16話、山脈作りと資源配置
午前中、王都と港町シリアルポート間の地形を完成させたので、全体の完成率は60%になった。
今日の目標は夕方までに島の西側を完成させる事だ。これが終われば70%完成する事になる。
町の南側に、島中央から連なる山脈があるが、これをさらに西へ伸ばし海岸線まで持って行こう。
この山脈を越えるのは、あえて厳しいようにしておいた。
冒険者の中には、土地や資源開発が得意な者も少なくない。
俺が【異世界】ウルフデールに体験した資源開発の話。
その世界で俺は鉱石商をしていた。
ある日、新たに鉱山を作る計画を耳にし、最寄りの町まで行くことになった。
俺がついたとき、街中は同じ目的を持つ者や仕事を求めてやってきた者達で活気に満ちていた。
鉱山開発のまとめ役は最寄りの町で、首長が中心となり開発資金の調達に苦労しているようだった。
いくつもの商会が融資を提案していたが、どれも町にとって不利なものばかりで、鉱山の運営は全て商会が取り仕切り、町には利益の1%を還元するという物だ。
それは地元にあまりお金が落ちない仕組みだった。
そこで俺は、仲のいい同業に声をかけ合同で町に出資、町も地元からお金を集めて出資してもらう第三セクターに近い方式を提案した。
運営は町で行い、利益が出れば出資割合に応じて均等に分ける。
これならば、1つの商会が独占するよりは地元にお金が落ちる事になる。
これによって、開発の下準備は出来たのだが…。
いざ採掘してみると、なかなか金になる鉱石が出て来なかった。
ひと月、ふた月が経過し、みつ月が経過する事には、出資から手を引くと言い出す者もいた。
それをなんとか説得したが、あとひと月が限度と言われた。
俺は大枚をはたいて、世界でも有数の山師を呼び一緒に山中を歩くことにした。
雨の日だろうが関係なく山中を探した。
そしてある日、山師と俺は貔貅という希少な鉱物を食べるとされる猛獣を発見した。
彼らに気づかれぬよう後をつけると、谷底で砂金を発見した。
俺達は抱き合って喜んだ。これは今でも忘れられない。
それから周辺を採掘すると見事に金鉱を発見した。
その鉱脈は品質も良く、高値で取引されたので俺達や町も潤った。
だが俺は幸運マイナス100の男だ。
鉱山の拡張計画が持ち上がり、その調査を例の山師とする事になった。
山中を探す事ひと月、貔貅と再び遭遇した。
俺達は気づかれないよう後をつけたが、運悪く途中で見つかったしまった。
奴は鉱石を喰らう猛獣だ。
俺達は必至で逃げたがついに追い詰められた。
この山師は今後の鉱山開発に必要な人物だ。ここで死んでもらっては困る。
そこで俺は、自らが囮となる事で山師を逃がすことを考えた。
過去、何度も勇者をやっていたので、その性がが染みついている。
いざと言う時は、己を犠牲にしてでも、他者を助けないといけない時がある。
この世界では今がその時だ。
そして俺は山師を無事に逃がした。
あの金鉱は今どうなってるのだろうか、少し気になる。
俺の像とか建ってたら嬉しいんだけどなー。
という事で、山脈に希少な鉱石をいくつか配置しておいた。
さらに資源のリストを見ると原油があった。
山脈の南側にそれを配置し、岩山から少し滲みだすようにしておいた。
将来この地を訪れた冒険者が発見してくれるに違いない。
ふとタブレットの時間を見ると、夕方の少し前。
帰るには少し早いので、完成した町のチェックも兼ねて散策に行くことにした。
せっかくだし、シルちゃんも誘ってみるかな?
