10話、王都完成、城の名はキャッスルトロイ....
俺が最初に死んだ時の記憶が無いのは、寝ている間に殺されたからだった。女神テラに。
「ユビーさん、これ天界の調査機関にメールで問い合わせておきます」
「よろしく」
あと気になるのが(キーピングメモリー新規/転0)ってやつだな。
「シルちゃん、俺のユニークスキル殺害時に新規って書かれてたけど、これはどういう意味かわかる?」
「はい、【異世界】テラにいるとき新規付与された事になります。恐らくですが殺害時に付与されたんじゃないですかね」
何のためにスキルを?
なんで女神に?
「女神様がスキルを直接付与できるの?」
「私の知る限り出来ません。だから不思議な現象なんです」
俺は女神テラに恨まれるような事でもしたのだろうか?
特に人に恨みを持たれるようなした覚えが無い。もちろん神にも。
信仰心が足りないとか言われたら反論できないけどね。
「この件は時間のあるとき考えるとして、明日の下準備をしよう」
「わかりました」
寝るまでの間、シルちゃんは城のデザイン、俺はNPCの配置を再設定した。
そしていつの間にか寝ていたようだ。寝落ち。
◇ ◇ ◇
翌朝。
日が昇る前に目覚めたシルは、城のデザインをしている途中で寝てしまった事に気がついた。
タブレットによだれのがついてたので慌てて拭く。
しまった、寝ちゃってた。
テーブルの向こうを見ると、床にうつ伏せ状態で力尽きてるユビーが見えた。
彼もタブレットを触ってる途中で寝てしまったようだ。
「ユビーさん風邪ひきますよ」
彼からの反応はない
シルは毛布を掛けると浴室に向かいシャワーを浴びる。
今朝のごはん何にしようかな?
ごはんを温めれば、卵かけごはんもできる。あとはヒジキとシシャモがあればいいかな。
あと菜園も直さなきゃ。
シルの1日はこうして始まった。
◇ ◇ ◇
ユビーが目覚めると、目の前にノースブリッジの町が広がっていた。
あれ?
そうか、あのまま寝てしまったのか。
毛布がかかってる事に気づいた彼は、シルに感謝した後起き上がった。
「シルちゃんおはよう」
「ユビーさん、おはようございます。ほんとご飯が出来る直前に目覚めますよね」
シルは笑顔だ。
「今朝は良い卵が手に入ったので、卵かけごはんです」
「いいねー」
「いただきます」したあと、俺は早速卵を割ってみた。
オレンジ色に近い濃い色の黄身が出てきた。天界の生協はアタリが多い。
「シルちゃん、お城の方は順調かな?」
「はい、昨夜のうちに八割完成させました」
「もうひと頑張りだね、俺の方はNPCの設定がもうすぐ終わるよ」
「わかりました」
食べ終わったら王都のデザインをするかな。
時間を節約するために、予め用意されてるテンプレートの街並みと、何件か俺がデザインした家を配置しよう。
テンプレ通りだとつまらない町になってしまう。
歓楽街に遊郭も用意して、夜も楽しめるようにしておかないとね。
メイドカフェで見た妖精さんとエルフのお姉さんも作っておこう…イヒヒヒ。
「ユビーさん、鼻のしたがのびてますよ。また何か妄想してるのですか?」
「ま、まさかそんな事はないよ。王都に配置するNPCを考えてたんだ」
「昨日のエルフさんを作る気ですね!」
なんでわかるんだ!
