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21話、和解と親睦

 上村さんは、ホイットニーさんを連れて戻って来た。


「これを見てください、あの人やっぱりプレスコットです」

 俺はホイットニーさんに画面を見るように促し、見た彼女は驚きの表情を見せた。


「これはどういう事ですか?」

「スキャンしたデータが少し怪しかったので、私が作ったプログラムで精査してたんだ。そしたらデータが偽装されている事が分かった」

 魔王のプログラムは伊達ではない。

 

 ホイットニーさんは天界に報告すると言って部屋を出ようとしたところ、上村さんがそれを止めた。


「ちょっと待てください。小生に案があります」

 と言って彼は語り始めた。


 まず、この偽装の事実をプレスコットに見せ認めさせる。

 天界への報告は保留にする代わりに、3つ条件を飲んでもらう。


 ・引き抜いた子を戻す事。

 ・天界の情報をこちらに知らせ、協力する事。

 ・呼び出した場合は、すぐ来る事。


 裏切った場合は容赦なく天界へ報告する。


 条件を確認したところでホイットニーさんはプレスコットを呼びに行った。

 ニアも接客に戻った。


 更にシルちゃんを叩いたことや、今まで俺の死を笑った事や『女神の心得』に違反している事も謝罪してもらうつもりだ。

 上村さんも同じ事を考えていた。


「プレスコットに、アランデール様を叩いたことを謝罪してもらいます」

「俺もシルちゃんへ詫びを入れてもらおうと思ってますよ」

 さて、プレスコットがどんな表情をするか楽しみだ。

 

 扉が開くと、ホイットニーさんに連れられプレスコットが入って来た。


「こんな密室で雁首を揃えて、私に謝罪しようって事かしら?、ここじゃなくホールのお客さんの前でやりないよ」

 相変わらず強気のプレスコットであったが、それもここまでだ。


「謝罪するのはお前の方だ」

「あなた本当に失礼ね」

「プレスコット、この画面を見てみろよ」

「パレスコットだと言ってるでしょうが」

 彼女は眉をひそめ画面をみた。


 すると、表情が一変する。

 口を大きく開け、もはや言葉も出ないプレスコットは状況を理解できない感じだった。

 混乱している感じすらする。


「どうだ、これ偽装してるんだよな?」

 ここからは俺達が反撃する番だ。


「こんなの、デタラメよ。誰が作ったの?天界に報告するわよ」

「報告されて困るのはあなたなのでは?」

 ホイットニーさんは語気を強めて言った。

 

 プレスコットの顔に汗がにじみ出ていた。


「こんなのどうやって調べたのかしら、違法な方法で調べたに決まってる。あなた方のほうが困るんじゃない?」

「あなたは偽装だけではない、女神への暴行や、転生ルームでの規律違反もある」


 しばらく間を置いて彼女は再び言葉を発した。


「あんたたちの報告なんて誰も信じるわけないわ。さっさと報告しなさいよ」

「あなたが店内で暴力を振ってる画像もあります」

 開き直る彼女に上村さんが畳み掛ける。


「無事では済まないと思いますけどね。観念して心から謝罪して頂きましょうか?」

「悪かったわ、謝るわよ…。申し訳ありません」

 上村さんの謝罪要求を受け入れたプレスコットは、深々と頭を下げた。


「アランデール様、シダーミル様にも謝罪して頂こう。そのあと我々の提示する条件を呑めば、天界へは報告しません」

 これを聞いたプレスコットは顔をあげ、救いを求めるような眼差で俺達を見た。


「彼女達にも謝罪するわ、それで私は何をすればいいのかしら?」

 上村さんは先ほど決めた条件を伝え、プレスコットは承諾した。

 その後、休憩室にシルとアランデールが戻ってきたので再び謝罪をした。


 今回の騒動はこれで終了、プレスコットは誓約書にサイン、これで和解成立だ。


  ◇ ◇ ◇ 

 

 閉店後、みんなで夕飯を頂くことになり、めいめいに好きなものを注文した。

 シルとアランデールは以前より仲良くなったようだが、従僕関係は継続のようだ。

 それを見ていた上村さんも表情が緩んでいた。

 ニアはディモナやホイットニーさんと魔王プレイやメイドについて語り合っていた。


 こんな大勢で食事をするのは、いつ以来だろうか?