彼女はお昼からずっと寝ているようなので、起こすことにした。
「シルちゃん、そろそろ起きなよ」
俺が彼女の体をゆすると、ピクっと動いたのち目を覚ました。
「あわわわ、私ずっと寝ていましたか」
シルは起き上がるとタブレットで時間を確認した。
「もうこんな時間じゃないですか!、ユビーさん起こしてくださいよ」
「だから、今起こしたんだけど」
「もっと早くです」
シルは必至で訴えてきたが「よしよし」と頭を撫でてあげると、おとなしくなった。
「一区切りついたので、完成した町を散策しようと思ってるんだけど、一緒にどうだい?」
「眠気覚ますために行きます」
ついでに、高速タイピング中のニアも誘ってみることにした。
「ニアも来るか?」
「いまいい所なんだ、せっかくのお誘いだが私は作業を続けさせてもらう」
どのようにいい所なのか気になるが、好きなようにさせておこう。
俺はシルちゃんと一緒に街中へ向かた。アランデールも彼女の後ろについて来てる。
港町シリアルポートは最初のエリアで最大の港町だ。主な産業は漁業で、将来他のエリアが稼働すれば貿易港になる予定。
それを見越して、町の周辺は拡張がしやすい地形にしてある。
街中は、海沿いは碁盤目の街路にし、倉庫や商館をなどを設置した。空き地も多いので取引所や、大型の造船所も将来できると思っている。
海エリアと陸エリアの境目に、役場や教会、ギルドの支部、銀行を配置、陸側エリアは居住区で、こちらの街路は少々入り組んだ作りになっている。
これらは全てシルが作った物で、俺が作ってきたトロイやバイオスを参考にしたそうだ。
「そういやシルちゃん、この島の名前と国の名前考えてなかったんだけどさ、国の名前はトロイヤなんてどうだろうか?」
「とても素敵だと思います」
王都がトロイなので、適当にトロイヤにしたのが素敵と言われてしまった。
あとは島の名前だな。
「島の名前は、例えばシルちゃんが住んでる島だから、シダーミル島でどうだろうか?」
「それはちょっと恥ずかしいですよ」
「それじゃ何か案はあるかな?」
「そうですね、バックドア島なんていかがでしょうか?」
「え?」
バックドアって確かパソコンのセキュリティーホールとかウイルスで使われてなかったか?
今回はさすがに止めた方がいいような気がする。バックドア島の王都トロイって、コンピューターウイルスに汚染されたような危険地帯というイメージしかない。
「シルちゃん、バックドアってねコンピューターに悪さをするウイルスなど…」
シルが悲しい表情をし始めたので、俺は話を止めた。
仕方がない、バックドアで行こう
「えっと、なんでもないよ。バックドアにしようね。早く《Okay》してね」
「本当ですか、うれしいなー」
こうして国名と島名が決定した。
こうなりゃ、昼から作る町の名前はワームで決まりだな。
こして最初のエリアネーミングは全て決定した。
島の名前:バックドア
国の名前:トロイヤ
王都:トロイ
始まりの町:ノースブリッジ
鉱山の町:バイオス
港町:シリアルポート
第四の町:ワーム
完璧だ。
なお、シリアルポートはNPCを70人配置し、漁師は35人にする予定。
◇ ◇ ◇
居住区の確認を終えた俺達は、港に戻る事にした。
銀行前を通り、倉庫街を抜けると港だ。
海沿いのベンチではニアが引き続き高速タイピングしていた。
シルちゃんのブランドタッチも早いんだよな。
俺が一番遅い…。
「ニア、街のチェックは終わったぞ!」
「それはご苦労だったな」
俺の呼びかけに素っ気ない返事が返って来た。
「そっちはどうだ?」
「いまAIの試作が完成したところだ」
早いなおい。俺の予想では明日になると思っていた。
「早速テストを始めたいので、《Okay》を押してくれないだろうか」
「わかりました」
シルが押すと、一体の男性NPCが現れた。
彼の名はエドワード、この町の漁師らしい。シルが挨拶した。
「こんにちは!」
「やーお嬢ちゃん、今日もいい天気だね」
シルが挨拶するとエドワードが笑顔で返事をした。
それほど良い天気でもないが、まぁいいだろう。
「私はシダミールと申します」
「俺はエドワードだ、ワードと呼んでくれ」
普通はエドだろ。
「私の事はシルと呼んでください」
「オッケーだ、ハッハハハハ」
ワードは笑ったのち視線を、シルからニアの胸に移動した。
「そこの胸の大きなねーちゃん、そこの裏で俺とどうだい?」
「何をしようというんだ?」
いきなり話す相手がニアに変わったぞ。
「おいおい、俺に言わせるのかよ」
「だから何をしたいのだ?」
「じれったいな、幾らだねーちゃん。金なら持ってるぜ」
