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20話、天界でアルバイト!? (3)招かれざる客

 入って来た客は女神プレスコットだった。


「プレスコット?」

「いきなり客に向って何よ?失礼ね。私はパレスコット」

 待て、一文字違いってお前とっさに考えただろ。


「プレスコットは双子の妹よ」

 妹だと?ほくろの位置が同じだよ。99回見てるから間違いない。

 双子イベントだから、それに合わせて双子設定か?


「ほくろの位置が同じですよ?」

「だから妹だって言ってるじゃない、失礼な店員ね。さっさと案内なさい」

 ここで俺は後ろへ引っ張られ、代わりに上村さんが彼女を案内をした。

 そして厨房前のパントリーに俺は呼ばれた。


「ユビー殿、どうしたのですか?」

「あれは転生ルームの女神プレスコットですよ」

「例えそうだとしても、今はお客様なのでちゃんと切り替えてください」

 確かに上村さんのいう通りだ。


「わかりました」

「では笑顔でオーダーを取りに行きましょう」

 俺は上村さんと一緒にプレスコットのテーブルに行った。

 そして紳士的振る舞いで接客を始めた。


「ようこそお越しくださいました。お嬢様。先ほどは失礼いたしました」

「ほんと失礼な執事ですこと」

「失礼いたしました」

 俺は謝罪し深く頭を下げた。

 つづいて上村さんはオーダーを取るため、本日のお勧めの説明に入った。


「このお時間ですと、ケーキセットがお勧めでございます」

「それじゃ、あなたがお勧めしたものを頂くわ」

「承知いたしました。セットの紅茶はどちらになさいますか?」

 上村さんの接客は完璧だ。俺も見習わねば。


「少々お待ちください」

 オーダーを受けた上村さんはパントリーに引き上げたので俺も戻った。

 

「ユビー殿、何かプレスコットと確執でもあるですか?」

「なんと言えばいいかな、あの女神は俺の不幸を喜んでる感じがして…」

 一度や二度の話じゃない、俺が不幸な死に方をして転生ルームに戻ると、腹を抱えて笑ってるプレスコットを何度みた事か。

 その時は一瞬イラっとしただけで済ましていたが、改めて考えると腹が立つ。


「直接嫌がらせをされた訳ではないでしょう?」

「ええ、まぁ…」

 でもあの女神は『女神の心得』に反した事ばかり俺にやっているからな。

 許しがたい…


「そこまでめくじら立てる事はないですよ、もっと気楽にいきましょう」

 確かにそうかもしれない。

 本人がパレスコットと言ってるし、彼女の設定に乗ってあげるか。


 そこに魔女っ子席でオーダーを取ったホイットニーと女神達が戻って来た。

 彼女は開口一番、パレスコットの事を話し始めた。


「上村さんが接客してた女性はライバル店のオーナーなのです。あの人が、うちの子たちを引き抜いたんです。腹立つ」

「そうでだったのですか」

 パレスコットがオーナーだって?


「あの人って双子の妹がいるか知ってます?」

「いえ、そこまでは…」

 俺の質問にホイットニーさんが答えてくれが知らないようだ。


「彼女の妹が転生ルームでプレスコットという名で女神をやっているらしいけど、俺はどう見ても本人だと思うんだよな」

「もし、そうだとしたら規定違反です。天族は神をやっているとき、お店を経営する事は原則禁じられています」

 それは初めて知ったぞ、やっぱり怪しいなパレスコット。

 となると、シルちゃんもダメなんじゃ?


「シルちゃんが働いてるのも問題では?」

「いえ、経営はダメですけどバイトは大丈夫です」

 俺の元世界では、兼職を禁じてるところが多かった。

 神=公務員的なものだとしたらバイトも禁止かと思ったけど、問題ないようだ。


「それでしたら、パレスコットさんをスキャンしてみては?」

 ここでシルちゃんからナイスアイデアが!


「ケーキセットできたよ」

 突然、厨房から声がした。パレスコットが注文したケーキセットが出来たようだ。

 俺と上村さんは、一緒に彼女のテーブルまでそれを運んだ。


「お待たせいたしました。本日のお勧めケーキセットでございます」

 上村さんはケーキをテーブルに置いた。

 続いて紅茶をカップに注ぎ始めるとダージリンの香りが漂った。


「ちょっと、何このケーキ!私はこんなの食べたくないわ。さっさと変えてちょうだい。センスのない執事ね!」

「失礼いたしました。直ぐに交換いたします」

 パレスコットは、店内に響き渡るくらいの大声で上村さんに苦情を言った。

 これは店の評判を落とすため、嫌がらせに来やがったか?

