11話、魔王が現世にやって来た
玉座にはダークエルフのお姉さんが座っていた。
彼女は褐色の肌で銀髪のロング、唇も白っぽくこの世の者とは思えない感じ。
「誰?」
「ユビーさんがアホ面しながら作ったNPCでしょ?胸も大きいじゃないですか!」
「いや、俺は王のデザインまだしてないんだ。それにNPCは未配置だ」
「じゃ誰ですか?」
確かに俺好みだが、自動配置のNPCかな?
「うるさいぞ」
なんだか偉そうな奴だな。
まさか新手のNPCか?
「お前たちは何者だ?ここは現世か?」
現世を知っている?
女神か?
「シルちゃん、あいつは女神かな?」
「違うような気がします。スキャンして確かめましょう」
シルはタブレットを取り出してダークエルフをスキャンした。
――― プレストニア ―――
転生数:23 ▲
種 族:ダークエルフ(雌)
職 業:魔王
レベル:100
STR:150
DEX:50
INT:150
幸 運:100
知 性:S
速 さ:A
防 御:A
魔 力:S
ユニークスキル:
キーピングメモリー ▼
―――――――――――――
「おい、魔王ってなんだよ!、しかもレベルマックスかよ」
「私にもわかりません。しかもキーピングメモリー保有者!」
「俺と同じタイプか」
「スキルだけでしたらね、他は雲泥の差」
「Fランクに言われたくないな」
「ぐはぁ…」
質問に答えず、2人で話てるのを見てプレストニアは苛立ちを覚え口を開いた。
「お前たち、私の問いに答えよ。さもなくば敵と見なし焼き払うぞ」
彼女は右手に炎を創り出した。
おい、ヤバイもの出してきたぞ。
どうしよう。ここは勇者っぽく強気で喋ってみるか
「貴様、いきなり俺の居城へ入って来て厚かましいぞ」
「それは悪かったな、で何者じゃ?」
「俺の名はユビキタス、元勇者で今はこの世界のアドバイザーだ」
勇者というフレーズを聞いたとたん、プレストニアの右手にある炎が火柱に成長した。
それを見たシルは、先日の襲撃事件を思い出し白目を剥いて倒れた。
「あーーシルちゃんしっかり」
アランデールが近寄ってきてシルを舐め、快方している(つもり)
これはヤバイ、優しく言ったほうが良かったか。
「落ち着くのだ魔王プレストニア、俺は前世界で魔王に敗れ勇者を廃業した。こちらで気を失ってるのは、この世界を司る女神シダーミル様だ。俺は彼女のアドバイザーだ」
「なぜ私の名を?」
「ここは我々の世界だ、知らないはずがないだろうが」
実際はスキャンして調べたんだけどね。
バレてないよね?
「それもそうか、しかし、そんなちびっこいのが世界の主とはな…」
「お前、女神様に盾突く気か?」
「いや、楯突く以前に、女神は私をみて気絶しておるではないか」
確かにそうなんだよな…。
めんどくせーな、帰ってくれないかな。
「残念だが魔王プレストニアよ、この世界はまだ作ってるところだ。未完成、カミングスーン、準備中、とにかく非営業だ。王都の周りは草原の世界、さぁお引き取り願おうか」
これだけ言えば帰ってくれるだろう。
本当に完成してないから。
「断る」
え!なんで、草原しかない世界なんだよ。
魔族もいないんだよ!
「聞こえなかったのか、ここに貴様がいても何もやる事はない!暇なんだぞ!」
「私は静かな世界を探しておったのだ」
「どういう意味だ?」
魔王によると、彼女は転生しても種族、職業が固定されていて、どの世界に行っても魔王らしい。
毎回勇者に倒されるので、異世界転生に絶望し天国を選択しかけた時、現世を見つけやって来たらしい。
俺と同じだ。
「貴様も俺と同じ理由だったか」
俺は自分の経歴を彼女に話した。
そして何度も頷いていた。
「お前も私と同じなのだな」
ここでシルが目覚めた。
「ユビーさん、あの人は怖い、危険ですよ」
「シルちゃん、大丈夫だ。彼女は俺と同じなんだ」
「どういう事なんですか?」
「ユニークスキルの犠牲者なんだ。俺は幸運がマイナス100だが、彼女は種族、職業を含むステータスが固定されている」
「それって、何度転生しても魔王に?」
「その通り、彼女の代償はステータスの固定」
俺はプレストニアに彼女自身のステータスを見せた。
「これが私か、天国に行かない限り固定されるというわけだな」
「おそらくな」
「女神シダーミルよ、ユニークスキルは解除できないのか?」
「通常のスキルと異なるので、解除できないと思います。少なくとも私は方法を知りません」
プレストニアはかなり落胆した。
「この世界は完成していないと聞いたが、私を置いてはもらえないだろうか?魔王としての知識なら十分に持っておる」
「プレストニア、ちょっとシル…女神様と相談するからそこで待っていてほしい」
「うむ、分かった」
俺はシルちゃん連れて、少し離れた場所へ移動した。