この前も似たような事あったな。
「ほどほどにしておいてくださいね。町に入ってきなりそんな店があるのは嫌です」
「はい…」
分からないように裏通りに配置しておこう。
「ごちそうさまでした」
食べ終えると、シルちゃんは菜園の様子を見に外へでた。
俺は、NPCを仕上げたあと、王都づくりに着手。
今回参考にしようと思っている都は【異世界】メンドシーノのメンドポリス。
男神メンドシーノが司る世界で、表向きは戒律に厳しいところだった。あくまで表向き。
王都は堅牢な城壁で守られた城郭都市で、建物は高さ制限が設けられていたので、見た目も美しかった。
だが一番のポイントは街並みではなく裏通りだ。
メインストリートだけ見れば高潔で清楚なイメージ町だが、裏に入ると怪しさに満ち溢れていた。
冒険者や商人は荒野で野宿する事も多く、途中モンスターや賊に襲われ命を落とすケースも少なくない。
命がけでたどり着いた町に歓楽街が無かったら、彼らはどこで疲れを癒せば良いのだろうか?
歓楽街はそんな人たちのオアシスだ。
俺もそのオアシスで疲れを癒し、何故か命を落とした。
本当に運が悪かった。
俺の相手をしてくれた女性は、実は人妻で旦那がこっそり調査をしていたのだ。
ここでシルちゃんの声で現実に引き戻される。
「ユビーさん、キッチンでお昼に食べるサンドイッチ作るので、何かあったら声かけてください」
「はーい」
俺が彼女から癒しを受けているとき、突然ドアがブチ破られ入って来た男にぶん殴られ吹き飛んだ。
そして俺の頭は壁をぶち抜いた。気がつくと転生ルームで女神プレスコットが腹筋を崩壊させ笑っていやがった。
今思えばユニークスキルの呪いだったんだな。
そんな事を思い出しながら俺は王都づくりを進めた。
メンドポリスのような高潔で清楚なイメージはいらないので、雑然とした感じに仕上げていく。
都市のインフラは上下水道を完備とした。
町中に汚物が頃っがているのは勘弁して欲しい。
メインの街路は全て碁盤目としたが、繁華街のエリアは少し入り組んだ作りにした。
シルちゃんとデバックのため町を歩いても、すぐに見つかる事はないだろう。
こうして王都のデザインは完成した。
ここでシルちゃんの声で再び現実に引き戻される。
「ユビーさん今からお城の最終仕上げしますね」
「はーい」
あとは、NPCの配置と店舗の職種設定だ。
メインの街路は自動設定で、各種職種のお店や公的な機関などを配置した。
裏側も、繁華街以外はアパートや小規模な酒場があるエリアなどを均等に配置した。
歓楽街の特定地域は俺の趣味100%で細かく配置する。
「ユビーさん、そのアホ面なんとかしてください」
「え?」
俺は思わず手を顔にあて輪郭を再確認してしまった。
毎度ながらユビーちゃんの冷たい視線が心に突き刺さる。
だがここで負けてはいけない。
顔を元に戻した俺は作業を再開した。
王都市街地のデザインを終えた俺は、外郭の城壁作りに着手した。
シルちゃんの作るお城は間違いなく防御性ゼロ、習志野の海沿いにある城に違いない。
だから城壁だけは堅牢な物にしたかった。
実はメンドポリスは城壁も優秀だった。
しっかりした石組みの高さは30メートル、城門も頑丈な鋼鉄製だ。
中型の巨人が攻めてきても耐えれるだろう。
しかし大型巨人や奇行種はジャンプして飛び越えるかもしれない。彼らが現れないことを願うばかりだ。
城壁内部は、兵士の宿舎や訓練場も配置。
それと外部へ非常用脱出路も設置しておいた。
城主は不在状態にしておき、冒険者が王になりやすいように工夫しておいた。
転生時のスキルには、ステータスを継続できる物もある。
勇者タイプの冒険者がやって来ることを祈ろう。
「これでよし、シルちゃん王都完成したよ。今から送るね」
「はいわかりました。設置は現地に行ってからでもいいですよね?」
「うん、そうしておくれ」
俺は送信を押し全ての作業を終えた。
「ユビーさん、私のお城はもう少しかかるので、今の間にシャワーを浴びたらいかがですか?」
「そうだね、昨日風呂に入ってなかったし、そうさせてもらう」
俺は着替えを持って浴室へ向かった。
◇ ◇ ◇
うーん、お城のデザイン難しいですね。
ユビーさんは頑丈な城にって言うけど、この世界に訪れた冒険者が初めて見るお城ですから。
夢のあるお城にしたい。そう、天界の海沿いにあるアノお城のように。
うーん、屋根の色はピンクにしようかな?