 俺が追い出そうと動き始める、すると上村さんが俺の肩をつかみ制止させた。


「ユビー殿いけません」

 上村さんは「直ぐにお取替え致します」といって深く頭を下げ厨房に戻っていた。

 俺も無言のままそれに倣った。


「上村さん、あれは嫌がらせに来てるんですよ」

「そうでしょうね、でも他のお客様もいらっしゃいます。揉めるのはよくありません」

 大人だな。俺、勇者やってたのが恥ずかしくなってきた。


「確かに上村さんのおっしゃる通りです、悔しいですがなんとか堪えて頑張りましょう」

 ホイットニーさんも同意見のようだった。


「あのー、スキャンすればあの人の正体がわかるので、もし女神だったらそれをネタに話し合いに持ち込めるんじゃないですか?」

「さすが我が召喚獣シダーミルだ」

 アランデール、それは客席だけの設定にしておけー!俺は心の中で叫んだ。


 シルの案は使えるかもしれない。

 問題は誰がスキャンしに行くかだが、俺が適任だろう。横を通った時、何気なくやればいい。

 その事を伝えると、シルは更衣室へ行きタブレットを持ってきた。


「ではレジに行くふりしてスキャンしてくる」

「私も行きます」

 俺は、ホイットニーさん一緒にレジへ向かった。


 途中で何気なくスキャンするため、アプリを立上げ読み取り準備可能な状態にした。

 俺達は移動をはじめ、プレスコットまで1メートルを切ったところでスキャナを構えた。

 そして彼女の横を通過した時、パレスコットは右手で、その読み取り部を遮った。


「ちょっと、これはどういうつもりかしら」

「申し訳ございません。機材の調整をしていました」

 文句を言ってきたので、俺は適当なウソを並べた。

 もう少し、まともな事いえないのか俺は…。


「気をつけて頂戴。まったく教育がなってないわね、この店」

 あぶなかった。

 レジカウンターで用事を済ませたフリをした俺は、復路でもう一度スキャンを試みることにした。

 このスキャンの難しいところは、首筋をスキャンしないと、相手のステータスを読み取れない事だ。


 2人で戻ると怪しいので、ホイットニーさんはレジに残ってもらった。

 

 俺は背後からゆっくりとパレスコットに近づいた。

 さらに、50センチまで接近したところでスキャンボタンを押し、10センチまで接近した時、再び彼女の右手が出てきた。

 こいつ、後ろに目でもついてるのか?


「ひつこいわね、何のつもりよ」

 彼女が俺の方を向いたので目が合ってしまった。

 俺は彼女の双眸を見つめ、喉を震わす。


「何がですか?」

 いや、ここは素直に謝るべきだったか?


「あなた、その装置を私に向けたでしょう?」

「まさか、偶然そちらを向いていただけです。何か困る事でもあるのですか?」

 逆に煽ってしまった。


「いや、困る事なんてないわ。単に不愉快なだけよ」

 彼女は少し間をあけてから返事をした。

 やはりスキャンされるのは困るようだな、でも今は謝罪しておくか。


「お気に障ったのでしたら謝罪いたします」

 俺は軽く頭を下げ彼女の前から立ち去った。


 パントリーに戻るとディモナさんとニアがいて、上村さんが今の状況を教えていた。


「スキャン作戦は失敗でした」

 俺が報告すると、ちびっ子女神達が次の作戦を説明し始めた。 


 パレスコットの後ろの席は魔女っ子席となっている。今ちょうどお客さんがいるので彼らの前でパフォーマンスを行い、そのどさくさに紛れスキャンするプランらしい。

 その席に行く口実を作るため、ディモナが小さなケーキを用意してくれた。お店からのサプライズという設定だ。


 スキャン役はシルで、アランデールは脚立の上から生足パフォーマンスをする。

 そのどこかタイミングのいい時を見計らってシルがスキャンする。


 手順の確認を終えた2人はパレスコットの後ろの席へ向かった。


「じゃじゃーん!我が僕となった貴様らに、新世界の神アランデール様からケーキを下賜してやる」

「なんと有難い、アランデール様!」

 作戦通り、魔女っ子席は大きなお友達が盛り上がっている。

 アランデル―は用意した脚立を広げ上がった。


「我が召喚獣シダーミルよ、切り分けてやれ」

「がるるーー」

 シルはケーキを切り分けた直後、少し横を向きスキャナをパレスコットに向けた。

 スキャンボタンを押した瞬間、パレスコットの左手がスキャナを制した。


 そして、 ――パチンッ、パチンッ!と彼女の手が勢いよくシルの頬を叩き、立ち上がると、アランデールの頬も叩いた。

 