「シルちゃんは彼女の事をどう思う?」
「そうですね、例え魔王であっても冒険者が増えるのは嬉しい事です」
「とうことは、残ってもらって問題なしか?」
「もちろんです」
俺はシルちゃんにプレストニアの力を借りたプランを説明した。
彼女は恐らくダンジョン作りも出来ると思うし、この世界にダークテリトリーをデザインする事も出来るはず。
そうすれば魔族が好きな冒険者もこの世界に転生してくれる。
善vs悪の分かりやすい対立も作れる。
「わかりました。彼女も仲間に加えましょう。アドバイザー登録しましょうか?」
「プレストニアに話してからにしよう」
「わかりました」
彼女の前に戻った俺達は、シルちゃんと相談した事や俺のプランを伝えた。
「うむ、私も加えて欲しい。似た者同士、共に手を携え世界を創ろうじゃないか。アドバイザーとやらも喜んでやろう」
「そうだ、せっかく世界を創る側に回れたんだ、これを楽しまないのは損だ。どういう事で商談成立」
俺はもう一つ肝心な説明を忘れてる事に気がついた。
「一番重要な目標をちゃんと言ってなかったな。俺達は1年以内に世界を完成させ、冒険者を100万人呼び込む必要があるんだ」
「1年だと?」
流石にプレストニアも驚いたようだったが、シルの身の上話をするうちに少し同情したようで、目標達成のために力を尽くすと言ってくれた。
目標を確認したところで、3人は握手を交わし自己紹介を改めて始めた。
「俺は元勇者でアドバイザーのユビキタス、ユビーと呼んでくれ」
「私は女神シダーミルです。シルと呼ばれています」
「私は魔王プレストニアだ。今までは魔王と呼ばれていた」
これで魔王が加わり俺達は3人で世界を創っていくことになった。魔王がいるのは心強い。
「プレストニアの呼び名だけど、魔王っていうのはマズイ」
さて、彼女の事を何て呼べばいいだろうか。
流石に魔王と呼ぶのはまずいな…プレストニア、プレ、スト、ニア、プア?、これは貧乏くさいな。
ニア?これだ!
「プレストニアの後ろ二文字をとって“ニア”はどうだろうか?」
「いいですね」
「ニアか、悪くはない」
「それじゃニアよろしく!」
「うむ」
「そろそろお昼の時間です、私の部屋でサンドイッチ食べましょう」
「シルちゃんの部屋?」
「こちらです」
俺達はシルちゃんがこっそり作った部屋へ案内された。
中はピンククマのぬいぐるみが多数あった。
そして王都が一望できるテラスでお昼にする事にした。
「いつの間にこんな部屋を作ったんだ」
「いいでしょ、私のお城ですからね!」
私のお城…。
シルちゃん、お城のような所に住みたかったのかな。
ここに堂々と住める方法も考えるとするかな。
「いまサンドイッチと飲み物用意しますね」
「よろしくー」
「サンドイッチとはなんだ?」
俺はニアに天界について話した。
昔住んでいた世界がベースになっている事やその世界は既に滅んだことなど。
「なるほどな、ユビーが昔いた世界の影響をかなり受けているわけだな」
「そう言う事なんだ」
シルはリュックからサンドイッチが入ったランチボックスとコーヒーとコーンスープが入った魔法瓶をそれぞれ取り出した。
そして戸棚から大皿を持って来て、サンドイッチを盛りつけた。
ラマのアランデールがその様子をじっと眺めていた。
それに気づいたシルは餌の干し草をとりだした。
「アランデールもごはんの時間でしたね」
と言って前に置いてやると、嬉しかったのか、シルの顔を舐め回していた。
「お待たせしました」
シルはサンドイッチが乗った皿とコーンスープを並べ、ユビーにコーヒーを出した。
「ニアさん、何をお飲みになります?」
「そうだな、果実の酒はあるかな?」
「ブドウ酒でも?」
「いただこう」
オーダーを聞いたシルはリュックからブドウ酒の入った瓶を取り出す。
あのリックって四次元ポケット並みの収容力だな。
「シルちゃんお酒まで持ってきてたの?」
「ユビーさんが飲むかなと思って、エールとブドウ酒はいつも持って来てますよ」
そこまで気遣ってくれてたのか。
歓楽街は少し控えめにしておくかな…。
「神より給仕が似合っているな」
「ありがとうございます」
いや、褒めてるんじゃないと思うんだ…。
ブドウ酒も用意されたところで、俺達はいつもの「いただきます」をした。
するとニアが興味を持ったよう尋ねてきた。
「それは食事前の呪文か?」
「いえ、食材への感謝の意味を込めて言うと学校で教わりました」
「そうであったか、ここの風習という事なら私も言おう、いただきます」
魔王が「いただきます」というのは、なんだか新鮮だな。
食べ終わった後の事も教えておこう。
「あと食事を食べ終わったあとは、ごちそうさまって言うんだ。これは食事を作ってくれた人への感謝の意味だ」
「なるほど。覚えておこう」