 前世界で、魔王討伐前に食事をした時は5人いたが、あの時とは全く違う気分だ。

 今の方が断然楽しい。


 宴もたけなわとなった頃、上村さんが世界作りのルール変更について、まだ噂段階であると念押しした上で語り始めた。

 これは、俺がさっき聞いたものと同じ内容だ。


「そういうわけで、近い将来アランデール様の世界はシダーミル様の世界に吸収され統合になる可能性があります」

「統合は仕方ないとして、私を再び討伐する事はやめて欲しい」

 酒が入り、顔が赤くなっているニアが訴えてきた。


「あなたが我々を攻撃しない限り、それは無いから安心してください。私たちはただ、アランデール様の成長を見守りたいだけです」

「私はお前たちの仲間を50人も屠ったんだぞ、それでもいいのか?」

 ニアは、自分が討伐された事に加え、相手を屠った事も気にしているようだった。


 上村さんはニアにこう語った。

 その50人は再転生時、記憶を継承する特典をもらって、他の世界で情報を収集して送ってくれているらしい。

 現地でアドバイザーになるべく皆努力している者もいるようだ。

 やがて、世界の統合が行われれば再び会う事もあるから心配しないで欲しいと言った。


 統合話を聞いた時、事前に知らされていた俺やアランデールを除いて、みんな驚いていた。

 ニアやシルはかなり動揺していたが、これだけお互いに話が出来ればもう大丈夫だろう。


 ここで、途中から席に加わった店主も口を開いた。


「私は以前、男神として世界を司っていたことがある。何か分からない事があれば相談してくれ」

 とても心強い応援団が出来たと俺は思った。


 宴も終わりを迎える頃、ちびっ子達の声が聞こえないと思って見てみると、既に寝ていた。

 今日はいろいろあったから疲れたのだろう。

 シルちゃんはニアが、アランデールは上村さんがおぶって帰る事になった。


 今日は交通費に加えバイト代もらえたので、財布の中はホクホクだ。

 俺は初めて天界のお金を手にした。ヘイブンスドルというだけあって、米ドルに似たデザインだ。

 

 そして今後も俺達は時々カフェのバイトもする事になった。

 バカ高い軌道エレベーターも、こちらで働く場合の使用は割引が適応されるようで、片道の料金で往復できるようだ。

 それでも高いと思うが、お店が交通費を支給してくれるらしい。


 俺達は上村さんとエレベーターの駅まで一緒に歩く事にした。

 既に21時を回っており、あと1時間もすれば山手線は終電である。

 その為、日中より人通りが少ない。


「上村さんは、俺と一緒の元世界時代どこに住んでたのです?」

「私は京都の郊外です」

 また懐かしい地名だな。俺は修学旅行で行った事があるが、詳しい事はもう覚えていない。


 彼は休みを利用し、時々アキバを訪れては地下アイドルを発掘するのが趣味らしい。

 そして、アイドルを見つけては成長を見るのが好きらしく、現在は女神を見守っている。

 

 それから昔話をしているうちに駅に到着した。


「それでは小生たちはこちらなので失礼します。今日は親睦も深めることが出来ましたし、良い一日でした」

「こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」

 俺達は軽く会釈するとエレベーターに乗った。


 ニアにおぶってもらってるシルは熟睡していた。


「シルちゃんぐっすり寝てるな」

「そうだな、朝までぐっすりだろう、ところでユビーは統合話をどう思ってるんだ?」

 ニアは軌道チューブの外に見えている星々を眺めながら訪ねてきた。


「悪い話じゃ無いとおもってる。まぁ嫌だと言っても拒否権は俺達に無い」

 ニアが心配してるのは、彼らと一緒にどうやって暮らすかという事も含んでるのだろう。


「彼らが来た場合、世界のどこかにアランデール教の島国を用意して、そこに住んでもらったらいいと思ってる」

「一緒の家に住むという事はないのだな?」

「それは考えていない」

 ニアは安心したようだった。


 俺は今の3人暮らしが気に入ってる。彼らの生活スタイルは俺達とは異なってるだろうから、一緒に住むことは考えていない。

 というか物理的に無理だろう。10歳児にひれ伏すなんて俺には出来ない。


 時々うちでパーティーをしたり、天界のカフェで食事したりするのはいいと思う。

 そんな事をニアに話すと彼女も賛成してくれた。


 少しすると眼下に我が家が見えてきた。

 エレベーターの扉が開くとアランデール(ラマ)が出迎えてくれた。


 ペットの名がアランデールって事を知られたら不味いだろうか?

 まぁいいか。


 こうして長い1日は終わった。


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