19話、天界でアルバイト!? (2)イベントは大盛況
役割を確認した俺達は、用意されていたコスチュームに着替えた。
ニアは、黒を基調とした可憐で魅惑的なドレスで、彼女が纏うと悪の女王と言った感じもする。
姉役のディモナは、白いドレスで清楚なハイエルフのようだった。
ちびっ子女神達は、少々露出度のある小悪魔的衣装と眼帯+とんがり帽子だ。
セリフは2人とも高飛車な感じで高圧的に振舞う予定だが、シルには少々荷が重いか。
そして俺と上村さんは燕尾服で、店の入口でお客様を出迎え普通に案内する。
その筋の女性客が来た場合は、入口をホイットニーと交代して俺達が接客にあたる。
準備が整ったところでイベント開始。時間は午前11時30分。
今日は店内を3区画、一般&執事、エルフ、魔女っ子に割り、それぞれ接客する事になっている。
開店して30分経つ頃には、俺達の受け持つ席を除き、ほぼ満席となった。
需要があるのはエルフと魔女っ子だ。
エルフ席を見ると、ニア、ディモナペアが接客しているところだった。
「良く来たなご主人様!この店に来た事を誉めてやろう。さぁメニューを見て注文するがよい」
ニアが胸を揺らしながら挨拶すると、客は胸に釘付けとなる。
間髪入れず姉役のディモナが乱暴な言葉遣いを注意。
「いけませんわプレストニア」
といってご主人様に軽く謝罪をしオーダーをとる。
どうもこの姉妹のギャップがいいらしい。
次に人気なのが魔女っ子席だ。こちらも接客中だ。
「シダーミル、なにぼさっとしてるの、さっさと挨拶なさい」
テーブル前に立った2人は、右手を眼帯の前で止めポーズをとりながらセリフを言う。
「わ、我が名はシダーミル、我を召喚したのは汝らがぁ(噛んだ)汝らか!」
「ぉー可愛い!そうです僕たちです!」
この席のお客さんは、オーラが他の人達と違っていた。眼光も鋭い。
「よ、よかろう。血の盟約により、我、貴様らのオーダーを叶えよう」
シルがセリフの棒読みを終えると、アランデールが脚立をセットし上がった。
「お前達、我にひれ伏しオーダーするが良い」
「おぉー!」
アランデールは脚立の上から私の足をお舐めと言わんばかりに生足を机の上に出した。
テーブルのお客はスマホで撮影大会、凄い盛り上がりだ。
シルは彼女が落ちないように下で支える役。あくまで主役はアランデールなのだ。
「我が僕シダーミルよメモをとるのだ」
「はい、いえ、御意!」
双子の姉妹設定はどこかへ行ってしまい、従僕関係になったようだ。
がんばれシルちゃん!
「アランデール様、ご立派でございます。流石は我らの教主様だ」
上村さんは目頭を熱くさせアランデールの奮闘を見ていた。
俺達は暇だったので、少し雑談をする。
「アランデール、様は(呼び捨てしかけたら睨まれた)いつもあんな感じなの?」
「そうですよ」
「どのあたりが楽しいの?」
「おや、ユビキタス殿はシダーミル様のアドバイザーなのに、幼女神の魅力が分かりませんか?」
魅力?なんだろう、普通に可愛いじゃダメなのか?
ヤバイほうの幼女趣味じゃない事を願おう。
「普通に可愛いじゃダメなのか?」
「それです。分かってらっしゃる。小さいのに必死でがんばってる姿がけなげでしょ?」
「確かにそう見える場合もあるかな」
「我々はそれを間近で応援してあげたいだけなのです。アランデール教と名乗っていますが、実際は単なる応援団なのです」
「応援団ですか…」
「そうです、我々の仲間の多くは異世界の生活に疲れた者が多く、癒しを求め極楽浄土へやって来たのです」
転生リストのひと言覧に、今なら僕にしてあげると書かれていたが、それのどこが癒しなんだろう。
さらに、ニアの話では勧誘が酷いとも言っていた。
「でもウチの魔王は、あなたの世界でアランデール教へ入信を強要されたと言ってたけど?」
「それは正確ではないです。確かに強くお勧めしましたが、彼女は我々を第一印象で気持ちわるい悪の集団と判断したようで入信を拒否しました」
「俺も拒否した事は聞いています」
「この話には続きがありまして、転生後1時間以内なら、我々の世界を去る事ができるのに、それをぜすに我々に立ち向かってきたのです。やむを得ず魔王を退治をしました」
なるほど、アランデール教=悪と判断し、世界を邪教から救うため討伐を試みたという事か。
しかし、それは魔王ではなく勇者の仕事じゃないだろうか。そう思うのは俺だけか?