「まったく、この店のは教育がなってないわね、馬鹿なの?」

 2人は泣き始めた。

 店内は一瞬にして凍りつき、同時に周囲からも視線が集まる。


 しかし、シルはスキャニングに成功していた。

 パレスコットがアランデールの方へ身を乗り出した時、首筋から約5センチの位置でスキャンしていたのだ。

 それから気づかれないようシルはウソ泣きを始めた。パレスコットもうまく泣いている。


「あの女、アランデール様に手をあげやがった」

 今まで冷静だった上村さんが、顔を真っ赤にして怒り始めた。

 これはまずいぞ。


「落ち着いてください。シルちゃんが俺にウインクしてきてたので、彼女達は演技で泣いているのかも知れない」

「そうなのですか?」

 少し落ち着きを取り戻してくれた。

 そこにシルとアランデールが泣きながら戻って来る。

 入れ替わりに、ディモナと厨房から出てきた店主がパレスコットのところへ行き謝罪を始めた。


「ユビーさんスキャン成功です。休憩室で結果を見ましょう」

 俺は、シル達を落ち着かせてくると厨房スタッフに告げ、休憩室へ移動した。上村さんもついてきた。

 中に入ると俺は2人の頬の様子を見ることにした。


「シルちゃん、アランデール、様、頬は大丈夫かい?」

「結構痛いです。耳もキーンって音がしていますが大丈夫です」

 パレスコットはビンタが下手だな。耳に影響を出すようじゃダメだ。


 次に俺はアランデールに視線を移した。

 こちらは嗚咽しながら「痛いよぉ~」と泣き続け、上村さんが慰めていた。

 どうやら本泣きのようだ。シルちゃん頑張ったな。泣かなかったもんな。


「では、タブレットを見てみましょう」

 シルはタブレットの画面を表示させた。

 

――― パレスコット ――

転生数:**     △

種 族:天族    

職 業:飲食経営    

ランク:AA    

STR:**

DEX:**

INT:**

幸 運:90

知 性:A

速 さ:B

防 御:B

魔 術:A

ユニークスキル:** ▽

――――――――――――


「本当にパレスコットだったのか…」

 シルちゃん渾身の演技も無駄になったか。


 少し時間を置いてニアがパソコンを持って部屋に入って来た。


「どうだった?」

「彼女はパレスコットのようだ」

 俺はそう伝えたが、画面を見たニアは何か疑問を持ったようだ。


「データを私のパソコンに移すぞ」

 転送を終えたニアは、プログラムを立ち上げデータを調べ始めた。


 画面上を文字列が流れていく。

 前も思ったけど、魔王よりプログラマーの方が絶対似合ってる。 


 そんなことを考えていると、後ろからアランデールの声がした。


「シダーミル、私はもう大丈夫よ、僕たちが寂しがるから戻りましょう」

「がるるー」

 頬に手の形をうっすらと残す女神達は仕事に戻った。


「アランデール様の機嫌が戻って小生も安心しました」

 上村さんは安堵した様子だ。


 パレスコットも平手打ちはやりすぎだろ、俺がいた元世界であれをやったら間違いなく警察行きだ。

 警察?


「この世界にさ、警察ってあるのかな?」

「天族は悪事をしないって事になってるから、無いと思いますよ」

 上村さんが答えてくれた。流石情報通だ。


 突然立ち上がったニアが「やはりな」と言った。

 そして俺の方を向き「ユビー、画面を見てみろ」


 俺は言われた通り画面を見た。


――― プレスコット ――

転生数:**     ▲

種 族:天族    

職 業:女神(転生ルーム) 

ランク:A    

STR:**

DEX:**

INT:**

幸 運:70

知 性:A

速 さ:B

防 御:B

魔 術:B

ユニークスキル:** ▼

――――――――――――

 

「ユビー殿、小生はホイットニーさんを呼んでくる」

 やはりあいつはプレスコットだった。


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