18話、天界でアルバイト!?
俺達は、昼ご飯を食べようと思いメイドカフェを目指していると、お店のエルフさんにバイトして欲しいとお願いされた。
いきなり言われても困るので妖精さんに理由を尋ねた。
「今日は大切なイベント日なのですが、昨日メイドがライバル店に引き抜かれたのです」
「え?ライバル店なんてあるの?」
「はい、駅の反対側にあるのです」
結構シビアな世界だな。
天族同士仲良くやってるのかと思ったが、これじゃ俺の元世界と変わらない。
「どうかお願いします。交通費、バイト代も出しますし、食事もサービスでつけますよ」
「それは好きなメニューを選べるのか」
魔王が乗って来たぞ、確かに条件は悪くない。
「みなさん、やりましょう!」
シルちゃんはサービスに釣られたようだ。
俺達は妖精さんに連れられて、カフェエンジェルに向かった。
中に入ると、エルフのお姉さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様、ご主人様」
「ディモナ、この方たちは今日手伝ってくださる方々よ」
「そうだったのね、本当に助かります。私はディモナといいます」
「私はホイットニーよ」
エルフがディモナさんで、妖精さんがホイットニーさんだな *メモ*
「でもホイットニー、あと2人足りないわね」
3人も来たのにまだ足りないとか、一体どんなイベントなんだ?
「えっと、どんなイベントをするつもりなの?」
俺の質問にディモナが答えてくれた。
今回は、お得意様向けのイベントで、テーマは双子。
エルフ、ちびっこ、執事の各双子がおもてなしをするらしい。
本当に喜ばれるのかどうか疑問の残る内容だが、俺の店じゃないので深く考えないでおこう。
「なるほど、という事はちびっこと執事が足りないって事か?」
「はい、その通りです。どなたか、お心当たりの方はいませんか?」
ディモナが俺に尋ねてきた。
ちびっこかー、ちびっこ…、アランデール…。あいつか…。
「シルちゃん、アランデールに連絡取れるかな?」
「はい、彼女を呼ぶのですか?」
「そうだ、あれしか心当たりがない」
「確かに、私もあれしか知りません」
「それはやめろ!、あいつらに関わりたくない」
アランデールの名を聞いたニアは顔をこわばらせた。
それに気づいたシルが話しかけた。
「ニアさん、大丈夫です。心配しないでください。私がいるから安心してください」
今度はシルちゃんがニアを励ますターンか。
でも、何がどう安心できるのか全くいってない。
俺も何か言って安心させておくかな。
「ニア、俺もいるから安心しろ、いざとなれば俺が守ってやるさ」
「そうか、それは頼もしいがユビーはレベル1だったのでは?」
言われてみればそうだ。俺レベル1じゃん。
「大丈夫だ、奥の手がある心配するな」
本当はノープランだけどな。
でも俺には、99の世界を渡り歩き、蓄積された知識と経験がある。
それを生かせばなんとかなるだろう。
それからシルはSのマークが入ったアイコンを押しアプリを起動。
即座にアランデールから返事があった。
「何かごようかしらシダーミル、相変わらず不細工ね!」
今回は音声チャット、いや、ビデオチャットだ。開口一番不細工ときた。
なんとこの前、堕女神で検索した画像そっくりの状態が展開されている。
元ネタ不明のコスプレをしたアランデールの周りを、大きなお友達が囲んでひれ伏している。
人選を誤ったな、俺。
その映像を見たホイットニーが近寄って来て、アランデールをスカウトし始めた。
「あなたが女神アランデール様でいらっしゃいますでしょうか?」
「そうよ!私は忙しいの、用があるならさっさと言いなさい」
これは相当ヤバイ子だ、俺の本能がそう告げている。
正直ニアを守れる気がしない。
「あなた様のご活躍はよく耳にしております。是非、私達を助けて欲しいのです」
「良くわかってるじゃない」
「これはあなた様にしか頼めないのです」
「いいわ、話だけ聞いてあげる」
ホイットニーさんうまいな、俺もそこまでは無理だ。
「私たちは天界の通称アキバと言われる場所で、カフェをやっておりまして…」
ホイットニーは今回の説明をした。
話のポイントは「あなたにしか出来ない」「あなたは偉大な女神様です」といった言葉を多用し褒め称える事だ。
アランデールは完全に乗せられていた。落ちるのも時間の問題だろう。
「ですから、何卒よろしくお願いします」
と言って、ホイットニーは深々と頭を下げた。
「分かったわ、今回だけ特別にアランデール様が出張してあげる」
「ありがとうございます。あなた様は恩人です」
今度はディモナも一緒に頭を下げた。それを見た幼女神はご満悦の様子だ。
音声チャットと終えたると、空腹がピークに達したため、まかないのピラフを頂いた。
残り物の具材をいろいろと使ってるのだが、これがまた旨い。
シルちゃんは具材をメモしていたので、近いうちに我が家でも食べれるだろう。
◇ ◇ ◇
ちょうど食べ終えたタイミングで、女神アランデールがやって来た。
「待たせたわね。私がアランデールよ」
アランデールの背丈はシルに似ており、違いは髪の色が黒色という事だ。同じ色だったら双子に見えなくもない。
ちなみにラマには似てなかった。(ペットのアランデールは、女神アランデールに似ているから名づけられた)
そして女神の後ろに、もう1人男性がいた。信者かな?