壁は白色で、塔は25本にしようかな、あと窓はステンドグラスにして、私の専用部屋も作っちゃおう。
部屋から王都が一望できるの。
シルは城のデザインを完成させた。しかしそれはユビーが危惧した通りとなっていた。
◇ ◇ ◇
出発の準備が整って2人は家の外にでた。
俺達の気配を感じたアランデールが近寄って、シルが乗りやすいようにしゃがむ。
それから転送コマンドを使用し王都予定地へ向かった。
転送されるとき、自身の体が消えて行くのは今でも違和感がある。
気持ち悪いので数秒目をつぶる事にした。
「ユビーさん着きましたよ」
シルちゃんの声で目をあけると何もない草原が広がっている。
彼女はタブレットを操作すると半透明の王都が現れた。
「すごい迫力ですね。私のお城も見えてます」
そういや完成した城見てなかったな。
ピンク色の屋根かよ、歓楽街の怪しい店の外塗装と変わらないな。
「早く《Okay》を押そう、町を歩いてい見たい」
「そうですね」
お馴染みの「ポン」という音と共に実体化された王都が現れた。
「中に入ってお城まで歩いてみよう」
「そうですね」
俺達は巨大な城門と分厚い城壁をくぐり市街へ入った。
城門はバイオス方面につづく北門と3つ目の町(未設置)へつづく南門、4つ目の町(構想段階)へ向かう東門、合計3つ設けた。
街路もそれに合わせ、南北と東西に設置し王都の中央部で交差するように配置した。
メイン街路は幅16メートル確保しており、歩道と街路樹を配置。
城は一番西側の掘りに囲まれた中にある。
厩舎と荷受け場各城門に配置し、不要な動物などの市街地への流入を防ぐことにした。
「これなら誰に見せても恥ずかしくない町ですね」
裏路地も立派なんだよと言いたかったが、黙っておいた。
「ここが中心点で、銀行や商会の本店などが集まっているんだ」
「なるほど、立派ですね」
俺達は中央部の交差点を西に曲がり城を目指した。
正面にはピンク色の屋根が異常なほど目立つ城が見える。
なんというか、俺が昔いた世界のラブホのようで、ちょっと嫌だった。
天界にいた時に実物を見せておけばよかったと後悔している。
外郭の城門に比べたら、とても薄っぺらい門をくぐり石橋を渡ると城に到着だ。
名前まだ決めてなかったな。
「シルちゃん、お城の名前は決めたの?」
「はい、トロイにしようかと思ってます」
キャッスルトロイ、確実に落城する気がする。しかも内部から。
シルちゃんトロイの木馬を知らないから、そんな名前にしたんだろうな。
「いい名前じゃないか、それにしよう」俺は棒読みで答えた。
「決定しました!」
しかし予想以上にラブ、否、メルヘンチックな城だな。
ステンドグラスも使ってるし、巨大なシャンデリアに魔石ランプが使われていて明るい。
俺達は大広間を抜け階段を昇る。やがて見えてきたのは玉座の間の扉だ。
あ!これは【異世界】ノースウッドの魔王の間と同じ入口じゃないか。
もう嫌な予感しかしないな。
「ユビーさん入ってみましょうよ」
「う、うん。そうだね。誰かいたら怖いよね」
「出来たばかりなのに、誰もいませんよ」
シルちゃんに笑われた。
扉を開けて中に入ると、入口から奥へと順番に火桶から炎が現れ、部屋が明るくなっていく。
なかなか凝った演出だった。って、魔王城と全く同じ展開だよ。
一番奥の玉座に魔王ウィラメットはいなかったが、ダークエルフが座っていた。
「誰?」




