから朝ごはんを作る音が聞こえてきた。

 昨夜シルちゃんは、バイト疲れでそのまま寝てしまったが、ちゃんと起きれたようだ。

 でも、なんか臭くね?何を作ってるんだ?


 俺は起き上がり洗面所を目指した。

 まだ目が完全に開いてないせいか、シルちゃんの背が大きく見た。

 ランクアップして成長したのだろうか?

 もう一度目を擦り視界を良くすると、ニアの後ろ姿が見えた。

 俺の気配にい気付いたのか、ニアは振り向きお互いに目が合った。

 

「おはようユビー」

 なんでニアが?


「シルはまだ寝ている」

「おやよう。なんでニアが作ってるんだ?」 

 シルちゃんが朝寝坊なんて珍しいな、それとも俺とニアが早起きかのか?


「いやー、ちょっと早く目が覚めてしまってな、朝ごはんづくりに挑戦してるのだ」

 おい、まさか魔界料理じゃないだろうな?


「何つくってるんだ?」

「安心しろ、魔界料理ではない」

 それはかなり安心した。


「昨日カフェで教えてもらった、洋風ポパイソテーに挑戦してるんだ」

 フライパンを見ると小学生の調理実習で作った卵とほうれん草の炒めもののような、何か?があった。

 元は葉物だったであろう謎の物体は、粘り気があり何故か異臭を放っている。肉もなにやら怪しげな物が入っている。

 いったい魔王は何を使ったのだろうか。


「ニア、食材はなんだ?」

「卵だろ、ほうれん草が無かったので外に生えてたモロヘイヤを入れた。アランデールが食べてたので問題無いはずだ。それとハムが無かったので、イノシシを狩って…」

「ストーーップ!」

 俺はニアの話を遮えぎりフライパンの火を消した。


 作ろうとしている努力は認めよう。

 それはとてもいい事だ。しかし…。


「ニア、食材選びを間違えている。モロヘイヤを入れたらダメだ。あれは体に良いらしいが、とても臭く、俺的には危険食材なんだ」

 大昔ユビキタス家で、かーちゃんがテレビ情報で仕入れたモロヘイヤ入りカレーを作った。

 それはとても不味かった。

 テレビでは、カレーの味がモロヘイヤの臭みをかき消すという事だが、実際はモロヘイヤがカレーの味をかき消していた。


 目の前にある、モロヘイヤ炒めを食べてはいけない。不幸な一日の始まりとなるだろう。

 少なくとも、この調理法で食べる食材ではないと思う。


「ユビー、ひと口でも食べてから判断してくれないか?」

 確かにその意見も正しいが…、モロヘイヤ事件が走馬灯のように頭を駆け巡る。

 俺は箸を持ち、恐る恐るそれを口にした。

 ん?意外といける?


「どうだユビー?」

「確かに臭みはあるが、悪くないな」

 俺は少し控えめに評価した。モロヘイヤを全否定した手前、今更褒めるのは恥ずかしい。


「意外と食べれるだろ?」

「確かに、でもどうやって臭みを?」

「これは偶然みつけた方法なんだが、アランデールが食べると臭いが減っていったんだ。だから一度食べさせて…」

「ストーーップ!」

 俺はニアの話を再び遮えぎった。というより聞きたくなかった。

 でも食べてしまったものは仕方がない。


「ニア、アランデールを調理器具として使たって事だよな?」

「その通りだ。流石はユビーだな」

 ニアに、俺が育ってきた世界の食に関する事を話した。

 動物の一部は子育ての時、親が軽く消化した物をヒナや子に与える事はあるが、俺達はヒトだ。


「そうだったのか、それはすまなかったな」

「もうアランデールを調理器具として使うのはやめるんだ」

「わかった。これを捨てるのはもったいないから、私が責任をもって食べるとしよう」

 ニアはラマ風モロヘイヤソテーを皿にのせ、1人で食べ始めた。


「ところでニア、イノシシを狩ったと言ってたよな?」

「あぁ」

「残りの肉はどうしたんだ?」

「きれいにカットして冷蔵庫に入れたぞ」

 あれは冷凍しないと傷むんじゃないか?なんか嫌な予感がするな。


「ニア、血抜きはしたのか?」

「なんだそれは?」

 おれは恐る恐る冷蔵庫を開けてみるが、肉に関しては特に問題はなさそうだ。

 仕留めてから、すぐにバラし冷蔵庫に入れたので臭いが発生しなかったのだろう。


 通常は血抜きしないと、時間の経過とともに血液が腐敗し臭い肉になるらしい。

 猟師によっては、池に放り込んで獲物を冷やす人もいるそうだ。


 しかし、冷蔵庫の中は肉が詰め込まれた状態だ。どうするんだこれ。

 

 ◇ ◇ ◇ 


 俺は気を取り直して、洗面所で歯磨きをする事にした。

 ここ二日は、隣にシルちゃんがいたので一緒にゴシゴシしてたのだが、今日はいない。


 すると?