「私はアランデール様のアドバイザー、上村といいます」
上村さんか、その名だと日本人かな?あとで聞いてみよう。
「お待ちしておりました。アランデール様、上村様。私はホイットニー、こちらはディモナです」
「ディモナです。宜しくお願いいたします」
2人はアランデールに向って深々とお辞儀をした。
「おや、こちらにも可愛い女神様が!」
シルに気付いた上村が近寄って来た。
「なんと可愛らしい、アランデール様ほどではないですが」
シルちゃんが引きつっているな、大丈夫かな。
「是非とも【極楽浄土】にお越しください。アランデール教は小さい女神様の味方です。困ったときはいつでも頼ってください」
そして上村はニアに視線を移した。
「おや、誰かと思えば魔王じゃないですか」
「私の方をみるな!」
「また会えるとはね。安心しろ今日は何もしない。胸だけが取り柄の貴様に用はない」
よほど酷い事をされたんだな。ここまで怯えるニアは珍しい。
上村さんはヤバそうだなんて思っていたら、突然「パチパチ」と手をたたく音がした。
「コホン、えぇーみなさん、本日は宜しくお願いします。では役割の説明をさせていただきます」
場の雰囲気を察したディモナは、声を張り上げ皆を注目させた。
「プレストニアさんは、私と一緒にエルフの双子役をやります。性格はお互いに異なります。詳細はのちほど」
「わかった」
この2人はもう言わなくてもわかるだろう。胸の膨らみが半端ない
どちらも甲乙つけ難い。
「アランデール様とシダーミル様は、双子の魔女っ子役をお願いします」
「当然私が姉よ、シダーミルは私の下僕よ」
「え…なぜですか?」
ここはシルちゃんが苦労しそうだな、アランデールのキャラが濃すぎる。
10歳児が中二病を患った場合は何と言えばいいのだろうか?
「ユビキタスさんと上村さんは執事をお願いします。どちらが兄になるかは話し合ってください」
「わかった」「わかりました」
上村さんて、どんな人なのだろうか。
ニアが恐れるくらいだ、気は抜けないな。
「これが各役の詳細です。あとで簡単に練習をしますので、まずはそれを見てください」
といって、ディモナは説明の書かれた紙を配り始めた。
◇ ◇ ◇
俺達は各ペアにわかれ、役決めやセリフの練習を始めた。
「それではニアさん、私たちの役割を決め、セリフの練習をしましょう」
「うむ、わかった」
良く分からない単語がたくさんならんでるな、ツンデレ、魔王風とはなんだ?
良く来たな勇者よ褒めてやろう、という事か?
「さてニアさんのキャラですが、野性味あふれる妹を演じてください」
野性味あふれるだと?とりあえず言ってみるか。
私は(お帰りなさいませご主人様、こちらへお座りください。メニューはこちらになります)を魔王風に想像して言ってみた。
「良く来たなお客様!ここまで来たことを誉めてやろう。さぁこのメニューから選ぶがよい!」
もう一つはセリフが書かれていたので、それっぽく読み上げた。
「べ、別にあんたのために持って来たわけじゃないんだからね!仕事よ仕事!そう!生活のためなんだから!」
さっぱりわからんぞ。これのどこがいいのだろうか。
「いい感じだわ、魔王が似合ってるかしら」
そりゃ私は現役だからな…。
◇ ◇ ◇
シルはアランデールとホイットニーさんが間に入って練習するようだ。
「それでは、アランデール様が姉でシダーミル様が妹でいいですね?」
「違うわ、シダーミルは下僕よ」
ホイットニーが尋ねるとアランデールが姉妹ではなく従僕関係を持ち出してきた。
「だから、なんで私が下僕なのですか?」
「決まってるじゃない、私より成績が下だからよ」
ほとんど私と同じだったくせに、どの口が言ってるのでしょうか。
そうだ、スキャンして結果を見せれば彼女も大人しくなるでしょう。
シルはタブレットを取り出すとアランデールをスキャンし彼女に見せた。
――― アランデール ――
転生数:** ▲
種 族:天族
職 業:女神
ランク:F
STR:**
DEX:**
INT:**
幸 運:70
知 性:C
速 さ:E
防 御:E
魔 術:C
ユニークスキル:** ▼
――――――――――――
「げっ、そのスキャナ壊れてるのよ!例えFだとしても、速さと防御はあなたより上よ」
幸運と知性が私より下だし、よく言えますね。
「あんたのも見せなさいよ」
確かに、私のも見せないと不公平ですね。
シルは、タブレットで自身のステータスを表示させた。
「あんたもFじゃない、ププププ」
「えっと、それじゃアランデール様が姉でいいですか?シダーミル様」
「不本意ですがわかりました」
ホイットニーが尋ねるとシルは不服そうに承諾した。
そしてアランデールはシルの眼帯に視線を向ける。
「あんたイカした眼帯してるじゃない」
と言うと、シルの眼帯を引っ張り始めた。
「ちょっと取らないでください!」
「げ、あんたその目!やっと暗黒世界の良さが分かったようね」
真っ赤な目を見たアランデールは、シルがこちらの世界に来た(真っ赤な目をコスプレの一環と思った)と勘違いした。
◇ ◇ ◇
残るペアは俺達2人だ。
「さて、我々はどうしましょうか?」
「上村さんが兄でいいですよ」
「いいえユビキタスさんのほうがお似合いでしょう」
結局、上村さんが兄で落ち着いた。