その瞬間ニアの右ストレートがワードの右頬にヒットし、彼は吹き飛んで気絶した。
「シル、悪いがテスト終了だ」
「あっ!、ニアさんにテストの実行権限を許可したので、ご自身でできますよ」
「それはありがたい」
ご自慢のAIは失敗だったようだ。
「ニア、どういう設定にしたんだ?」
「長い間航海を終え、さっき港に帰って来た船乗りという設定にしたんだ」
そういう事か、そりゃ目の前にあの胸があれば声を掛けるわな。
娼婦と間違えられたんだ。
「久しぶりに陸にあがった船乗りが、ニアを見たらどう思うか想像できるか?」
「私をか?」
「ユビーさん、わかりました!」
意外なところから返事がきた。
「ユビーさんと同じで、ワードさんは胸の大きなおねーさんが好きだから、私との会話を止めニアさんに話しかけたのですね」
「俺と同じでってのは不要だかねシルちゃん」
惜しい所までいってるのだが、これは子供には刺激のある話だし、ニアにこっそり伝えよ。
「ニア、ちょっと耳貸してみ」
俺はニアにそっと耳打ちした。
「なるほど、そういう事か。私の体はそれほど魅力的なのか?」
「悪くはないと思う」
正直いいと思う。頼むから、毎朝胸をさらけ出すのは止めて頂きたい。
「何を話してるのですか?私に秘密とかずるいですよ」
シルちゃんにはまだ早いんだよな…。
「シルちゃん、ごめんな大人の話なんだ」
「わかりました。卑猥な話しをしてたのですね」
意外と鋭いなこの子。
「じゃシルちゃん、子供はどうやって作るんだい?」
「愛し合えば、それを察知した大きな鳥が運んでくるのです。学校で教わりました」
やはり女神学校はおかしい。でも今回に限っては助けられたかな。
「良く知ってるね」
「私は女神ですからね、隠し事は通用しませんよ」
「正直に話すよ、ワードは長い航海で疲れたんだ。そして港についたら胸の大きなおねーさんがいた。そしてワードは一目惚れしたんだ。ニアに」
「なるほど、そこまでは分かります。なぜそれを私に隠すのです?」
「ワードはニアが好きだが、彼女はワードが好きじゃないんだ」
「はい」
「そしてニアは彼にお断りしますという意味も込めて殴ったんだ。そんな大人のどろどろしたやりとりを、無垢なシルちゃんに聞かせたくなかったんだ」
「うーん、どこがどろどろしてるのでしょうか?それに矛盾点がいくつかありますが、私に見せたくなかったのですね?」
「そういう事だ」
なんとか誤魔化せたかな?
「違うだろユビー。あいつは私を裏で…」
俺は手でニアの口を押えて黙らした。空気読めよ魔王!
もう一度耳元でささやくと、やっと理解してくれた。
おまけで、耳元に息を吹きかけるとニアは「ヒャァッ」と可愛い声を上げていた。ウィークポイントらしい。*メモ*
「そういう事だシル、隠して悪かったな。次からはちゃんという」
「そうでしてください」
ニアはシルに謝罪した。
しかし、いつまで誤魔化しきれるかな。シルちゃんに反抗期が来てグレない事を祈ろう。
「NPCのAI調整は今夜続きをする事にする。パソコンのバッテリーがそろそろ切れそうなんだ」
そういや俺のタブレットも結構減ってるな。予備のバッテリーをシルちゃんにお願いしよう。
「それじゃそろそろ帰りますか」
「うむ、賛成だ」
俺達は、タブレットやパソコンを片づけると、3人+1匹で手を繋いだ。
転送を終え目を開けると、いつもの家が目の前にある。
俺は家に入ろうとしたが、シルとニアはアランデールの世話を先するという事だったので、一番風呂の権利を頂く事になった。
◇ ◇ ◇
風呂から出ると、夕ご飯が用意されていた。
今夜のメニューはハンバーグだった。
「ユビー、これをこねたの私だ」
ニアはドヤ顔だった。
「ニアさん凄い力があるので、あっという間にこねちゃったんですよ」
「そうか、このハンバーグはニアのおかげで出来たのだな」
こう言っておけば、ニアも満足だろう。
3人揃ったしいつのもアレを…
「いただきます」
ニアはハンバーグに手を付けた。シルちゃんはいつも通り。
俺は食べながら明日の作業内容をみんなに伝えた。
ニアはAIの調整とNPC設定、余裕があれば実際に配置。
シルちゃんは、4番目の町ワームのデザイン。
俺は、島南部のデザイン。
ここまでくれば、あと2日程度で最初のエリア全体でテスト稼働ができる。
それに問題がなければ、正式稼働だ。
ご飯を食べ終えたあと、俺は今日のやり残し作業を、シルは洗い物など家事を、ニアはあたらしいプログラム言語を勉強すると言って自分の世界に入って行った。
こうして7日目は無事終了した。