「ギャー――」っとシルちゃんの悲鳴が聞こえてきた。

 俺は歯ブラシを口に突っ込んだまま悲鳴がした方へ行ってみた。

 すると冷蔵庫を開け、フリーズしているシルちゃんがいた。


 白目ではないので意識はあるようだ。

 おそらく、朝ごはんの食材をチェックしようと冷蔵庫を開けたとたん、肉の壁が見えたので驚いたのだろう。

 何が起こったので、頭の中で処理中と言ったところかな。


「その肉は、私が狩ったイノシシだ」

 それを聞いたシルちゃんは、状況が飲み込めたようで活動を再開した。

 

 シルちゃんも動き出した事だし、俺は歯磨きを再開した。

 ゴシゴシゴシ。

 少し間を置いて隣にシルちゃんがやって来た。


「おはようシルちゃん」

「ユビーおはようございます。冷蔵庫見てびっくりしましたよ」

 あれは誰だってびっくりするさ。

 

 先に歯磨きを終えた俺は、ヒゲを剃りながら今朝の出来事を話した。


「なるほど、確かにラマ風モロヘイヤソテーは食べたくないですね」

 シルちゃんも同意見で良かった。


 俺は洗面所を出ると部屋着に着替え、朝食が出来るまでの間、タブレットで今日の作業工程を確認した。

 ソテーを食べ終えたニアが、洗い物を済ませたついでにコーヒーを入れてくれた。


「ありがとう」

「うむ、今日はどんな予定にするんだ?」

 ニアは、タブレットを眺めていた俺を見て、今日の作業工程をチェックしてると思い尋ねてきた。


「俺は今日中に地形を細かいところを完成させる予定だ。ニアはそろそろNPCのAIを完成させ、配置して欲しい」

「分かった。午前中は個人的なプログラムを完成させたいのがいいか?」

「べつに構わないよ」

「助かる。少しでも収入を増やしたいからな」

 収入を増やす?

 カフェのバイトで使えるプログラムでも作る気かな?

 まぁ好きにさせておこう。NPCの問題さえ片付けば、最初のエリアを稼働させる事ができる。


 そこに、歯を洗い終えたシルが戻ってきた。

「ニアさん、朝ごはんどうします?」

「頂くよ、さっきのは前菜だ」

 朝からよく食うな…。


「ニアさん、私朝ごはんつくるので、シシ肉をパックして冷凍庫へ移動してくれませんか?」

「わかった」

「入りきらない分は、朝ごはんで使いますね」

 シシ肉を使った朝ごはんか、楽しみだな。 

 少しでも減らさないといけないしな…。


 俺は地形づくりをしながら、時々キッチンを見ることにした。

 シシ肉料理が気になるからだ。

 お腹が減っていて、いまいち作業に集中できない。

 時々、山の配列が歪んでJ字なったりする。


  ◇ ◇ ◇ 


 その頃キッチンではシルがシシ肉を使った温野菜サラダを作っていた。

 イノシシ肉を角切りにし、塩コショウで味付けする。

 次に旬の野菜とニンジンやブロッコリー小さく切る。

 鍋に酒、水と肉を入れ煮てから野菜類を入れていた。


 シルちゃん煮物でも作る気かな?

 いい香りがキッチンや俺が座ってるテーブルまで流れてくるが、天井の大型静音ファンが吸い出すので、部屋全体に広がる事は無い。

 俺は空腹を我慢しながら作業をつづけた。


 先日、南から南西部の資源を配置し終えたが、森や川がまだだったので、それを追加している。

 ここを流れる川の特徴は蛇行だ。大雨の時は浸水するようにしておいた。

 それと蛇行した川に多く見られる三日月湖も配置。


 将来、文明が発展した時は、水害に悩む冒険者が治水工事を行うはず。

 島全体が安全な地形というのは、おかしな話なので、なるべく自然に近いように配慮する。

 島全体としては、扇状地や湿地、沼地、火山、氷河なども設置したいところだ。


 川を配置し終えたところで南から南西部の地形づくりは完了。


「ユビーさん、ごはん並べますのでテーブルを片づけてください」

 いいタイミングで朝ごはんが出来たようだ。


 俺はタブレットを片づけ、テーブルクロスを交換する事にした。

 汚れたクロスを外すと、このテーブルの名称のゆえんとなった文字が見えた。

 AMIBIOS 

   686

 テーブルを使う頻度が増えたせいか文字がかすれてきている。

 本当に使い勝手の悪いテーブルで、交換出来ないか聞いてみたが、床に直付けされているので撤去出来ないらしい。

 しかもテーブルのくせに、暖かいので中で何か動作しているようだ。


 クロスの交換を終えると、シルちゃんが朝ごはんを並べ始めた。

 

「今朝はシシ肉の温野菜サラダです。真ん中に大皿を置きますので、適当にとって食べてくださいね」

 続いて、白ご飯とシシ肉入りのお味噌汁、お漬物が並べられた。


「私が作るより美味しそうだ」

 ニアのはどちらかというと魔界料理に近いような気がする。

 彼女が作る物は、今後も注意した方がよさそうだ。


 3人が席に着いたところで、いつもの儀式「いただきます」をした。

 シルちゃんはいつも通り葉物からスタート。

 俺とニアは野菜をどけ、肉とごはんからスタートした。


 シシ肉って臭みがあると思ったが、うまく下処理できてるので全く感じなかった。

 ニアが早めに冷蔵庫へ入れたのも功を奏しているのだろう。


「もう!2人とも野菜も食べてくださいよ」

「はい」「はい」

 俺とニアは申し訳なさそうに返事をした。


 俺達の共通点は、炭水化物と肉が大好きなところだ。


 大皿の残りが半分を切ったところで、俺は今日の作業内容を発表した。


「今日の作業だけど、午前中の世界作りは俺だけで、ニアは何かプログラムを作るらしい。シルちゃんは洗濯と掃除だよね?」

「はい、昨日あまり出来ていないので、午前中いっぱいかかりそうです」

 世界を作るのも大変だけど、3人分の洗濯や掃除、昼ごはん作りも大変だからね。

 シルちゃんへの作業依頼は昼からにしよう。


 そんな話をしているうちに平らげてしまった。 


「ごちそうさまでした」

 それから3人はそれぞれの作業に入った。

 シルちゃんは、洗い物と昼のお弁当作り。俺は南から南東部の地形づくり。

 ニアは良く分からないが、オリジナルプログラムを作るらしい。


 俺は再びテーブルにタブレットを置き、作業を再開した。



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