「そういう事だったのか」
「そうです、あくまでも我々の世界のルールに則り成敗したまでです」
悪と決めつけてしまったニアにも若干問題があるわけか。
あとで説明しておいてやろう。
「ともあれ、我々は共に幼女神をサポートする立場、仲間と言っても過言ではありません」
上村さんは俺に握手を求めてきた。
彼らとは少しスタンスが違うが、まぁいいか。仲間は多いに越した事はない。
「ところでユビキタス殿、これは小生の他世界にいる仲間から仕入れた情報なのですが」
「俺の事はユビーでいいよ」
「ではユビー殿、近々世界作りのルールが変更されるようです」
「えっとそれはどういう事?」と聞き返した時、俺達のところにもお客さんが来た。
「お帰りなさいませ、お嬢様方。こちらにお掛けください」
上村さんがお客さんを案内し、俺は席を引く役をした。
「本日のお勧めはこちらでございます」
彼はお勧め品の内容も正確に覚えており、ゆっくりと甘い口調で云う。
それを聞いた女性客もうっとりしていた。俺には真似できない。今日は執事見習いで頑張ろう。
「イエス、マイレディー」
オーダーをとった上村さんは、軽く頭を下げ厨房へ向かった。
俺も彼の真似をし後ろについていった。
「上村さん、完璧じゃないですか!」
「いや、昔みたアニメのセリフを真似ただけです」
やはりこの人は、俺の元世界出身だな。
それは後で聞くとして、ルール変更の話が気になる。
「そうだったんですか、そう言えばさっきのルールが変更されるってお話は?」
「そうそう、実は成績の悪い世界同士を統合する話が出ているようなのです」
上村さんによると、現行のルールでは5年で人口100万をクリアすればよかったが、90万台で止まっているところが多いらしく、そう言った世界への救済策として下位の世界を統合し、ノルマをクリアさせるプランがあるようだ。
そして、シルやアランデールのような最下位の世界についても統合するようだ。
「ちょっと待ってくださいよ。これから人口増加を目指してるのに、いきなり終了って事ですよね?」
「そうなります。ちなみに人口では我が極楽浄土のほうが上ですが、ユビー殿世界は地形の設置が全て終わってるので、ポイントはそちらの方が上なのです」
草原しか無い世界でも、全エリアを埋め尽くしているから地形は完成とみなされてたんだな。
「仮に統合が行われる場合、我々はユビー殿の世界に吸収される形で統合。それから更に他世界と統合されると思われます」
「統合されたら俺達の扱いはどうなるんでしょう?」
「それは小生にもわかりかねます」
ここで先ほどオーダーした料理が出来上がったので、一緒に運ぶことにした。
上村さんが先に歩き、俺はそれをワゴンに載せて運んだ。
「お待たせいたしました。ポーチドサーモンとカンパーニュ…」
彼は一品づつ丁寧に説明をし、テーブルの売れに手際よく皿を並べていく。
その手際の良さは、まるで黒っぽい執事そのものだ。
同じアニメを見ていたに違いない。
厨房前のパントリーに戻った俺達は話の続きをした。
「他に何か情報はあります?」
「そうですね、なぜ急に天界がルール変更を検討し始めたかですが、これは情報を収集中でして何か分かれば連絡します」
「ぜひお願いします」
俺達はチャットのIDをお互いに交換した。
「ユビー殿、天界の裏側で何かが動き始めている事だけは間違いありません。我々の女神様を守る為にも協力していきましょう」
「こちらこそ」
俺達は再び固い握手をした。
そして、これを見ていた女性客が頬を染めていた。恐らくその筋の方なのだろう。
妄想するのは自由だけど、俺達はそんな仲ではない。
◇ ◇ ◇
14時を過ぎたあたりからティータイムのお客さんが入って来た。
流石に暇だった俺達の区画も少し忙しくなった。
ニアとシルが気になったのでパントリーから見てみると…。
「さぁご主人様、魔王が作った特製ケーキを食べるがよい」
「魔王様!胸の上に置いてください」
「ふざけるでない!」
ゴツン、魔王のゲンコツがご主人様の頭部にヒット。
しかし彼らは嬉しそうだった。
「はしたないですよプレストニア」
姉役のディモナが止めに入り、軽く謝罪後ヒーリングの魔法をかけていた。
どうやら彼女は魔法が使えるようだ。そのエフェクトも美しく、ご主人様達も魅入っていた。
このペアは、ニアが魔王役で暴力をふるい、ディモナがヒーリングでそれを癒すプレイに変更したようだ。
殴られてるご主人様も嬉しそうなので、その筋の方なのだろう。
次に魔女っ子を見てみる。こちらも演出が派手になっていた。
「見よ、これぞ我が暗黒魔法最大の秘術、ファイアーメント・ディス・ワールド」
「おぉーすげー!」
テーブル上のケーキから炎があがったのだ。
少し離れた所にいるホイットニーが、アランデールの詠唱に合わせて炎の魔法を使ったようだ。
「我は新世界の神となる者、崇めよ!」
「アランデール様!」大きなお客さん達はひれ伏していた。
というか、あんた現役女“神”だろ。
ところで、うちの女神様はどこだ?
…いた。アランデールの後ろに。
「これは我の召喚獣シダーミルだ。さぁ、ケーキを切り分けるのだ」
「ガオー…」
「うおー可愛い」客席は大盛り上がり。
どうやら、うちの女神様は召喚獣に格下げとなったようだ。人のセリフすらない。
衣装もいつの間にか角が生えた魔物タイプに変更されている。
がんばれシルちゃん!
「ユビー殿、次のお客さんが入ってきそうですよ」
俺が視線を入口へ向けると上村さんが扉を開いた。
次のお客さんは女性なのでお嬢様だな。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
言って顔を上げると目の前にいたのは。女神プレスコットだった。
え?