こうして俺達3人はサンドイッチを食べ始めた。
今日はハムカツサンドもある。たぶん城が出来る日だったから嬉しかったのだろう。
「こうれは旨いな」
ニアもご満悦の様子。
俺は食べながら、今後の方針について2人に話した。
城に来る道中考えていた事だ。
この世界は冒険者を増やす必要がある。だから死なれて転生ルームに行かれたら非常に困る。
そこで俺は事故やモンスター死ゼロの安全な世界作りを提案してみた。
これを聞いたニアは、最初戸惑っていたが、やがて意図を理解できたようで賛成してくれた。
次に最初に稼働させるエリアについて話した。
この世界は草原のみで海が全くない。
そこで、このエリアの周辺に海を配置して島国にする案だ。
広さは北海道くらいを想定している。
現在の町の間隔は短すぎるので、本稼働までに移転し再配置する。
このエリアが正式に稼働後は、ニアに魔族用のダークテリトリーを作ってもらう事にした。
「そのダークテリトリーだが、どうやって作るのだ?」
「このタブレットを使って作るんだ」
「タブレット?」
俺はタブレットの説明をニアにした。
具体的な使い方は、シルが今から教える事になった。
方針を伝えたところで昼飯を終えた。
女神、元勇者、魔王の3人が同じテーブルで「ごちそうさまでした」をし、食事を終えた。
これが1週間前なら、テーブルを囲んでいるメンバーは俺、ルビー、ジャバ、スイフト、パイソンの5人だ。
そして「明日は魔王を倒すぞ」と叫んで晩餐をやっていた。
あれからたった一週間でこれだもんな。不思議だ。
シルは食事の後片付けを終えると、ニアにタブレットの使い方を教え始めた。
俺は、王都周辺の地形がまだできていなかったので、それを作るのと3つ目の町のデザインを行う事にした。
周辺は森や川を配置し、20キロ先に低い山を北を除く3方へ配置した。
これで王都周辺の地形は完成。
次に3つ目の町だ。これは海沿い配置するので先に小さな海を作った。
後にこの海を拡大させ、ここを島国にする予定。
ラフが出来る頃には夕方になっていた。
「ニアさん覚えるの早いですね」
「そうなのか?大体の使い方は分かった。あとはアプリだな」
「それは家に帰ってからユビーさんに教わってください」
「うむ、わかった」
夜は3つ目の町を作りたかったが、仕方ないか。
「シルちゃん、帰る前に王都のNPC出来上がってるので確認してー。データはもう送ってある」
「はい、確認しました」
今回のNPCは少し設定を変えてみた。
人口が増えるまで冒険者はお客様、ゲストのようなものだ。
町にいるNPCはキャストだ。
冒険者を見かけたら、お・も・て・な・しの心で接するように設定してみた。
それがちゃんと機能しているか確認しておきたい。
「せっかくだから、北門まで歩いて街の様子をチェックしないか?」
「そうですね、では行きましょう」
「うむ」
シルちゃんの隠し部屋から出て玉座の間へ移動した。
この城は冒険者なら自由に見学ができるように設定してあるので、堂々とあるける。
ここは衛兵を2人配置してある。
俺達が彼らの前を通ると話しかけてきた。
「ようこそ、キャッスルトロイへ。この城の作りは…」
城の歴史を語りだした。城についての歴史は設定してないので、AIが自動設定した歴史を語っているのだろう。
しかし、衛兵は喋らず無言で立っていて欲しいのだが…
ニアも同感だったようだ。
「この衛兵うるさないな、私の居城にこんなのいたら切り捨てるぞ」
ごもっとも、これはあとで修正しておこう。
玉座の間を出た俺達は、大広間を抜け城を出ることにした。
途中ですれ違う衛兵は、皆笑顔で城と王室の歴史を語って来た。
とても鬱陶しい。
そして城を出る時、門番が挨拶してきた。
「冒険者様、本日はご来城くださいましてありがとうございました。こちらは記念品になります」
といって、お城のマスコットキャラのぬいぐるみをくれた。
これはダメだな、完全にテーマパーク化している。俺の元世界のサービスをプログラムなのだろうか…。
「ありがとうございます!」喜んだのはシルだけだ。
家に戻ったら設定を変更しなきゃいけない。こんな城は嫌だ。
さて、次は街のチェックだな。
「みんな、街を早く見に行こう」
「楽しみですね、ケーキ屋さんあるのかな?」
「ケーキ?」
俺達は門通り町へ入った。
少し進むとひとだかりが見えてきた。
「何かあったのかなひとだかりができてるな」
「人だかりは苦手です…」
人だかりに近づいてみると、誰かが俺達の方を指さし「あっ」と言った。
その声を聞いた人々が一斉に俺達を見る。そして動き始めた。
おいおい、これはどういう事だよ。
また設定失敗したのかな。
シルちゃんを見ると、既に気絶していてアランデールが介抱していた。
視線を戻すと俺達は取り囲まれていた。




